遠距離恋愛
Erin
遠距離恋愛
アメリカの留学期間が、終わった。
久しぶりの日本の空気、食べ物はどれも私を安心させた。最初の数ヶ月はホームシックとやらでかなり苦しめられていたが、同じ留学仲間のみんなのおかげで、楽しく過ごせた。
遠距離中だった彼氏とは一ヶ月に一回、スカイプを通して話していた。画面の向こう側の彼は変わっていなくて安心していたが、半年くらいから彼が早めにスカイプを終わらすようになった。理由を聞くと、「最近バイトが忙しいんだ」と返された。その時の私は、何も疑わずその理由を受け入れた。でも、今思うと、本当なのかわからなくなった。気の晴れない感情のまま。私は彼氏に帰ってきたことをまだ言っていない。サプライズをしようと、合鍵を使って彼氏の家に入り、帰ってきたら私がいたという計画を立てている。
実行しに、早速合鍵で彼氏の玄関を開ける。
彼の部屋には、スカイプでよく見る綺麗に片付いた本たち。小説もあれば、彼が好きな建設についての本もたくさん並べられていた。
「あれ……?」
その本棚から少し浮き彫りにされた本が一冊。手に取り、表紙を見ると、『浮気がバレない方法』どデカデカと書かれていた。
まさかとは思っていた。でも考えなかったのに。彼が浮気している……?
信じられなくて身体が固まっていると……。
ガチャ
扉が開けられる音。彼氏が帰ってきた。
彼氏を迎えるはずが、思わずベッドルームのクローゼットに隠れてしまった。
近づいて来る足音。二本足の音にしてはバタバタとうるさかった。
バタンとベッドルームの扉が閉まる。
クローゼットの隙間からベッドのあたりを覗くと、明らかそこに、彼の隣に女がいた。
「今日で、最後だね」
上着を脱ぎながら女は言った。
最後って何? 会うことが? それとも……。
既に気づいていたのかもしれない。
二人は、恋仲ではないが、危ない関係であること。
「そうだな」
彼は上半身裸になり、女をベッドに押し倒す。
そこから何が始まるかは想像できるだろう。
その光景を瞬きせず、クローゼットの隙間から眺めていた私も、相当おかしい。
お互い気持ち良さそうな声を発していた。
ただ、気になることが。
彼は私の名前を、女は別の男の名前を口から出していた。私の名前が呼ばれるたび、胸に針が何本も刺されるように、チクチクと痛む。
私の名前を呼んでいるのに、何故君の相手は別の女なの……?
考えるだけで胸が、頭が痛い。
ピロリン☆
途中、女のスマホが行為を止めるように、うるさく鳴った。
彼女はすぐスマホまで駆けつけ、届いたメールを調べる。
「彼氏が今私の家に着いたって! よかった、やっと帰ってきたよ〜!」
「おお、よかったな」
「君の彼女はまだ帰ってきてないの?」
「あいつのことだから、知らせずに会いに来るよ」
「そっか。私のわがままに、付き合ってくれてありがとね」
「俺こそ、ありがとう」
彼女は光の速さで着替え、光の速さで部屋を飛び出す。まるで、この時を待っていたかのように。
彼は脱いでいたシャツをもう一度着ると……。
「いるんだろ」
その低い声は、間違いなく私に向けられていた。
私はゆっくりとクローゼットから出た。
「全部……見てたよ」
「やっぱりか……」
彼は私に近づき、私の両手を手に取る。
「これにはちゃんとした理由があるんだ」
説明されなくても理由はわかっていた。むしろ私が説明したいくらい。
「あいつの彼氏も留学しててさ。お互い欲求不満だったから、お前らが帰って来るまで、寂しさを紛らわせるために、そういう関係になっていたんだ。許されないことをしたことはわかってる。でも許してほしい」
なーに矛盾したことを言ってるんだこいつは。と思ったけど、本当に今日が最後なら、行為中に私の名前を呼んでくれたから……。
「……本当に今日で最後?」
「うん、最後」
「なら……許す」
そう言うと、ぎゅっと抱きしめられる。一年ぶりの彼の温かいぬくもり。
「ただいま……」
「……おかえり」
私たちはまた、スタート地点に戻った。
ーーーーーーー
「そういえば、あの子の彼氏はどんな人なの?」
「あー、たしか……」
彼が写真をスクロールしていく。
「あ、いた。たしかこの人も留学先がアメリカだったな」
と言い、スマホの画面を私に見せた。
そこに写っていたのは先ほどの女性と、留学仲間の男性。
「あ、私この人と同じ留学先だったよ」
「じゃあ知り合いだったのか! 世界って意外と狭いんだな」
「そうだねー」
その後は彼に留学先での出来事をたくさん話した。
でも一つだけ、話せないことがあった。
これは一生の秘密。
……私も、寂しさから逃れるために、彼と夜を過ごしていたことを。
遠距離恋愛 Erin @Little_Angel
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