気が付かぬ間に異世界転生したら
里憂&抹茶パフェ
読み切り
平凡に高校生活を送る少年がいた。
少年はコンビニに向かっていた。
真っ暗な夜道を歩く。
うす暗い月明かりと街灯だけが身を照らす。
冷たい風が背中を押す。
そのままコンビニに入った。
「暇だったから来たけど、なに買おうかな」
とりあえずジュースだけ買ってくか。
夜中にこんなことするもんじゃねえな。
コンビニの人が可哀想だな。
俺が言えることでもないか。
夜風に吹かれながら俺はコンビニを後にした。
「痛っえな! どこ見て歩いてんだ!」
それ、こっちの台詞だから。ああ、面倒くさい。
コンビニを出てすぐ、車止めに座る男に話しかけられた。
「知らねぇよ。てめえの都合で俺を止めんな」
はっきり言ってやった。
男は頭に血が上ってしまった様子。
すごい睨まれてるなあ。なんでこんなことに無駄に時間と体力を浪費しないといけないんだ。
スマホを見た。時計は十二時三十分を指していた。
このあとネトゲでクラン戦があるのに、クラメンになんて言い訳しよう。
俺は宵闇にも負けない暗さの路地裏に連れていかれた。
「てめえ、俺様を馬鹿にしてわかってんだろうな。」
「わからん」
「ぶっ殺す!」
人に拳を向けるときは相手が殴り掛かってきてからっておかあちゃんにならわなかったのかい。馬鹿だなあ。
向けられた殺意を見事に避けた。
すると、後ろから手が出てきた。
「引っかかったな! 誰が俺一人っつった!」
俺は後ろから伸びる手に後頭部を打たれ気を失ってしまった。
ある声によって目が覚めた。
「おい、兄ちゃん。こんなところで寝んなよ。邪魔くせえぞ」
どこだここ。なんでこんなところにいんだ。
視界を埋めるのはきれいな町とたくさんの人だった。
背高い建物が連なり、道をたどっていくと大きな城がたっていた。
俺、なにしてたんだっけ。なんにも思い出せん。
あちこち痛みがある体を起こした。
「おい、無視すんなよ。邪魔だからどいてくれ」
布を敷いただけの簡素な商店を広げている男は俺にそう言った。
「悪いな。今退どくよ」
重たい腰をあげ、商店から離れた。
まじでどうすりゃいいんだ。
記憶が曖昧な今、どう動くのが正解なのか。
うまく頭が回らなかった。
ひとまず、うろうろしていることにした。
町ゆく人皆に見られてる気がするけど気のせいだろう。逆に町人の方が変な服装だし。
何か変なのばっかり売ってるな。
なんだろ。変なもので溢れかえってんな。
商店街においてある商品に手を伸ばした。
「おにいさん。この辺じゃ見ない顔だね。それが気になるのかい」
「ああ。なんかいつの間にかここに居てさ」
商店の椅子に座っていた女性が少し険しい顔をしながら俺をみた。
なんか問題でもあんのか。
「あんた。王城に行くべきだね。これをやるから門番に渡しな」
手紙だった。
不思議に思いながら受け取り、王城に向かった。
何が起きているのか。これからどうするべきなのか。それを聞けるなら聞こうと思った。
王城について門番に女性にもらった手紙を渡した。
門番は中に通してくれた。
城の中を歩いていると、大きな扉が出てきた。
でけえ。ここに王様が居るのかな。うらやましいな。
扉が開かれ一歩前に進んだ。
「こやつがか。よろしい、話を聞こう。私は国王。君の名はなんと申す」
「俺は、雨宮あまみや史郎しろうだ。んで、俺はなんでここに居る訳なの」
疑問をぶつけると国王は快く答えを返してくれた。
なんと、史郎がどこから来たかどうしてきたかは不明であるとのこと。
どうなってんだ。
疑問は尽きなかった。これからどうすればいいんだよ。
「さて、昔にも似たような者がおった。どこから来たのかわからないし、今どこで何をしているのかもわからない。しかし、これは君と同じ事件だと思う」
なるほど、わからん。
王様が詳しく調べてくれることになって話は終わった。
俺は訳のわからないまま、王城を出た。
商店街に戻るころには真っ暗になっていた。
「もうあたりは暗い。どうするか考えはついているのか」
と門番は聞いてきた。
俺はないと素直に話すと、そうかと言って追い出された。
どうやらこの国は夜中道に立ち往生するものを追い出す決まりがあるようだ。
国の門は王城とそこまで離れておらず、すぐに出ることができた。
しょうがないけど、酷すぎだろこりゃあよ。
俺は城門を抜け、近場にあった森に忍びこんだ。
森には獣や虫の声が聞こえる。
それとふふふと背後で笑う声。
驚いて振り返ると右手から朱殷色しゅいんいろのものが流れた。
痛っ! 誰だ! こんな酷いことするやつは。
ここまで酷いことを一日に二回も受けなくちゃいけないって、泣くぞ!
