四 美しき姫

 昔むかし、とある一国の城にそれは大そう美人な姫が居ったそうな。

 どの諸国からも嫁に欲しいと評判だった。しかし、そんな姫には秘密があった。

 その数ヶ月前の話。姫の美紀はあの世とこの世が繋がる門へと家来を連れて出かけた。

 その帰り、美紀は大そう綺麗な花の蕾に気付いたそうな。それが春花(しゅんか)だったのだ。

 美紀は蕾をちぎらずに、咲きかけた花の中を見た。

 そこには、赤子の掌(てのひら)くらいの精霊が眠っていた。


 美紀は可愛い精霊を起こして何か話でもしようとした、その時だった。

 精霊の体と美紀の体は、入れ替わってしまったのである。

 そのまま精霊になってしまった美紀のいる蕾は、閉じられてしまった。

 そして美代が目覚める。家来達が見た美紀の体は、前よりいっそう美しかった。

 美紀の家来に言われるままに。化粧箱から鏡を取ってその身を見る。

「これが私? 何て美しい」


 それから、美代は、美紀の記憶から自分が一国の姫だと知った。

 奉公人だった自分が姫になってしまった。その事実に美代はいっそう驚いたそうな。

 美代は自分が美紀ではない事など、誰にも身の内が割れはしないと思っていた。

 一国を挙げて、両親の大名も美紀の祭りを執り行うほどである。しかし。

「貴女は、美紀ではありませんね」

 美紀の母。喜代乃にはいつもいた娘とは違うことに気付かれてしまったのだ。

 美紀の体をどのように奪ったのかと、喜代乃に問い詰められる美代。

 美代は、自分の名は告げずに春花の蕾の事を教えた。

 実の娘がそのような所に、精霊となって閉じ込められている事を知った喜代乃は嘆く。

「あれ程、触れてはなりませんと言ったものを」

 喜代乃は再び美代に春花のもとへと行くように命じ、娘を取り返そうとした。


 春花のもとへ行き、その蕾を開けても美代には精霊となった美紀の姿は映らない。

 一度体が入れ替わった者同士では、二度と同じ体には帰れないのである。

 その事を知らされ、さらに涙した喜代乃は娘の姿などもう見たくは無いと、尼寺へ追放する。

 美代は今までの暮らしから、質素な尼の暮らしになってしまったが、その暮らしに慣れる内に精霊の魂で授かった綺麗で清い体が幸いし、尼寺の住職に麗心(れいしん)と言う名を貰う事が出来たそうな。


 それから麗心と名を改めた美代は、各地の寺を旅し『尼の麗心』と各地に名を残した。

 慈悲深いとてもいい尼さんであったと、ずっと伝えられているそうな。


 終

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咲かない花 星野フレム @flemstory

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