砲弾男と浮遊女のロマンス

「うわあーすごいですねー」


 妖精二人と天使に抱きかかえられ、明菜はユーフォリーの上空を漂っていた。


 ユーフォリー神宮に銀川の森。闘技場や劇場。天高くそびえるマシュマロ城も、明菜の視界のさらに下だ。


 初めての空の旅に、明菜のテンションは最高潮だ。


「ねえヒーローはまだなんですかね?」

「そろそろだと思うけど」

「はやくはやく。流石にもう限界……」


 ナルキエルに加え、キキとニニも苦悶の表情を浮かべていた。重くはないが、人一人を抱えての飛行は相当な体力を要した。


「あれ? 私のポケットが何故か光ってますね」


 明菜のポケットから、紅色の光が、何かと接続するように、斜め下方へと真っ直ぐに伸びていた。


 光が灯す先には米粒ほどであった物体が、徐々に形を露わにしていった。光はどんどんと面積を増して行き、輝きは増大した。


「ヒーローのご到着ですね。明菜ちゃん、がんばってね」

「おうえん」

「してるよ」


「え?」


 せーのという掛け声と共に、明菜の体は一瞬宙に浮き、重力の影響下に晒された瞬間、落下を始めた。


 明菜が最後に認識したのは、激励を意味する、三人のガッツポーズだった。


「きゃー」


 何がなんだかわからなかったが、落下の恐怖が明菜を襲う。


 せめて、陸也くんと会いたかったな。


 明菜は小さく願い、重力に飲み込まれ落下を開始した。


 その刹那。


「明菜ー!」


 ぎゅっと瞳を閉じ、襲いくるであろう衝撃を覚悟した時、繋がれた光の先から飛来した物体が、落ちゆく明菜の体を掴み取った。


 落下が止まり、新たな浮遊感を感じたところで、明菜は目を開けた。


 明菜の表情が一斉に崩れた。驚愕、不可解、嬉しさ、懐かしさ、複数の感情がごちゃ混ぜになり、言葉を紡ぐことは出来なかった。


 明菜からは、抱きかかえている男性の姿は見えていなかった。けれども、明菜にはわかった。

 どれだけ会っていなくても、突然の出来事でも。


 今自分を助けてくれた相手が、陸也だということは、言うまでもないくらいにわかっていた。


 陸也は何も言わない。初めての浮遊に四苦八苦していて、喋る余裕はない。


 周りには、天使や妖精が集まっており、ヒラヒラと衛生のように回転していた。明菜には何をしているのかはわからなかったが、きっと助けてくれているのだと理解した。


 明菜はホッと安堵し、真剣な表情で宙を舞い続ける陸也を見つめた。


 ごく自然と笑みが浮かび、腰に回されている陸也の手を、そっと握った。


「やっと……逢えましたね」

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