3大欲求の国「睡眠欲」「食欲」「性欲」「 」

ちびまるフォイ

俺が入るならこんな国

人間の欲求は底が知れない。


とめどない人間の欲求に答えるため、

世界は18歳を超えるとどの欲求国に属すかが決められる。


「お前、どの国にする?」


・食欲

・睡眠欲

・性欲


「うーーん……睡眠欲、かなぁ。なんだかんだで一番健康的に過ごせそう」


「俺はだんぜん食欲! いつでもどこでも好きなだけ、好きなものを喰える方が

 ずっと幸せに決まってんだろ! じゃあな!」


18歳の誕生日、俺は友達とわかれて睡眠欲の国に入った。


「ここが睡眠欲の国かぁ」


街のいたるところには眠れるようにカプセルや個室が用意してある。

公衆トイレの数よりもずっと多い。


『この国では眠くなったらいつでも寝ることが法律で守られています。

 あなたの睡眠欲は際限なく満たすことができます』


案内アンドロイドが解説してくれる。

公共交通機関は"運転手睡眠中"とかで遅れたりするのが日常茶飯事。

どこかおおらかな風土があった。


「すごいな、さっそく寝てみよう!」


仕事も宿題もなにもかもかなぐり捨ててひと眠り。

やっぱり睡眠欲の国を選んでよかった。


睡眠欲の国に入って数週間。


朝は好きなだけで二度寝できるし、お昼寝もし放題だが……。


「うう……ごはん美味しくない……」


飯はまずかった。


「しょうがないだろ。美味しい食事は食欲の国に流れてるんだ。

 この国では睡眠欲がいつでも満たされるかわりに――」


「かわりに?」


「ごめん、眠くなってきたから寝る」


「このタイミングで!?」


眠っている人を起こすのはこの国で犯罪とされているため起こせない。


睡眠欲は完全に満たされたが美味しいものは食べれないし、

町からはエッチなたぐいは戦争の火種とばかりに廃絶されている。


「なんか……息苦しいな……。俺選ぶ国間違えたのかも」


18歳で今後の人生を左右する大きな決断なんてできるわけなかったんだ。


「よし、亡命しよう!」


禁断の方法を行うことに決めた。

亡命は重罪とされており、見つかれば3大国からの追放が決まる。


だとしても、もっと別の選択肢があったのじゃないかと思えてならない。


亡命する先は、食欲の国……ではなく性欲の国。

本当はずっと気になっていたけど第一希望が性欲の国だと

ものすごいスケベ野郎だと思われるのが怖くて書けなかった。


自分の経歴を書き換えて、まだ日が昇らないうちに性欲の国へと亡命した。


『性欲の国へようこそ! ここではエッチな雑誌や動画も見放題!

 セクハラなんて概念もありません!

 素敵で無法地帯なセクシー生活を満喫してください』


「す、すげぇぇぇ!!」


性欲の国は国全体がピンクのネオンで彩られていてエロティック。


大きな街頭モニターには当たり前のようにAVが再生されて、

男も女もやたら露出が高い服を着ているし、

エッチな雑誌はフリーペーパーで配られる。天国かよ。


「こんな簡単に亡命できるなんて、ざるシステムでよかった!」


もう下半身まる出しでも誰1人気にしない。

今ままで満足することのなかった性欲が限界まで満たされるのを感じる。


が。


「ここもやっぱり飯はまずいのね……」


食欲の国ほど食べ物に力を入れていないのと、

睡眠欲の国ほど自由じゃないので眠る時間と場所も限られている。


こんなセクシー無法地帯な国でもやっている仕事はマジメそのもの。

いくら眠くなろうがたたき起こされて仕事しなければならない。


「ひぃ……やっぱり睡眠欲の国の方がよかったかな……」


性欲が満たされると、今度はいつもついて回る睡魔をどうにかしたくなる。

睡眠欲の国だったらと思う心が止まらない。


「よし、またこっそり亡命しよう」


その夜、こっそり睡眠欲の国に亡命して思う存分寝倒した。


「あーー寝た寝た! やっぱり睡眠欲の国は最高だ!!」


「君……この国の住民じゃないな!?」


目を覚ますと、目の前にひとだかりができていた。

まずい。俺の密入国が疑われている。


「な、なにを言ってるんですか……? 俺はこの国の人ですよ。

 睡眠欲こそが俺の中で一番大きな欲求なんです」


「うそだ! うそに決まってる!」


「嘘じゃないですよ! ほら見てください! この国の住民票です!

 俺は睡眠欲の国民なんですよ!!」


俺は全員に睡眠欲の住民票を見せた。

亡命前に持っていたものだが信用させるには十分すぎる証拠だ。


「ね? 本物でしょ? 信用してくれましたか?」


「お前……自分が嘘つきだって証拠にまだ気づかないのか」


「なっ……なにを根拠に!?」




「さっきから、ズボン履いてないんだよ!」


「しまったぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


性欲の国の常識を睡眠欲の国で持ち込んでしまった。

あっという間に、性欲害獣としてひっとらえられて追放された。


「お前みたいな性欲に支配された野獣、この国には必要ない!!」


「お前みたいな睡眠欲に支配された怠け者、この国には必要ない!!」


睡眠欲と性欲の国から正式に出入り禁止を通達された。


「あ、ちなみに食欲の国もお前みたいな浮気者ゆるさないから」


「ここもダメなの!?」


俺は3大欲求の国すべてから国外追放されてしまった。


「ああ、なんてこった……自分の欲に支配されたばっかりに……」


地面に手をついて先行きが不安過ぎる自分の将来を嘆いた。




「お困りですか?」


その声に顔を上げると、男がひとりそっと手を伸ばしていた。


「よかったら私たちの国に来ませんか?」


「でも……俺は三大欲求の国すべてから締め出されていて…もうどこにも戻れません」


「あなたは知らないんですか? 最近、人間は4大欲求になったんですよ」


「そうなんですか!?」


「私の国はどんな人も否定しません。だからあなたも入れますよ」


「よろしくお願いします!!」


捨てる神あれば拾う神ありとはこのことだ。

俺は4大欲求の最後の国に入国がゆるされた。


「こ、これはすごい……!」


この国ではネットワークが完備されていつでもどこでもWIFIが無料で利用可能。

スマホの充電も無料だし、法律でSNSを利用するのが守られている。

仕事だろうがなんだろうがそれを邪魔することは許されない。


「いったいこの国はなんていう国なんですか?」


「写真を撮ってみてください」


スマホで写真を撮ると、国の制度で自動的にSNSが連動し共有された。

その瞬間、あっという間に「いいね」や「お気に入り」の数が爆増した。


「うおおおお!! すごい!! めっちゃ応援されてる!!」




「ここは人間の4つめの欲求『自己承認欲求』の国です。

 さぁ、あなたも好きなだけ認められてください」

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