第27話 帰路

 鉄とユキは面会時間ギリギリまでおばあちゃんの病室にいた。

 そしてようやく帰路についた。


「鉄さん、ごめんなさい」


「え?」


「鉄さん、ごめんなさい……。ごめんなさい」


「ええええ?」


 ユキは泣きながら謝り、そして鉄の胸に飛び込んだ。

 鉄は驚いた。

 鉄はどうしていいのかわからなかったが、背中を優しくなでた。


 しばらくそうしていたが、鉄は恥ずかしくてユキを離した。


「ユ、ユ、ユキさんの顔が油まみれになっちまうぜ」


「ホントね」


 そういって二人で笑った。


 鉄はいつもそうだった。

 恥ずかしさをユーモアで返すセンス。

 自然と出る優しさ。

 本当の意味で私を大事にしてくれているのは、鉄さんしかいない。

 とユキは思った。


「鉄さん、明日、暇?」


「お、お、俺っち、明日は今日の代わりに出勤だよ。その後、ばあちゃんのお見舞い行かなきゃ。退院だし一人で帰すわけにゃいかないよ……。ばあちゃん寂しがってしまうよ。あぁ見えて寂しがりだからな、ばあちゃん」


「鉄さんは私のためには会社やお見舞い、休んでくれないの?」


「え、ええ?お、お、俺っち、あ、明日、は、厳しいなぁ」


 ユキはクスクス笑った。


「私ね、今日真壁さんに『さよなら』って言ったのよ」


「そ、そいつはいけねぇよ……。あんな良い人いねぇよ。あの人は、今日楽しみにしてたのに、ユキちゃんのために病院まで付き合ってくれたじゃねぇか……」


「あら、鉄さんは会社休んでくれたわ」


「そうだけれども、でも真壁さんはお金もあるし、立派に仕事もしてるしよ、俺っちみたいな不恰好でもねぇ。ユキさんと並んでも立派にお似合いの……」


「鉄さん。私ね、真壁さんにいったの。『私、鉄さんが好き。だからごめんなさい、さよなら』って」


「へ……?」


「言ったのっ!『鉄さんが大好きです!』って」


 ドコンという鈍い音と共に鉄がうずくまっていた。

 電柱にぶつかったのだ。


「いてててぇぇ……」


「もう、本当にバカね、鉄さんて……」


「俺っち、危なかったよ。頭蓋が割れたんじゃねぇかな。電柱に頭打って入院だとますますバカだって言われちまうな……」


 ユキは笑った。

 そして再び鉄に抱きついた。


「鉄さん、大好きっ!」

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