第8話 キツネとの出会い

自宅に帰ると、母はずいぶんとやつれていた。

両親は性同一性障害について自分たちなりに色々調べたようだったが理解できず、どうしてうちの娘なんだと彼に詰め寄った。親からすれば当然だ。


父親と彼と二人きりで会って、父親は別れるように説得した。


「もし彼と会うなと言うなら私は二度と家には帰らないし、私は頭がおかしくなって死ぬと思う」


泣いている母親に捨て台詞をはいて、家を出た。

「ヤツを二度と連れてくるな」

後ろから父親の声が聞こえた。


あの時私は、ああこれで彼とずっと一緒にいられると安心した気持ちでいた。自分のことしか考えていなかった。


数週間後、相変わらず誰とも連絡をとらない日々が続き、彼とも喧嘩が増え、お互いにこの生活はいつまで続くのかという気持ちが芽生えていた。


生活用品の買い出しは、いつも近くのホームセンターで済ましていた。

あの日はなぜかいつも行かない店に行き、そこでキツネと出会ってしまった。

凛とした姿で座っていた彼女は光り輝いていた。

柴犬、小梅との出会いだった。

飼うと決める前から小梅と呼んでいた。柴犬にしては耳が大きく、しっぽは太くて長く、まるでキツネの赤ちゃんのようだった。

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海とキツネ @koumehinakarin

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