くそっ。どこにいんだ。
背中に傷が走った。だらだらと血が流れる。
痛えな。見えねえ。逃げるしかねえのか。くそっ。
生い茂る草木をなぎ倒しながら逃げていた。
すると草木がなくなり、視線を上げた。
そこに現れたのは、料理やお土産の店舗が建ち並ぶ商店街だった。
俺は服についた草を払い、茂みを出た。
様々な物品は並んでいた。
しかし、肝心の人がいなかった。
人が居ない。
ここに住んでいた人たちはどこに行ったんだ。
気配すら感じられない。建物は先ほどまで使われていたように綺麗だ。
すごい町並みだ。高い建物がないというのも圧迫感がなくて非常にいい。
でもおかしいな。いくらなんでもきれいすぎる。
さっきまで誰かいたのか。
俺はいるかもわからない誰かを探して商店街の奥へ歩んでいった。
いい匂いがする。美味しそうだ。ジュルリ。
商店街に並ぶ食事はおいしそうだった。
手をつける訳にはいかない。けど、だんだんと手が伸びていったそのときだった。
「これはようこそいらっしゃいました。旅人の方ですかな。血たらたらですが大丈夫ですか」
ここにきて、初めての人間を見た。
タオルを俺に向けて、エプロンを首から着けた中年くらいのおじさんがそこには居た。
俺はすこし焦りながら、食事に伸びていた手を引いた。
まあ立ち話もなんですからと言って彼は俺を近くにある家に招待した。
彼は何のためにここで生きているんだろう。
ひとりで寂しくそうだな。
「そうです。ちょっと迷ってしまって。それでここにたどり着いたんですが、住む人はあなただけなんですか」
そう聞くと、彼は蔓延の笑みを俺に見せた。
「そうなんです。だから、あなたが来てくれて本当にうれしいんです。もう何十年と人と会話をしていないんです。そうだ。君がここの住人になってくれませんか」
彼はなにを言う。
俺がここに住むのか。
町はきれいだし、商店街に並ぶ食事も美味しそうだ。
でも、それでいいのか。
国内に居たらすぐに見つかってしまうだろう。
「そのお言葉、嬉しいのですが、お受けできません。俺は旅人です。次へ次へと向かわないといけないのです。だからお力になれなく申し訳ないですが、お断りさせていただきます」
これが一番いい回答だろ。つまり俺は優良なんだね。やったね!
「そうですか。気が変わったら教えてください。でも、今日はもう暗いので今夜はうちで泊まっていってはどうですか。」
それもそうだな。
窓を覗くとあたりは月明かりでうす暗い。
星が並び、形を作り出している。
俺は了承することにした。
「わかりました。ありがとうございます」
寝静まった夜。
元々人が少ないんだけどさ。俺は部屋を提供してもらい、床についた。
俺はこれからどうするか考えていた。
歩いてまたどこかの町に向かってそこで身を隠そう。
でも、ここには人が来ないし気がつかれることはないんじゃないか。
もしそうだとするなら、ここにとどまるのが一番いい。
明日はどこにも行かずここに居よう。
そう思った後、すぐに俺は夢の中に落ちていった。
翌朝。
おじさんに起こされた。
「ご起床なされられていますか。朝食の準備ができました。支度ができましたら、階下に降りてどうぞごゆっくりしてください」
簡単な返事を返して、俺は身支度を始めた。
身支度を終え食卓に着くと、洋風な料理が豪華に出てきた。
こんなに用意して食い切れるのか。
すこし不安になりながらも、俺は食事を始めた。
食事をしていると、窓から見えたある景色に目にとまった。
もう来たのか。くそっ。
俺はそのことを唯一の町人に伝えた。すると
「ちょっと待ってください。地下に私のビーケフルードがあります。よかったら使ってください」
ビーケフルードってなんだ。しかもここ地下あったのかよ。入口らしいところあったかな。
俺の手を引いておじさんは書室に入った。
ずっしりと本が並んでおり、中央に机と椅子がぽつんと配置されているだけのシンプルな部屋だ。
これなんて読むんだろ。読めねえよ。何語だよ。
おじさんは一冊の本を手に取ると鍵を取り出して、入ってきたドアの鍵穴にさした。
するとガララという音を立てて背後に階段ができた。
めちゃくちゃ凝ってるやん! なんじゃこりゃ。
