再会を願う協力者達

 翌日、明菜が天使の休憩広場にやってくると、打ち上げに参加していたメンバーが軒並み顔を揃えていた。エイラを除いて。


「こんにちはみなさん。あれ? エイラさんはどうされたのですか?」

「こんにちはー。エイラちゃんはちょっと打ち合わせに、むぐっ」


 ねっとりと喋っていたナルキエルの口を、少々強引にキキとニニは塞いだ。


「エイラちゃんは心当たりを何件か当たってみるって。あの子エルフのくせにやたらとフレンドリーだから、友達が多いのよね」

「うんうん。私たちは私たちでいきましょ」


 キキの説明が終わると、ニニが先を促した。


 みんなが協力をしてくれていることに、明菜は感謝の念で一杯だった。歌謡ダンス大会に参加して良かった。困難に飛び込めという父の教えを、改めて噛み締めていた。


「みなさん、本当にありがとうございます。私、がんばります」

「ふふっ。全然構わないのよ。ところで、先に手はずを説明しておくわね」

「手はずとは?」


 不思議そうに首を傾げる明菜に、キキのセリフをむしりとように、ナルキエルは食い気味に答えた。


「しばらく探して見つからなかったら、空から探しましょう!」


 空?


 明菜の脳内は疑問符で一杯となっていった。






 天使の休憩広場より西側に位置する、マジシャンによるショーが行われている劇場の壁面に、陸也はもたれかけていた。


 十年前、両親と祖父母が劇場でのショーに夢中になっている時、疲れや退屈などから勝手に抜け出したことを思い出していた。

 後で説教を受けたのだが、脱走を試みたからこそ出会いがあった為、結果的にはいい思い出だった。


 ただいっそのこと会えない方が、すべてにおいて諦めが付くんじゃないか。そんな弱気も浮かんだ。再会したところで、何が出来るわけでもないという意識が、陸也を弱気にさせていた。


 昨日もらった真っ黒な筒には、お守り代わりの物を入れて、奇妙にくすんだ珠も、念のために持ってきた。ただの気休めとして。


 劇場の中では、大掛かりなマジックが成功したのか、大歓声が響き渡った。陸也は一度だけ劇場を睨み、眩しそうに目を細めた。


「陸也ーやっと見つけた」


 名を呼ぶ声に期待を込めて振り向くと、現れたのは昨日の少年だった。その隣には羊毛のようにふわふわとした白髪の少女。


「なんだ昨日の少年か」

「なんだってなんだよ。俺にはグリムっていう名前があるんだからな。紹介するよ。彼女のミミルだ」

「初めまして。ミミルといいます。一応シルフです。グリムくんがお世話になったって聞いてます。よろしくお願いします」


 自己紹介を聞いて陸也は驚いた。てっきり人間同士の色恋沙汰かと思えば、まさか相手が風の精霊だとは思わなかった。


「なんか意外そうな顔してるけどさ、そもそも俺も人間じゃねえよ。グレムリンって奴だ。ってそれはいい。陸也が探してた女の子って明菜だよな? 見つかったって」

「なんだと」


 珠の入ったショルダーバッグが、微かに脈動していた。





 グリムとミミルに連れられた場所は、ユーフォリーの露店ゾーンの中心街にあるよろず店だった。ユーフォリーでしか食べられないお菓子や、少し不思議な魔力のこもったおもちゃなどが店頭に並んでいる。


 店先に居たのは、狼のような相貌の店主と、オールバックに髪をまとめた美麗なエルフの女性だった。


「おう陸也とか言ったか。昨日はグリムが世話になったな。それでお前に話があるって奴が来てるんだが」

「初めまして。私はエイラといいます。ふーん君が陸也くん?」

「初めまして。そうですけど」


 エイラは丹念に陸也の姿を見回した。値踏みするかのような視線に、陸也は居心地の悪さを感じた。


「うん、悪くないわね。早速本題なんだけど、明菜ちゃんがさらわれたの。悪戯好きな妖精と天使に。男なら助けださないとね」

「ええ!?」


 様々な疑問が思い浮かんだが、混乱が強くて言葉が出なかった。


「安心しな。場所はわかってるし、ちゃんと助け出す方法も考えてあるからよ」

「いくらなんでも用意周到すぎないか?」


 陸也は今度こそ言葉を返したが、店主はどこ吹く風で、店の裏手に回った。来るように促され、一同は露店に入り、店舗を通り抜けていくと、四方を建物に囲まれた先に裏庭があり、その中心には、金属製の筒が存在感を放っていた。


「えっと……これは?」


 なんとなく嫌な予感を感じつつ陸也が尋ねると、店主は胸を張り、誇らしげに言った。


「大砲という物らしいぞ」

「それは知ってるけど」

「確かリトル・デーヴィッドっちゅうもんだ。昔な、地球人から話を聞いて作っちまったよ。射撃精度や射程に問題があるらしいが、そこは俺様性だから問題はない。ちゃんとサイズも改造してある。使うのは初めてだが」


 最後の一言に不安が増強され、陸也はさらに質問を続けた。


「本当に大丈夫なのか?」

「心配すんな。大砲って言っても見かけだけだ。原動力は魔力で、障壁も張ってから打ち出してやるよ」

「あなた一体何者なんだ?」

「俺様はただのよろず店店主だよ。鍋好きの、な」


 店主が浮かべたニヒルな笑みは、古くからの歴史を感じさせる奥深さを、陸也は感じていた。


「俺が少し魔力を分けてやるよ」

「私も魔力をあげます。これで少しだけ、空の上でも動けるはずです」


 グリムとミミルに両方の手を握られると、陸也の体は熱を帯び、わずかに光を発していた。疲労感は軽減し、体も軽くなったように感じた。


「さあ、明菜ちゃんを無事に連れ帰って来なさい!」


 お膳立てがどんどん進んでいき、周囲の熱気は盛り上がり続けていた。


 ただ一つ、陸也の心情を置いてきぼりにして。


「ちなみに、万が一ミスしたらどうなるんだ?」

「死ぬ」


 無慈悲な一言に、陸也の背中から脂汗は流れ続けていた。

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