エピローグ

 結局ドロレスとナボコフの目撃談が流れ、二人を逃がしたことがばれて知事に三時間尻を揉まれ続けた咲哉の月曜は憂鬱だった。クラスメートがまた日陰を作ってくれようとするのを真顔で退けると、机の中に見覚えのある便箋が入っている。そしてやはり見覚えのある字があった――午後一時、裏庭で。

 購買で買ったマスクをしながら指定通りの時間に向かってみると、今度は彼女――オルガンの方が先に待っていた。

 もうあれはしないよとくすくす笑われたが、安心はできない。彼女はまだ、ゾンビ志願なのだから。

「適当に成長して自分の命や親の命にもその気になれば白黒付けられるようになった。だから自分は灰色になって白黒の世界から弾かれるべきだと思ったんだ。でも、ああ言うゾンビもいるなら、もう少し生きてみようかと思う。ゾンビを守る人間として、たまには邪魔もしてみようかと思う。だから家に付けた盗聴器は外さないでね、咲哉君」

「付けてたんかい」

「付けていたのです」

 くふふっと、恐らくクラスメートの誰もが見たことのないだろう顔で笑う少女は、どこか大人びたようだった。

「まあこれをあげるから、今回の事は水に流してよ」

 手製のカバーが掛けられた本を胸に押し付けられるように渡され、きょとりと咲哉はその中身を見る。

 完全自殺マニュアルだった。

 地味に古い。


 オソレンジャーを託された時、前任者は果たして家族を失ったのか、それても彼女はあくまでつなぎでしかなかったのか。目の前の少女の嬉しそうな顔に少し胸をどきりとさせながら、咲哉は考える。子供が好きな宝刀。自分達を童と呼ばわる宝刀。

 いつか彼女を次に託す日が来る。多分誰かを愛して。それはあのゾンビ二人のような、どこか眩しい愛なのだろうか。まだまだ遠そうではあるが、今日も自分達は一日ずつ大人になって行っている。あのゾンビ達には出来ない尊い一日の積み重ねを。いつかは自分もオルガンも、大人になるから。


 駆け落ちしたゾンビ達の話はまだまだガールズトークの中で生きている。今日のゾンビパウダーの飛来率は、やや強め、だった。

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戦え! 恐山戦士オソレンジャー ぜろ @illness24

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