されに小手招かれ、カツカツと石を叩く軽快な足音を響かせながら俺らは降りて行った。
大して長くない階段を降りきったその先には、バイクらしき乗り物ありおじさんはそれを俺の手元まで運んできた。
「ちゃんと動くかな。それで鍵はこれね。えっとそれと」
ピンポーン。
玄関のベルが鳴った。
「来てしまったみたいだね。あとは大丈夫だから、心配しないで」
そう言って、近くにあったレバーを引いておじさんは書室につながる階段を上った。
レバーを動かしたからだろうか。正面にあったシャッターが開いた。
たぶん普通のバイクと一緒だよな。よくわかんないボタンがいくつかついてるけど。
幸いにも俺は大型バイクの免許を持っていたので、易々と操作することができた。
俺は鍵をさして、ビーケフルードにまたがった。
派手なエンジン音を鳴らしてビーケフルードは発進した。
おじさん。世話になったな。
ビーケフルードは舗装路を爆走していた。
気まぐれで振り返ってみる。
しかし、そこには何もいなかった。
それに安堵のため息をつき、再び正面を見て走り出す。
痛っ。
後方ばかり見ていたので、どこか木にかすってしまったようだった、
木は異常なすり減り方をして倒れた。
ビーケフルードの傷、大丈夫かな。なんか、見えてきたな。町みたいだけど。
心配しながらも、俺は目を細めて町の様子を探った。
巨大な壁が立ちはだかるが、門番はいなかった。
門が開いてるし、勝手に入っても大丈夫だよな。
ビーケフルードの速度を緩めて、門をくぐった。
人っ子一人いないぞ。どうなってんだ。
門を抜けると誰一人おらず、ただ倒壊した建物の瓦礫が転がっている。
何が起きたらこうなんだよ。なんで誰もいねえんだ。
俺はビーケフルードを降りて、押して歩いた。
レンガの赤色や木の茶色、コンクリートの灰色が混ざるあって、なんとも言えない色を生み出している。
空は青く澄んでいる。
雲は白く浮かんでいる。
太陽が頂点で光を照り付ける。
入ってきた対向の壁にそろそろつきそうだった。
本当になにもなかったな。なんだったんだろ、ここ。
門は開いていて、門番らしき人ももちろんいなかった。
門の前で俺はまたビーケフルードにまたがった。
ブーンと走らせた。
あれ。どっかであの木の傷見たぞ。もしかして町に入る直前でビーケフルードと接触してできた傷か。町を曲がりすぎて間違えて戻ってきちゃったのかな。
そう考えて、ビーケフルードを降りて町に立ち入った。
今度はまっすぐ走ってみよう。そうすれば対面にでられるだろう。
そうして町の風景を眺めながら歩いていた。
景色は変わることなく、瓦礫の山が視界を埋めた。
この町に入って、すでに7時間ほどが経過していた。
しかし、太陽の位置が変わらずサンサンと光を放っている。
やっとの思いで対面の壁にやってきた。
ふう。疲れた。どんくらい歩いたんだろ。帰らしてくれよ。
門を出ると木にあの傷がついている。
あれれ。また戻ってきたのかよ。おっかしいなあ。
フフフ。
何者かの笑い声が聞こえた。
俺はとっさに声のするほうに視線を送るも、何も見えなかった。
気のせいだったのかな。でも戻ってもまた帰ってくるだけになっちゃうんだよな。
そう深く悩んでいるときだった。
非常に大きな地震が発生した。
グラグラ揺れて、瓦礫の山が俺に向かって押し寄せた。
瓦礫らが積み重なり、巨大な形を生み出している。まるで身を寄せ合ってできたスライムだ。
そんなものが襲い掛かってきたら、怖くなってしまうだろう。
初期マップにいるやつだからってバカにできないな。まじで。
俺は走って避けた。ぎりぎりだった。
瓦礫が足元まで崩れ、先ほどいた場所の地はもう見えない。
煙がたち周囲がよく見えないなかで町の入り口だけはぽっかりとよく見えた。
あ、あぶねえ。さっきのところいたら死んでたな。
俺はビーケフルードを押しながら、門を出た。
町の外に出ると、霧がかかっていた。
視界が悪いので足元にある石畳を見ながら道をずんずんと歩いた。
しかし、問題は再び起きた。
霧を抜けるとそこは町の中だった。
瓦礫が転がって煙がたっている。
また無限ループかよ。二回もいらないんだよ!
