最高のもてなし

 皿は次々に運び込まれ、ずらりとハサンの目の前に置かれた。それらをハサンは次々と口の中に入れた。どれも素晴らしく美味しいものだった。焼いた鶏肉に、蒸した米に、野菜を煮たもの、揚げた魚、甘い蜜のかかった焼き菓子、色とりどりの果物……。とても豪華に見目よく仕上げられていたが、ハサンが故郷で食べていたものと、ひどく違っているということはなかった。けれども口にいれ、一口二口噛んでいくと、何やら奇妙な味わいになる。知っている食材からなるもので、最初は予想通りの味がするのだが、そのうち、どこかおかしいと気づくのだ。何やらどこかが過剰なような……少し甘すぎるような、または辛すぎるような。しかし、具体的にはっきりとここが変だということはできない。とりあえず、美味しいことは美味しい、というよりも、こんなものを食べたことはないと思うくらいに非常に美味なのだ。なので、ハサンは、せっせと食べることに集中していた。


 玻璃の酒瓶を持った侍女が現れた。ハサンの杯に紅い酒を注いでくれる。それをハサンはぐっとあおった。のどに沁み、胸に広がる美味しさだった。爽快さが広がり、これならいくらでも飲めそうだと思った。侍女はさらに注いでくれた。その光景を女王が愉快そうに見ている。女王の瞳は硬質な薄い青だ。それをじっと見ていて、ハサンはおかしなことに気付いた。青の中にまた別の色がある。緑だったり黄色だったり紫だったり……それがゆらゆらと揺れている。ハサンはふと、自分が持っている謎の珠を思い出した。今も袋に入れて首にかけている。まるであの珠のように、女王の瞳は得体が知れない。


 女王を取り巻く美しい侍女たちは、楽器の演奏を始めた。琵琶を抱き、ものうげにはじきながら、そっと歌を歌いだす。その言葉はハサンが理解できないものだった。けれども歌の上手さはよくわかった。切ない旋律が、言葉の意味がわからずとも、悲しみをこちらの胸に掻き立てていく。それが終わるとまた別の侍女が歌った。こちらは明るいもので、思わず立ち上がって踊りたくなるような陽気さだった。


 いつの間にやら、女王がハサンのすぐそばに寄り添っていた。しかもこちらに身体を預け、しなだれかかっている。ハサンは悪い気はしなかった。美女がいて、美食があって、こんなきらびやかな部屋で……。行く先に美女と金銀財宝があるかも、などと言ったが、本当に存在したではないか! ハサンはちらりと仲間たちのことを思い出した。彼らは今頃何をやっているのかなあ……。別の部屋でもてなされているのかなあ。なんだか自分だけこんな幸福な時間を味わうのは悪いような気もするが……。まあ彼らは彼らで楽しくやってるのかもしれない。


 そのうちに頭がぐらぐらとしてきた。酔いが回ってきたのだろうか。ぼんやりと霞み、そして無性に眠くなってきた。ハサンは自分でも知らぬうちにうつらうつらとしていた。瞼が重い。そして女王に寄りかかると、崩れるように、その膝に頭を置いて、たちまち眠ってしまった。


 唐突に沈黙が訪れた。女王が険しい顔をしてハサンを見ていた。侍女たちも歌や演奏を止め、じっと二人を注視している。女王の手が伸びて、ハサンに近づいた、胸の辺りに触れそうになったとき、突然、女王が叫び声を上げた。何かが彼女の手をひどく攻撃したかのようだった。女王は怒り、そして立ち上がった。ハサンは膝から転がり落ちたが、そのような目にあっても、全く目を覚ますことなくぐうぐうと眠り続けていた。


 女王が何かわからぬ言葉で悪態をついた。侍女たちがやってきて、口々に慰めているようだった。女王は憎々し気にハサンを睨みつけると、侍女たちに何かを命じ、そして自分は足音荒く、部屋を出て行った。




――――




 一方、ハサンと離れ離れにされたアジーズたち一行は、狭い殺風景な部屋に放置されていた。小さな部屋であった。調度品と呼べるものはほとんどない。むきだしの石の床と壁が、ひどく寒々しかった。アジーズたちはいささか乱暴にそこに放り込まれ、そしてまた乱暴に扉を閉められた。そして全く彼らのところにやってくるものなかった。


「……一体我々はどうなるのでしょうな」


 聞いたところで仕方がなかったが、ターヒルは船長に、そう聞かずにはいられなかった。どうもこれは、あまり歓迎されているようには思えない。

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