異世界でも女子会は姦しい
天使の休憩広場にて行われた歌謡ダンス大会は、宙を舞うダンスと、透き通るような歌声を武器にした、天使のナルキエルが優勝し、マシュマロ城展望台券が主催者より手渡された。
明菜は特別賞を受賞した。卓越した歌唱力、もしくは身体能力を持つ異界の者も参加する中で、これほどの評価を受けたことは快挙であった。
休憩広場では表彰式が執り行われ、イベントが終了した会場は、参加者のみならず運営や一般客も交えた、ごちゃまぜの交流会場となっていた。
明菜は歌謡ダンス大会参加者のテーブルに座り、盛り上がる会話の渦中にいた。泡をふちに残したジョッキや空になったワイングラスが散乱していた。
明菜が飲んでいるのはオレンジジュースだった。
「いやー明菜ちゃんすごいね。私が見込んだだけのことはあるよ。いやー私ってすごい」
「エイラちゃん、結局自分を褒めてますよ。明菜ちゃんはすごいですね。優勝した私もすごいけど」
「お二人共とってもすごいと思いますよ」
エイラとナルキエルの自慢話に、明菜は賞賛の言葉を送った。
交流会というよりはただの自慢大会となっている中、明菜は心底楽しそうだった。
異世界の民との交流は、今しか行うことの出来ない特別なものだ。明菜はこの貴重な経験を目一杯楽しもうと心に決めた。
「ねえねえ、明菜ちゃんが、貰った賞品ってなんですかー?」
「これですか? 運命の宝玉というらしいです」
ナルキエルが尋ね、明菜は透明なガラスのような樹脂に守られた宝玉を取り出し、言った。
石と水晶の間に位置するような質感を保っち、灰色にくすんでいた。今はまだ、神秘的な力は感じない。
けれども、せっかく頂いた物であるのだから大事に持っていよう。来たるべき時が来たら家宝にしよう。明菜はそう考えていた。
「運命の宝玉ねー。運命っていうと、なんだかロマンチックな感じがする。明菜ちゃんは好きな人はいないの?」
「気になる気になる。ほらほら、これでも飲んでしゃべっちゃいなよ」
噂好きの妖精、キキとニニに詰め寄られ、明菜は困ったように顔を歪ませた。
「あはは、お酒は遠慮します、未成年なので。それに、好きな人はいないんです。私みたいなお子ちゃまが、恋を語るなんて恐れ多くて」
「好きな人がいないなんて、なんのために女として生きてるんですか!」
ナルキエルの言葉に、彼氏のいない周囲の女性達までいらぬ傷を負ったが、明菜は気にしている様子はなかった。
何かしら答えなきゃ、と明菜は思考を巡らせた。
「付き合ったことはないんですけど、会いたい男の子はいます」
「なに? 恋でもないのに会いたい男の子? 詳しく話しなさいよ」
エイラの言葉に、明菜を除く全員が賛同した。
明菜は、ではと前置きをして、十年前に出会った陸也という少年について語り始めた。
十年前に開催された星繋ぎの祭りにおいて、一人で佇んでいた陸也を寂しく思い、明菜は声をかけた。
『ねえねえ知っていますか? この星のシンボルは、お鍋の蓋なんですよ』
『……知ってるよ。昔ここに迷い込んだ二つの地球の住人と、ここの住人で鍋を囲んで、その鍋蓋を取り皿として使ってたっていう話からでしょ? ばあちゃんがしつこく話すんだ』
『うわあすごいすごーい。とっても頭がいいんですね。もっといろんなこと教えてください』
『……うん』
それから二人は星繋ぎの祭りを時間が許す限り楽しんだ。硬質としていた雰囲気も徐々に弛緩し、別れ際には再会の約束として、陸也から巾着袋を渡された。という顛末についてまで明菜は語った。
明菜が語り終えた時、その話に口を挟むものは誰もいなかった。山のように積み上げられた空のグラスも、供給を止めていた。
「とまあこんな感じでした。けど未だに陸也くんとは会えていないんですよね……あれ、みなさん。どうかなさいましたか?」
誰もしゃべらない異様な雰囲気に、鈍いと言われがちな明菜ですら気付いてしまい、不思議そうに周りを見渡した。
矢のような勢いで立ち上がったのはエイラだった。
「こんなことをしている場合じゃないわ! 探しましょうよ陸也くんを! なんだか私ワクワクしてきちゃった。こんな酒と自己顕示欲に溺れた集まりなんかにいちゃだめよ! 誰よ明菜ちゃんを連れ込んだおバカさんは」
「あなたですよ」
ナルキエルのツッコミにエイラは沈黙した。
「まあでも、明菜ちゃんに再会を果たして欲しいっていう気持ちは私も一緒。明菜ちゃん、明日もここに来てくれる? みんなで陸也くんを探しましょう。知り合いにも声をかけてみるから」
「うんうん。探そう探そう」
キキの言葉に、ニニも同意した。
「よっしゃー探し出して、なんとしてもハッピーなカップルを成立させるぞゴルァ。ああ私も彼氏ほしい!」
涙すら浮かべながら、何か思うところがあるのか、ナルキエルは力強く宣言し、陸也を探し出すための同盟が一瞬にして成立した。明菜は何も言っていないにも関わらず。
これは大変なことになってきたぞ、と明菜はたじろいだが、少なくとも退屈することはなさそうな雰囲気に、自然と笑みを浮かべていた。
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