グラグラと地面が悲鳴をあげた。
立っていた建物が不自然に俺のほうに倒れてきた。
右足が挟まった。声にならない悲鳴が出た。
痛くて痛くて。もだえ苦しんだ。
それを見て笑うのはフードだった。
「フフフ」
「てめえの仕業か。なんてことすんだよ」
腹が立っているのを感じた。
こんなに怒ったのはいつぶりだろう。
挟まれていて足は動かない。かろうじて動かせるのは顔だけ。
俺はフードを見た。
フードの下に白く光る歯が見えた。それと水色の透き通った目と髪。
こいつ女かよ。卑怯だろ。
女性の顔つきで苦しそうな表情をしながら俺をにらむ。
憎たらしくてしょうがない。その表情。嫌になるね。
フードがいつの間にか右手に剣を握っていた。
なんだ。殺すのかよ。面白みに欠ける人生だったよ。俺、死ぬのか。
そう思って目を瞑った。
カキンッ!
あれ。痛くないぞ。何が起きたんだ。
俺はおそるおそる目を見開いた。
そこに広がった光景は意外なものだった。
倒れていたビーケフルードが立ち上がり身代わりをしていた。
「逃げるよ。早く跨って」
喋った! ってか傷ついちゃった。何してくれてんだよ!
俺が驚いて硬直していると、ビーケフルードが急かすので俺は焦ってまたがった。
「おい!逃げんなよ」
俺はそんな発言を気にもかけず、発進しようとした。
「おい、ひとつだけ質問する。てめえはなんで俺を殺そうとすんだよ」
するとフードは無言で剣を振り下ろした。
しかし振った剣は掠りもせず、むなしく空を切った。
そのまま走り出して俺は逃げた。この町から出られるのかも知らずにひた走った。
霧を抜けた先にあったのは、一面電気で彩られた町だった。
一見普通の町に見える。
が、動いているのは機械だけ。人間どころか動物すらその目に姿は映らなかった。
ここに住んでいる人はどうしたんだろう。機械は反応してくれるかな。声をかけてみよ。
「こんにちは。機械さん。こんなところでなにしてんの」
「人間なのかな。いらっしゃいませ」
なんなのこいつ。人の話まったく聞かないじゃん。質問くらい答えてくれよ。
「そうだよ。俺は人間だ。だからなんだっての。食い殺すの」
まあ人間って言っておいて不利益なことはないでしょ。軽い考えだった。
ビーケフルードを見た機械は俺の発言を無視して言った。
「あ。それ、傷が。直しましょう」
今度は急に話を変えてくるんですか。そうですか。こいつ耳ついてんのかよ。あ、機械だから耳はないのか。あっはっは。笑えねえよ。
俺は何も考えず機械にビーケフルードを差し出した。軽率過ぎた。
機械はビーケフルードをもってついてこいとだけ言った。
不器用なやつ。
その言葉を残し、ビーケフルードを持った機械を追いかけた。
機械についていくと、なにやら工場らしきところについた。
道中、人間やらなんやらだと何度も言われた。そんなに珍しいもんなんかね。
聞いてみるとここに人間はいないし、来ない。まあ珍しいみたいだね。
ついたよと言って工場を指さした。
シャッターが開いて、俺たちは工場らしき場所に入っていった。
工場の中は機械たちが仕事のために右往左往していた。
「この町の機械はすべてここでできているんですよ」
なるほど。ここでこの町の機械が生みだされてるのか。すごいな。
感心していると奥に進んでいった。
なんだかよくわかんないな。どうなってんだ。
天井を見上げれば機械がせわしなく動き続け、柱に支えられて空中に浮かぶベルトコンベアで生産途中の機械たちが流されていく。
地面を見下ろせば、地下まで続く階段が暗くて深い奥底までつながっていて、ぽつぽつと火花や照明の明かりが消えたりついたり点滅を繰りかえしている。
すげえところだな。俺の家の近くの工場もこんな感じに作ってたのかな。
大きなドアを開けて道案内した機械がこっちこっちと手招きした。
もうすこし見せてくれてもよくね。ちょっと急ぎすぎだろうがよ。
完全にここにきた目的を忘れていた。
大きなドアを抜けた先は中身が飛び出たり、傷がついていたりする機械たちであふれかえっていた。
「ちょっとそこ座って待っててくださいね」
