10,000,000円の豪遊キャンペーンに2回目はない

ちびまるフォイ

あなた以上にお金を使う人がいる

「モニターのみなさん、今日はお集まりいただきありがとうございます。

 まずはお手元のカードをご確認ください」


とあるキャンペーンに参加した俺は入り口で渡されたクレジットカードを見た。


「そちらには1000万円がチャージされています。

 これを24時間以内にすべて使い切ってください。

 誰かに渡したりするのはダメです。ちゃんと使い切ってください」


「使い切れないと……どうなるんです?」


「使い切った人には、使った分だけでなく追加で1000万円をプレゼント。

 使い切れなかった人には、使った分を没収し1000万円の借金です」


モニターで参加した人たちの顔色が変わった。

使い切れなければ1000万円の借金生活……おそろしい。


「では、みなさん。よき豪遊生活を!」


キャンペーンが始まった。



『最近の若い人たちは、昔のように良い服を着て

 良い車を持って、バカでかい家を持って……などの欲がない。

 そこで、荒療治としてお金を使わせるよう調教しよう』


ということで実装された"豪遊キャンペーン"のモニターに選ばれた。

書類が郵送されたときには驚いたが1000万円好きに使っていいとなれば

断る理由なんてどこにもない。


「さて、欲しいものをいっぱい買うぞ!」


まずは自分の欲しいゲームをたくさん買った。本もマンガも買いまくる。

値札なんて見やしない。こっちには1000万円あるのだから。


「いやぁ、買った買った。さて残りの金額は……990万!?」


自分の物欲をすべて爆発させても10万にしかならなかった。

これの99倍消費しないと1000万円の借金生活が待っている。


「そ、そうだ! キャバクラに行ってみよう!」


よく1日で数百万消費した、なんていう武勇伝を聞いたことがある。

ああいう店なら本気を出せば一気に消費できるはずだ。


「よーーし! 高い酒全部もってこーーい!!」


慣れない高級店で浴びるように酒と女を引き寄せたが残金は……。



「まだ800万!?」


ぜんぜん減ってなかった。

完全にマヒし始めているが190万使ったのも相当だけど。


「どうしよう……残り時間から考えてもとても消費しきれない。

 俺はこんなにも金の使い先を知らない人間だったのか……」


いっそどこかの家や土地でも買おうかと考えたが、


「あの……危ない金じゃないですよね? 銀行強盗とかマネーロンダリングとか」


「ちがいますよ! 信じてください!!」


キャッシュで払うと怪しまれてどこも契約してくれずに断念。

見るからに金を持ってなさそうな男がキャッシュと聞けば怪しさ満点だ。


残高を減らす方法はないのか……。


「世界の裏で貧困に困っている、石油王に募金をおねがいしまーーす」


「あれだ!!!!」


思わず天からの光が差し込んだ。

募金なら金額を気にせず一気にお金を使うことができる。


ATMでお金をおろして募金箱に突っ込んだ。


「よし、これで残金0円でキャンペーン終了だ!」



ブブー。ペナルティが発生しました。

残金1000万円に戻りました。



「はぁぁぁ!? なんで増えてるんだよ!?」


主催者に連絡をいれると答えは明確だった。


『あなたが欲しくもないものにお金を使うことは許されません。

 単にお金をドブに捨てればいいものではなく、

 あなた方モニターの物欲を底上げするのが目的なんですから』


「うぐぐ……」


すでに欲しいものなんて手に入った。

これからさらに1000万円を使い切るほど欲しいものなんて……。


「いや待てよ! あるじゃないか!!

 昔からずっと欲しかったのに手に入らなかったものが!!」



 ・

 ・

 ・


24時間後、全員がふたたび主催者の前に集められた。


「みなさん、キャンペーンお疲れさまでした。

 1000万円を使い切れたのはどうやら1人だけみたいですね」


他のモニターは友人に与えようとしたり、

金を下ろしてトイレに流そうとしたりでペナルティを受けていた。


俺だけ1000万円の報酬を受け取った。


「最後まで、自分の為だけにお金を使ったのはあなただけですよ。

 おめでとうございます。1000万円を好きに使ってください」


「ありがとうございます」

「やったわね、ダーリン♥」


俺はお金で結婚してもらった美女にキスしてもらった。幸せ。


昔からずっと欲しかったのに手に入らなかったもの……。

それは異性からモテること。

これなら自分の為だけに出費できるし、一気に大量消費もできる。


そして、これからは美女を横にはべらせながら

1000万円とともに暮らす幸せな結婚生活がはじまるんだ。


「やったぁ! 人生勝ち組だ!!」





1年後。


1000万円なんてはした金はあっという間に吹き飛んだ。


「ちょっとあなた。子供の養育費これじゃ全然足りないわよ!

 それに私への誕生日プレゼントに休日は旅行へ行くって約束でしょう」


「あぁ、それと今度私の友達の結婚式に行くからお金とドレスが必要ね。

 高校行かせるためのお金ももう準備しておかないと。

 あなた! 聞いてるの!? 子供の病院代だってあるのよ!

 私だって新しいバッグ欲しいのに我慢してるんだからね!」


あれから借金生活でこそないものの、極貧生活が待っていた。



「あぁ、どうしてこんなに金がかかるんだ……」



俺はふたたびキャンペーンの封筒が届くのをずっと待っている。

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