こわいはなし。
@torinosasami
こわいはなし。
狭い簡素な一室の真ん中で男は静かに語り始めた「よくある話さ、一家心中が原因で放置された廃屋に肝試しに行ったグループがそのまま帰ってこなかったんだ。そんな話を聞いたグループが興味本位で廃屋に足を踏み入れると何故か入り口が閉まって出られなくなった、他の出口を探索しようとグループは奥へ踏み込んでいくと妙な事に気がついた。最後方にいたはずの一人が見当たらない。そこで道を引き返したグループはパニックを起こす、後ろからついて来ていたはずのメンバーは死んでいたんだ、背中には斧が刺さっていた。霊の仕業にしてはやけに生々しい。そこからは簡単さ、グループメンバーの各々には心当たりいわゆる殺害の動機ってやつがあった、一人の死は疑心暗鬼を生むのにちょうど都合が良かったってわけだ。くだらない殺し合いが始まった、最後の一人になるまでね。そうして残った一人は自殺をした。実によくある都市伝説の顛末さ、そこで一つ疑問が浮かぶ。全員死んだこの話は一体誰が詳細を知りえたんだろうと、そもそも最初に一人殺されるまでは全員まとまって行動していたはずだ。少し考えればわかるんだ、最初の一人は誰がどうやって殺したんだ?そもそも事の発端だった最初に消えたグループの噂は誰が流したんだ?発端の一家心中は本当に心中だったのか?この一連には何かがある、しかしお前達はそれを知る事が出来ないままだ、永遠にな」と語り終えた男の足元の床ががたんと音を立てて開くと、連続殺人犯だった彼の決して長いとは言えない生涯は終わった。
「それで、その後は?」「それだけさ」「それだけ?」「念の為調べてみたが死刑囚が最後に語っていた様な事件はなかった」「ところでこの話って事実だとしたら誰が広めたんだろう?」「考えられるのは話を聞いた死刑執行人だろうね、もしくは」「もしくは?」「連続殺人犯はまだ逮捕されていないんじゃないかな」そう言いながら彼は彼が一家心中に見せかけて惨殺した事が原因で放置された廃屋の一室で目の前の怪談話の聞き手に斧を振り下ろす、その斧は狙ったはずの相手の体をすり抜け床に突き刺さる、狼狽している殺人鬼に「殺した相手の顔も覚えていないなんてね」と聞き手はにやりと笑って見せた。
こわいはなし。 @torinosasami
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