どこからか椅子を引っ張り出してきて、そう言った。その後さらに奥の部屋に入っていった。
ビーケフルードどんな風になるんだろうな。
しばらく待っているとちょこんと横に座った少女がいた。
茶色のフードで俺を殺そうとしたやつに似ている。
まさかあのやつがこいつじゃねえよな。身長差ありすぎるもんな。
なんだ。人いるじゃん。俺だけじゃないんだな。
「なんで、ここ、きた」
ん。なんだ。やっぱり珍しいから気になるんか。
「知らん。いや、その、ごめんなさい。ちゃんと話しますからその右手に持つ剣をおろしてください」
すっと剣を右手に収めていた。フードからのぞかせる目のように青く澄んだ少々大きめの剣。
俺の姉ちゃんくらいの低い身長だな。
あぶねえな。あれで切れられたらすぐに死んじまうよ。
俺は襲われてビーケフルードで間一髪のところを逃げてきたことを話した。
「そう、なのね。知ってたけど」
「ん。なにか言ったか」
「な、なんでも、ないわ、よ」
すると大扉が開いてビーケフルードを持った機械が出てきた。
傷一つない。めちゃくちゃ綺麗になって帰ってきた。これは驚いたな。
「できましたよ。それでこの後はどちらに行かれるんで」
どこに行くかってか。特に行くところなんてないな。どうしようか。
あ、そうだ。おじさんのところ行ってみようか。バイクくれたのにありがとうの言葉伝え損ねちゃったからな。でもあれってどこだったんだろう。
俺はそれを言い渡し、別れの言葉を告げた。
あのフードの少女が気にかかるな。なんだかどっかであったような感覚がして。
俺はビーケフルードにまたがりそそくさとその場を去った。
どこにあんのかな。
ビーケフルードが大きな音を鳴らしながら豪華に走っていた。
ダートで煙をたたせながら走っていた。
おじさん。なにしてるかな。
ゴツン。
なんだか重たい音が後方から聞こえた。
音の正体を確認するために前方に注意しながら俺は振り返った。
フードの女! なんでこんなところに。くっ。
困惑と恐怖が入り混じった。
剣ぶん投げんなよ。あぶねえじゃねえか。
急に剣を投げてきた。剣は目の前にあった岩に命中して、突き刺さった。
刺さった岩は砕け散って煙を立てた。
すると煙からフードが出てきた。
フードは剣を抜き取り握った。
あれ。あの剣って。
フードから覗く目の色のように青く澄んだ剣。少々大き目な刀身。
機械の町にいたあの女の子だ。でも身長が高くなっている。
煙があたりに一面にたった。
不思議と殺されると思った。
焦ってビーケフルードを転がしてしまった。
痛え。畜生。さっき直してもらったばっかりだったのに。
「死ね!」
剣を振りかざし、俺のもとに走ってきた。
完全に殺す構え。
はあ。死んじまうのか。もう逃げ続けるのも嫌だな。もういいや。
力を抜いて、切られる覚悟を決めた。
「おい。ちょっと待て。なんで泣いてるんだよ」
彼女の頬に涙が流れていた。
「あんたには関係ないの!」
「人を殺すのが怖いのか。そんならやめちまえよ」
手が震えていた。何か思うところがあるんだろう。
剣を逆手に持ち、俺をまたいで心臓をつくつもりだろう。
こいつは何を考えてんだ。なんで俺を殺さないといけないんだ。
まじわかんねえよ。
俺はフードの下を睨んだ。
大粒の涙が俺の顔にかかる。
なんだか見たことのある顔だなあ。
そう思って目を閉じると意識が吹っ飛んだ。
んん。まぶしい。
目を開けるのが困難なくらいまぶしい光が俺の体を包む。
「お……て……起きて……起きてよ。史郎」
誰だよ。ああ、そっか。俺死んだんだっけ。なるほど、天使か。
「バカみたいなこと言わないでよ。あたし、天使なんかじゃないよ」
体を起こして目を見開いた。
病室にいた。そして目に映ったのは国王様。さっきの声は一体。
「あれ。なんでここにいんの」
「あまり無理するなよ。史郎。君は大きな傷を負って意識を失っているところを発見されたんだ」
そうなんだ。殺されなかったのか。やっぱり殺しなれてないんだな。
「なんだ。いろいろ事情はあると思うが、ここに滞在させることはできない。悪いが出て行ってくれ」
早速それか。酷いな。まあ規則だししょうがないとは思うけどさ。
