アフター 閑話 プチ同窓会1

「えーっと、ここかな……?」


 目の前の看板と、ラインで送られてきたお店の名前を確認してみる。うん、どうやらここのお店で間違いないみたいだ。会うのもすごく久しぶりだけれど、みんなどうしてるかなぁ。

 時間を確認してみると十八時ちょうど。集合時間ぴったりになってしまった。『さくら庵』と書かれたお店の看板をもう一度確認すると、僕はその扉を開けた。


「いらっしゃいませー」


 店員さんの明るい声に迎えられて、中へと入っていく。暗めの照明に流れる音楽も相まって、雰囲気のあるお店になっている。入ってすぐ左側は個室になっているみたいだけれど、人影は見当たらない。もしかして奥のテーブルかな。


「お、来たかな。おーい、こっちだ黒塚!」


 聞こえてきた声に懐かしさを感じながらお店の奥へと入っていく。テーブルから通路側へと身を乗り出していたのは早霧さぎりだ。なんだか昔より筋肉質になってる気がする。


「お待たせ。……一応間に合ったかな?」


「間に合ったんじゃない?」


 黒川がひらひらと手を振りながら僕を迎えてくれる。仕草がすごく色っぽくなっていて、以前の雰囲気はあんまり感じられない。……ってそういえば、もう黒川じゃないんだったっけ?


「時間通りに全員集まるほうが珍しいし、いいんじゃない?」


 冴島さえじまの体型は昔から変わっていないみたいだね。痩せようと思ったことはあるみたいだけれど、結局失敗したのかな?


「黒塚くん、お久しぶりです」


 二コリとほほ笑んでくれたのは霧島だ。すごく大人っぽくなってるなぁ。やっぱり高校卒業から十年経つとみんな変わるね。冴島とは半年前くらいに会ったけれど、他の三人とはほんと久しぶりに会う。

 大学はみんなバラバラになって、学生の間はたまに会うこともあったけれど、就職してからはめっきりと会うこともなくなってしまった。


「あれ? 黒塚っち今日は一人?」


 席に着くなり早霧・・が声を掛けてくる。確かに今日は僕一人だ。幹事の早霧には伝えたと思うけれど……。ってこれじゃどっちの早霧か区別がつかないな……。今は黒川のままでいいか。


「すずは二人目妊娠中だからね」


「えっ!? そうなの!」


「俺たちの子どもは実家に預けてきたからなぁ」


「まぁまぁ、積もる話はあとにして、そろそろ始めようか」


「そうですね。……すみませーん!」


 冴島の言うように、とりあえず話の続きは始まってからでいいかな。僕もお腹空いてきたし。霧島が店員さんを呼ぶと、僕たちのプチ同窓会――飲み会が始まった。




「「「「「カンパーイ!」」」」」


 全員にいきわたった飲み物がテーブルの中央でぶつかり合う。四人はビールだけれど、早霧だけ日本酒だ。『十四代』と書かれた一升瓶がテーブルの上に鎮座している。


「いきなり日本酒かー」


「この店は日本酒がうまいんだよ」


「へぇ、そうなんですか。じゃあ次は私も頼んでみようかな」


「ぷはー! 久しぶりのビールはいいね!」


 最後に黒川が良い飲みっぷりだ。高校時代はよくこの五人で遊んだけれど、こうやって全員揃って飲むのは初めてかもしれない。


「冴子ちゃん、母乳はもう終わったんだ?」


「そうなのよー。やっと卒業したから、私もアルコールを解禁ってわけ」


 すごく上機嫌かと思ったらそういうことか。


「そういえば子どもはいくつだっけ?」


「一歳と二ケ月になったぜ」


「もう一歳かぁ。早いなぁ」


 生まれたときの写真がラインで回ってきたけれど、今じゃもう歩くようになっていそうだ。他人の子どもは成長するのが早いからね。


「はーい、お待たせしましたー。お刺身の盛り合わせですっ! 五名様なので五人分になってます」


 中央に置かれた刺身は、マグロやタコに鯛といろいろ盛りだくさんだ。おろしたてのわさびとカットしたライムに、添えられたピンク色の小さい花がアクセントになっていて見た目でも美味しそうだ。何より五人分というのが嬉しいね。


「そういう黒塚んとこは何歳だっけ?」


「うちの子は三歳だね」


「へぇ、ねぇ二人とも子どもの写真ないの?」


 霧島の言葉に僕と黒川がスマホを取り出すと、それぞれ子どもの写真を見せる。……前にお刺身の写真撮っておこう。……すずに送信っと。


「うわー! かわいい!」


「へぇ、ちっちゃい黒塚くんがいるよ」


 スマホには早霧家の長男が写っていた。リビングで歩くようになった姿はすごくかわいらしい。

 こうやって一歳児を見ると、うちの子も大きくなったなぁと思う。ぜひとも僕よりも大きくなって欲しいところである。

 刺身を食べながらお互いに子どものことで盛り上がっていると、次の料理がやってきた。


「お待たせしました。水なすときゅうりのサラダに、カレーポテトサラダです」


「おー、美味そう」


 手でちぎった水なすときゅうりに、トマトと塩昆布を散らして胡麻が振りかけられている。ポテトサラダはカレー風味なのかな。


「いただきまーす」


 五人で一斉にそれぞれの料理に手を出して口に入れる。


「うおっ、これもすげー美味い。ちょっとこのお店は当たりじゃない?」


 体格からも食いしん坊とわかる冴島の言葉に、みんなが首を縦に振っている。きゅうりと水なすが止まらない。旨みたっぷりのドレッシングに塩昆布がすごく合う。

 カレー風味のポテトサラダは……。あ、これって福神漬け? ラッキョウも入ってるっぽい。ポテトサラダの中にたまに出てくるカリッとした食感が、カレーソースと相まってすごくいい。


「お飲み物が空いてるようですけど、次はどうしましょうか?」


「あー、じゃあオレは日本酒を」


「あ、私もー」


「同じく」


「じゃあ僕も」


「あはは、結局全員ですねー。どんな感じの日本酒がいいとかありますか? 飲みやすい系とか、フルーティーなものとかいろいろありますよ」


 店員さんの言葉に僕らは思わず顔を見合わせる。甘口辛口くらいしか知らなかったけれど、いろいろあるみたい。

 というわけで僕らはそれぞれ好みの日本酒を注文していった。

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