押間家恋愛論・2

「ただいま戻りましたわ。」

「「ねえさまおかえり〜!」」

「あら紅、おかえりなさい。」


家に帰ると、出迎えてくれたのは双子の妹と姉だった。ちょうど一回り歳の離れた妹たちはやんちゃ盛りで、二人で知恵を絞っていたずらを考えるのが最近のブームらしい。三つ上の姉はおしとやかで、儚い雰囲気の人だ。しかしそんなイメージとは真逆で、病気の一つもしたことがなく、押間家の中でも一、二を争うほどよく食べる。男性とほとんど変わらぬ量の食事は、一体その細い体のどこに消えているというのか。


荷物を自室に置いて着替える。週明けに提出の課題を片付け、自分に割り振られた書類に目を通したらあっという間に夕食の時間だ。押間家では、できるだけ家族揃って食事をするルールだ。無理に進めないといけない仕事も無いのでダイニングに向かう。祖母と母がせっせと用意しているのを手伝い、ようやく席に着く。今日は珍しく全員が揃った。


いただきまーす!

こら、伸ばさず言いなさいな。

いただきます!!!!!!

お父さん、騒がしいわ

いただきます…

いただきます。

はいいただきます。



それでは押間家の家族構成を紹介しよう。

まず正蔵しょうぞうくれ

紅から見て祖父母に当たる。お互いに一目惚れらしいが、奥手な正蔵を暮が常にリードする形でゴールイン。今でもめでたくラブラブ夫婦である。


次に、九郎くろう雪子ゆきこ

二人は、紅と姉、そして双子の妹の両親である。学生時代、九郎の先輩だった雪子に猛アタック。暴走しがちな九郎のストッパーを務めきることができるのは雪子だけだと常々言われる夫婦である。


そして私の姉、香夜かや。物心つくよりも先に幼なじみに恋をした彼女は、彼が最終的に自分を選んでくれるようにと自分を高める努力を怠らず、今すぐに家を出て一人暮らしを始めても、あるいは嫁に行ったとしても、一人前以上の結果を出すだろう。そんな彼女の幼なじみは、出会ってからずっと香夜に夢中だ。聡明で美しく、努力家で一途。私も、姉以上の女性などそうそう存在しないと思っている。


最後に、双子の妹。姉が来海くるみで、妹が来花くるか。ルミルカちゃん、というあだ名で近所のおば様、おじ様方からえらく可愛がられている。一卵性双生児の為顔立ちはそっくりだが、よくよく見ると小さなホクロの位置が逆なのだ。向かって左側に泣きボクロがあるのは姉の来海、右側にあるのは妹の来花である。幼稚園では大人気らしく、男の子同士で二人を巡っての争いが起こっているらしい。




さて、今までの説明でうっすら分かっていただけたとは思うが、この家族、恋愛面においての説明をしようと思えばいくらでも出来るほどにそういった話が絶えない。もちろん相手が変わることはないし、穏やかにラブラブらしいエピソードを語るぐらいだ。しかし、紅は?と思った方、ご安心ください。彼女もまた、運命を感じる相手を見つけたようですので。




「あの…皆さんに教えていただきたいことがあるのですが」

「あら、どうしたの紅?」

「お父さんに言ってみなさい」

「姉を頼ってくれてもいいのよ」

「じいじだって頼りになるぞ〜!!」

「その、ですね」



「恋とは、どのようなものなんですか?」


…?

え、恋?

紅が、恋、だと…!?

お父さん落ち着いてください、口から泡を吹いてます

あら、あらあら、あの紅が、恋。そう…。あらあら…。

おじいさまがしろめをむいてる!

おばあさまどうしましょー!!


ワイワイ、ガヤガヤ。


「紅。まさかあなた…恋をしたの?」


てん、


てん、


てん、、、、





ポッ。





「恋だ間違いない!!」

「誰だワシらの大事な孫娘に手を出したのは!!!!」

「お父さん落ち着いて!!」

「はい正蔵さん深呼吸してくださいね」

「紅…姉は嬉しく思いますよ。ついに嫁入りですか…。」

「べにねえさまおよめにいっちゃうの…?」

「るみさびしい…」

「るかも…」




恋とはどんなものですか?からかなり話がぶっ飛んだことに突っ込める者はこの場にいない。みんなおかしいのだ。長年お世話になっている家政婦の長澤さんだって部屋の隅で目尻に涙を浮かべている。そう簡単には収拾などつきそうもない。今日の押間家の夜は、随分と長くなりそうな予感がする。





押間家恋愛論、その2。

「初恋は最初で最後の恋だと思え。」

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押間家の押しまくれ恋愛論 スライム @slime0906

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