再会。そして……

「すっごく綺麗ですね」

「ほんとにすげえや」


 落下した先は、マシュマロ城第一展望台だ。スタッフのデュラハンは困惑していたが、幸い怪我人はなかった。


 陸也と明菜は、マシュマロ城特別展望台に並び、城壁に身を乗り出し、ユーフォリー名物花火ダンスを眺めていた。


 次々に上がる打ち上げ花火に加え、妖精達が空で舞を披露する、幻想的な光景が広がっていた。赤、青、黄、と次々に移り変わる光の饗宴は、見ている者の心に強く焼きついていた。


 マシュマロ城特別展望室には、陸也と明菜の二人きりだった。いつの間にか明菜のポケットには、そのチケットが忍ばせてあった。


 粋な計らいに感謝しつつ、せっかくのお膳たてを利用させてもらうことに二人は決めた。


 二人は、繰り広げられ続ける優美で煌びやかな情景を眺めながら、色々な話をした。


 会えなかった空白の十年について。会話の中で、実は明菜が十七歳だということを知り、陸也はますます狼狽えた。


 そして濃くて儚い二日間のこと。少年少女の恋について陸也が話せば、明菜は歌謡ダンス大会のことについて話し、会話が尽きることはなかった。


 時間はどれだけあっても足りなくて、話をすればするほど、終わりが近づいているように感じて、名残惜しく感じた。


「そうだ。陸也くんに、返しますね」


 かつて二人を繋いだ巾着袋が、十年前と変わらない形状で、陸也の前に差し出された。劣化している様子はなく、大切に保管していたことが陸也にも伝わった。


「ありがとう。それで、俺からもプレゼントが」


 そこまで言って、自らの失敗に気付いた。


 元々明菜にあげるはずのプレゼントは、お詫びとしてグリムに渡したことを失念していた。


 また小さな失敗を繰り返したことに、もはや苦笑するしかなかった。


「陸也くん?」

「明菜、聞いて欲しいことがあるんだ」

「はい、なんでしょう」


 明菜は疑いを知らないまっさらな瞳で陸也を見据えた。これからどんな言葉が来るのかなんてことを、まるでわかっていない様子だ。


 それでも、陸也は思いを伝えることにした。


「俺は……君が好きだ」


 口から出たのは、練習したどの言葉よりもシンプルで、力の篭った言葉だった。


 どんなに練習をしても、どんなに装飾を重ねても、実際に言えるのは単純な想いだけ。


 陸也は明菜が好きという、事実だけだ。


「え、えっと。ありがろうございます」


 一瞬にして顔を赤くし、噛んでしまうくらいに、明菜は動揺した。冗談っぽく告白された経験はあったが、真剣に告白される経験は初めてだった。


「ど、どうしましょう。いえ、決して陸也くんのことが嫌いなわけじゃないんです。むしろずっと会いたいと思っていて、その、初めてのことでなんと言ったらいいか」


 マシンガンのように言葉を吐き出す明菜を見て、陸也は寂しげに瞳を細めた。


 これだけ可愛らしい反応が見れたのだから、それだけで満足だ。


 陸也はショルダーバックから、露店店主にもらった筒を取り出し、中身を確認した。傷一つなくて、流石は不思議惑星産の道具だな、と感心した。


 陸也は言った。


「好きだからこそ、明菜には自由に生きて欲しい……今までありがとう。俺の事は忘れてくれて構わない」


 ユーフォリー産の真っ黒な筒に守られていた陸也のお守りは。


 光を帯びたような黄色に彩られた、勿忘草だった。

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