第6話 出会い

 「今回はこれ。編集はそちらでお願い。放送前には必ず見せてね? 」


 大手広告代理店”リテラ”に勤める、学生時代の友人渡瀬義明に、数枚の銀のディスクケースをひびきは手渡す。接客室のソファにあたると並んで座り、渡瀬とその横の渡瀬の上司である佐登克美さとかつみひびきは二人の反応を伺うような微笑みを見せている。


 「今回の内容はどんな感じだい? 」


 髪を短く刈り清潔感ある渡瀬はディスクケースをひびきの手から受け取り、中身を確認し、満足げに細い目をさらに細めて顔を上げて訊いてきた。


 「元地球人の転生者が敵の親玉を倒し、その仲間達と勝利に沸くところまでね。戦闘前の行軍や城外の戦いも映してきたからおよそ二十時間分はあるわ」

 「そうか。そりゃ有り難い」

 「あと、向こうの世界にしかない植物と鉱物も採ってきたから、異世界の存在を証明できる……誰か誠実な研究者を紹介してちょうだい」

 「それは本当かい? 佐登さん、誰か知りませんか? 」


 渡瀬は横を向き、黒のスクエアタイプの眼鏡で微笑む佐登の顔を見る。佐登ならば知ってるだろうという期待がその表情にはあった。膝上で両手の指を合わせてひびきの顔をじっと見てから佐登は答える。

 

 「通常なら私共の会社系列のと言いたいところですが、信憑性をあげるために国立の研究所に勤める優秀な研究者をご紹介しましょう」

 「お願い致します。できるだけ早めに調査結果を公表したいので急いでいただけますか? あ、それと私達のことを秘密にする契約を守れる方でないと困るのですが、それは大丈夫でしょうか? 」

 「お任せ下さい。契約は必ず守ります。そちらも私共との専属の件はお願い致します」

 「はい、向こうの世界のことは大勢に知って欲しいです。でも、私達のプライベートも守りたいので、その点は大丈夫です」

 

 紹介してくれる研究者と調整済み次第、ひびきへ連絡すると、渡瀬が学生時代とさほど変わらない調子の良さそうな人懐こい笑顔で、ソファから立つひびきとそしてあたるとしっかり握手した。あたるは、渡瀬のことをあまり好きそうではなく、笑顔も見せず握手を返して接客室を出て行く。

 ひびきは佐登と渡瀬に立礼し、笑顔を崩さず、渡瀬と佐登の後ろについて部屋を出た。


 リテラ本社ビルの外へ出たひびきあたるは、後ろで立礼する佐登と渡瀬を振り向きもせずに家路についた。


 「姉さん。俺、あの渡瀬って人あまり好きじゃない」

 「渡瀬くんは軽そうに見えるしね。でも仕事にはシビアよ。契約は守る。その点だけは信用してあげて」

 

 会社前に止まるタクシーの一台に乗り、二人は家へ向かう。帰宅途中で、渡瀬から『「研究者からそちらへ連絡がいく。そちらの都合の良い日時に必ず向かうとのこと。今からでもOKらしいよ』と、連絡先を添えたメールが入った。


 「研究者見つかったみたい。今夜でも来るみたいよ」

 「じゃあ、早め早めでいいんじゃない? 」


 あたるの返事を聞いたひびきは、待ち合わせについてメールを研究者宛で返した。

 国立理学総合研究所、主任研究員、高橋純たかはしじゅん、それが紹介された研究員の名前だった。

 高橋との出会いが、世界を巻き込む……ある意味響達が期待した騒動に繋がる。

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