第二章
イズムは今年、十三歳になった。村の外でも評判の鳥撃ちとして認められている。
ただし、今、彼は家族の為にわずかに食用の鳥を撃ち、大方の収入は、剥製用の珍しい鳥を撃つことで得ている。
今日も獲物の鳥を街の剥製屋に運び、夜遅く帰ってきたイズムの為に、サカが夕食を用意して待っていた。
「兄さん、どうして鳥が食べられないの? 母さんの鳥料理は美味しいのに」
妹のサカは十一歳、母親の手伝いもよくこなすが、勉強の好きな娘で、村人たちは
「あの娘はやがて村を出て街の学校へ行くだろう」と噂しているようだ。
「・・・わからない」
父に鳥を撃つ事を許され、初めて打ち落とした鳥が、不自然な形に翼を曲げ、
草の上に横たわりけいれんするのを見て以来、イズムは鳥肉が食べられなくなった。
「父さんだって、母さんの鳥料理は好物だって言ってたのに」
サカはイズムの好物のシシ肉のスープと野菜の煮物を揃える。
向かいに座ってイズムの様子を見ている母親が意を決して言う。
「イズム、お前はまだ十三だ。お前には重過ぎる仕事を背負わせていることは、
母さんもわかっているつもりだよ。
ただ、ちゃんと肉は食べないと、お前の身体は持たないよ」
「大丈夫だよ母さん。鳥を食べなくても、
ちゃんと川魚やシシ肉は食べてるじゃないか」
食欲は間違いなく旺盛な育ち盛りのイズムは、
早いペースで食事をたいらげていく。
自分で食器を運びさっさと洗い、後片付けを済ませると、
「銃の手入れをして来る。街で新しい部品を買ってきたから、改造する」
と言い残し、部屋に向かおうとする。
「イズム。剥製のための猟はお辞め。父さんが一番嫌っていたことじゃないか」
うつむいたまま、強い口調で母親が言い放つ。
「剥製用の鳥撃ちは金になるんだ。サカの学費や、あの娘が将来嫁に行く時の費用にしたい」
「お前だって、学校に行きたいだろうに。銃を持つまでは、あんなに勉強が好きだったじゃないか」
辛そうに言う母に、イズムは静かに笑って答えた。
「俺は、いいんだよ。母さんやサカが少しでも幸せに暮らせるように金をかせげるのが、俺の幸せなんだ。サカには街の大きな学校へ行って医者になる勉強をちゃんとしてもらいたいんだ。 父さんのような病気の人を助けられるように」
そして、扉の向こうに姿を消した。
「あんなに優しい子が、殺生の仕事など…」
母親は両手を組み、大きく溜め息をついた。
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