第28話 夕暮れの中に

 翌日、おばあちゃんは無事退院となった。


 鉄とユキが一緒に来た。

 おばあちゃんはユキの変化に驚いていた。

 ユキは鉄に頼りっきりで、鉄を見る目が情熱的だった。

 そして今日は鉄も様子がおかしかった。

 相変わらず不器用だったが、ユキに対する優しさが随所に現れていた。


 ユキもやっと鉄さんの良さに気づいたんだね、と心の中で思った。


 病院の外に出た三人はおばあちゃんの歩調にあわせゆっくり歩きながら

にぎやかに帰った。


 おばあちゃんは感慨深く言った。


「よかったわぁ……」


「へ……?」


「ん?」

 

 鉄とユキは何が良かったのかを聞き返した。


「それは決まってるでしょ?」


 と自信ありげに答えた。


「ウチに泥棒に来てくれたことよ!」


「あっ、それ賛成!」


 二人が嬉しそうに笑うのを見て、鉄の顔が真っ赤に染まった。

 

 オレンジの空に三つの影がまっすぐのびていた。

 鉄はようやく幼少期から抱いていた、夕暮れ時の寂しさから解放された気がした。


【完】

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泥棒鉄 らも @ramo_rock

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