大砲に詰め込まれて発射されるまでに感じた彼女への気持ちはきっと
陸也が思い返した人生は、ちょっとした失敗の連続だった。
幸い大事には至らず、五体満足で今日まで生きてこれたのだが、それもひとえに、命が脅かされることに手を出してこなかったからだ。
生まれて初めて、間違えれば死ぬ可能性を突きつけられて、砲身に詰め込まれた体は震えていた。
万が一魔法が発動しなかったら、風を操れなかったら、落ちたら。
様々な恐怖の想像に精神は
陸也は頭を左右に振り、徐々に迫り来る恐怖に耐えていた。わけのわからない展開になり、いきなり飛んだこともない空に放り投げられるというのだ。ちょっとした失敗に固められた陸也の人生にとって、その行為は重かった。
今度こそダメかもしれない、提示されたわずかな可能性が、陸也の弱気を増大させていた。
やっぱり、会うことなんて諦めてしまおうか。
ギブアップを口にする直前、ショルダーバッグが青白い光を放った。その瞬間、視界は過去の記憶とリンクし、走馬灯のような映像が流れ出した。
過去に失敗した出来事が思い起こされた。同点に追いつかれても、結果的に勝利した。演劇で台詞を忘れても、アドリブで場を繋いだ。受験に消しゴムを忘れても、大学には合格できた。
流れ出る記憶は、とうとう明菜との思い出に追いついた。
一緒にお菓子を頬張り、チョコがパチパチと弾け出したことで明菜は目を白黒させていた。ミノタウルス達の、全力の武闘の様子に、無邪気に熱狂した。行こうよって引っ張られた手は、とても温かかった。
明菜は今、一体どうしているんだろう。ふにゃふにゃとした笑顔は、ちょっぴり高めだった身長は。
陸也は、今の明菜を自分の目で確かめてみたいと。
そう強く願った。
愛と呼ぶには、一瞬すぎる出会いだった。ひょっとしたら恋だと思っていた感情も、印象の強さからくる勘違いなのかもしれない。
それでも、明菜から教えてもらった楽しい気持ちは、きっと本物だったんだろう。
陸也と明菜が出会ったところで、どうなるかはわからない。
けれども、出会ってみた時を思うと、大砲から飛び出してしまいたいくらい、楽しいことだと、陸也は感じた。
楽しく理想的な人生を送るためには、困難にも立ち向かわなければいけない。
陸也は、かつて教えてもらった信念を、繰り返し心に刻み込んだ。
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