第十二節

 ザックは思考を止めた。

 ただ、大剣を好きなように振り、加速させ、身体を振り回せばいい。


 ――主役はティターン、そういう事だろ……!


 再び上に振りかぶり、加速と共に駆け出す。

 大剣が前に行きたがるのを、全身の筋肉を使って必至にこらえる事により、速度は加速していく。

 狼は動かず、好機をじっと待つ。

 微動だにしない狼に、高速の一振りを開放する。

 だが大振りである以上、避けるのは容易い。狼はただ右に、体をずらして避けていく。

 大剣が左側で振り下ろされるのを横目に、左の短刀で胴体に切りかかる。

 同時にザックは、跳躍していた。

 跳躍したザックが眼前から消え、空振りに終わる。何故だと見上げたが、そこにザックは居ない。

 自分の左で、大剣が地面を叩く音がしたが、見ればそれは切っ先だけだった。

 だが、ザックの影は地面に映っている。ティターンを軸にして、ザックは縦に回っていたのだ。

 綺麗なブリッジ姿勢で向こう側に飛んでいき、切っ先が外れて着地する。そのまま右から左へターンしてからの薙ぎ払いを行った。

 回避してから間のない反撃に、狼は対応していく。

 足元を狙ってきた大剣は、後ろに跳んで回避、着地と同時に、前面に体を押し出す。

 空振りしたザックは、加速の勢いを更に強めて一回転、再度の薙ぎ払いを行う。

 狼は、上半身を狙ってきた大剣の下に突撃し、長剣の間合いに入る。空いた正面の腹部に長剣を突き立てた。

 確かに感じる肉の感触に、勝利を確信する狼。

 だが、そう思うと同時に、二回の加速音を聞いて、意識は途切れた。

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