第十節
ザックは大剣に、振り回されかけていた。
狼に大剣を当てるために、ひたすらマナを流して加速させる。
しかし、その全ては回避され、反撃される。
どのような意図で、ティターンに加速術式を刻んだのか。初めて聞いたときは、ただ大剣を速く振れるだけと思っていた。
それは事実として振りは大きくなり、比例して引っ張られる力も大きい。
カウンターで放った、振り回される事を覚悟した回転切りも、容易く避けられてしまった。
何度か攻撃を放ち、反撃を回避していく内に、今まで通りではダメだと悟っていく。
――ならどうする……!
ザックの右から左への薙ぎ払いを、大きく後ろに跳んで回避し、対峙する狼。
どう攻めるか、狼も考えているのだ。
いくら短刀を振るっても、小盾に防がれるか大剣に身体を引っ張らせての回避で、一度も決めきれていなかった。そのため一度距離を取って、思考している。
模擬術式とはいえ、その短刀は当たれば切れるし、下手をすれば致命傷を負わせてくる。術式自体に保険は掛けられているが、痛いものは痛い。
このまま思いつかずに居れば、いつか詰みを突きつけてくる。その前にと何度も考えるが、答えは出ない。
――直感のままに、やるしかないか……!
そう腹を括ったザックは、対峙する狼と距離を詰めていく。
大剣を上に振りかぶり、跳躍を加えた加速の大剣。だが、加速させた瞬間に異変を感じる。
跳躍による着地位置が、伸びたのだ。
ザックの身体は飛距離を伸ばしていき、イプロスにぶつかりかけるも、右にステップして避けられる。
狼は驚いてステップしたが、当の本人は唖然としていた。
今は戦闘中、呆けてる場合ではないとすぐに意識を変えて、襲い掛かってきた狼に対応する。
――今は距離を取らないと……!
どうしても今のを整理したい、その時間が欲しかった。
だが狼は許さない。
ザックの右回りから放たれる回転切りを、狼は潜って回避し、右の短刀で突きにいく。
これに対し、アイギスで防御するが、やはり左の短刀が追撃に来る。
軸足で高く跳び、身体を浮かして後方に流れようとするが、狼は追いかけた。
跳んでしまったザックに、回避行動が取れない一瞬が生まれる。
狼は、右の短刀を投げ放つと同時に、背の長剣を抜いていく。
対しザックは緩い回転を伴い、背面に短刀が向かった状態。
何とか、小盾の端でそれを弾くことはできたが、狼の追撃を防ぐ術が無い。
十分に距離を取るために、高く跳んでしまったのが仇になった形だ。
「クソッ……!」
ザックは後先考えず、ティターンを最大加速させた。すると、推進力を得た大剣は、柄を握っているザックを軸にして、独楽のように回りだす。
突然回りだしたザックに、右から大剣の刃が回ってくる。突然の出来事に、慌てて後方に跳んで回避する狼。
その間、地面に回った跡を引きながら滑っていくザック。
今の何だ。俺っち何もしてないのに、身体が勝手に回った……?
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