第十一節

 そうだザック。それが加速術式の意図だ。


「お爺様……! 今のは一体――」


「あれが、加速術式の可能性だ」


 アルビドの言葉に、首を傾げて分からないというアピールをする。

 加速によって推進力を得て回っただけに過ぎないそれに、どんな可能性があるのか、ティノには分からなかった。


「どういう事ですか?」


「人間が得物を加速させ、威力を発揮すると前に言ったな?」


「はい。切断力にせよ、打撃力にせよ、威力を発揮するには、振るための加速を人間が行うというのは、理解しまし……」

 そこまで言って気付く。


 ならば、大剣自体が加速したらどうなるのか。

 それは大きな隙となっていた、身体の固定化から解き放たれることになる。

 その結果は目の当たりにした。

 例えば先ほどの、跳躍距離が伸びた現象。

 あれはティターンを振りかぶった事により、峰は地面を向いた。それは下向きに推進力が加わる事を意味し、跳躍距離を伸ばす事に繋がった。

 今の滞空中もそうだ。刃物が威力を発揮するには、攻撃の起点となる地面に、脚が着いていなければいけない。

 それを加速術式が覆した。術式一つで、今までの常識を壊したのだ。


 最後言い切る前に、突然考え始めたティノの表情を見て、

「分かったかの?」


「まだ何となくですけど、こんな感じだろうっていうのは分かりました。後は間合い、ですね」


 そう、間合いだ。あの大剣は、勢いが乗ってなければ、ただ切れ味が鋭い鉄板。

 その初動を、何かの要因によって抑えられれば、威力は発揮しない。


 ――けど、これはどの刃物にも言えますね……!


「そこは技量で変わってくる。問題はザックが、どんな体勢でも叩けるんだと気付き、物に出来るか。……見ものじゃのぅ」


 加速の大剣に必要な間合い。

 これは本人の技量次第だと割り切るしかない。一番のインパクトを放てるか、時の運もある。もちろん十分な速さに乗った大剣であれば、どこでも当たれば脅威だ。

 故に狼は受けるのではなく、回避に徹している。

 だからこそ、今は当てるだけでいい。当てることだけに、意識を傾けてればいい。


 宙を舞い、身体を捻り、腕を捻り、峰の向きを変え、振り回されるように、操るんだ。それを可能にしなければ、ティターンを使う以上は一生勝てない相手が、目の前に居るぞ……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る