「あの。俺の倒れてるところの近くにビーケフルードありませんでしたか」
「ビーケフルード。それはどんなものだ。手荷物は外にまとめておくよう言っておいたから」
ビーケフルードってそこまで周知のものじゃないのか。
ゆっくりと病院をでてまとめられた手荷物を探した。
手荷物の中にビーケフルードがなく、歩いて国外にでた。
めんどくさいな。なんでないんだよ。まさかフードが持って行った訳じゃねえよな。
国外にでてすぐの森に入って抜けた。
その先は。
「おじさんがいる町だ。ビーケフルードについて話してみようか。ありがとうすら言ってなかったしな」
そう思い、おじさんの家に向かった。
おじさんの家についてドアをノックするが反応がなかった。
いないのかな。
ドアに手をかけてみるとギギギという音を立てて開いた。
おじさんどこいるんだろう。外にいるのかな。
そう思いながら一階を見渡した。しかしおじさんは居なかった。
そして二階に向かった。
やっぱり外に居るのかもしれないな。って何か変な臭いがするな。臭いきっつ。
もしかしたら。そう思って慌てて階段を駆け上がった。
おじさんは亡くなっていた。
酷い傷。ものすごい深くきれいに切り裂かれている。
何で切られたんだ。こんなことするなんて誰だよ。
「私以外いるの」
「てめえ。なんで殺したんだ」
「あいつが邪魔するのよ。殺すしかないでしょ」
邪魔しただと。おじさんはこんなに人柄がいいのになにの邪魔をしたんだ。
「あいつ。あんたを殺すのに家に入ろうとしたあたしを止めたの。あんたのために死んだのよ」
嘘だろ。おじさんが俺のために死んだ。俺が殺したのか。
思い詰めた。自分が嫌いになった。
自分が殺されたくないからって人を殺す。最低過ぎるだろ。
「人を殺したんだもの。あなたも殺されなきゃねえ」
死刑みたいなもんだな。殺されて当然というか。まあそれぐらい重たい罪ってことだ。
でも本当にここで死んでもいいのか。殺されたおじさんの分まで生きなきゃいけないんじゃないのか。
「なんで君は僕をそんなにも殺そうとするんだよ」
「死ぬ直前の最後の言葉がそれか。いいだろう答えてやる。ここは異世界。お前が住んでいた世界とは別の世界。そして史郎。お前はあたしの弟だ」
は。何言ってんのこいつ。実の弟を殺そうとするとかどんな状況だよ。なんでだよ。
「え、異世界についてはスルーなの。気にならないの」
「気にしてほしいの。やだね。つうか魔法とか王とか異世界転生物でよくある話だろ。気づかないほうがおかしいわ。そんで自称姉ちゃんはなんで殺すの」
「あたしはこの世界に入ったよそ者を殺す役目をしているの。あなたはあたしが召喚に失敗して生まれちゃったの」
だからって実の弟を殺すのか。
おじさん。俺、どうすりゃいいかわかんなくなってきたよ。
「だからあなたを殺す」
「しょうがないな。黙って殺されるよ」
俺は両手を上げて降参の構えを見せた。地面に寝そべり、どうぞ殺してくださいと言わんばかりの態度を見せた。
姉ちゃんは剣を振り下ろした。
ああ。死んじまった。つまんねえ人生だったな。
と思っていた。しかし、痛みがいつまでたっても来なかったので俺は目を開いた。
剣を地面に突き刺して泣いていた。
またこれかよ。いい加減にしてくれ。でも信じてたぜ。
姉ちゃんなら俺のこと殺さないってな。
「殺すなんてできないよ。無理だよ。なんでこんなかわいい弟を殺さないといけないのよ」
ボロボロとまたがって泣いていた。
大粒の涙があふれて頬をたどる。その涙は俺の頬に零れ落ちていく。
「ビーケフルードは返すわ。もうこの世界にこないで。早く帰って」
ビーケフルードを受け取り逃げた。
やっぱり持ってたな。これで完璧だぜ。
「こら! せっかく生かしてやったのに、帰らないとか殺してやる」
殺すのか殺さないのかはっきりしてくれ。
ビーケフルードがいい音を鳴らして走り出した。
気が付かぬ間に異世界転生したら 里憂&抹茶パフェ @Subelate
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