陽に照らされ輝くのは

空眼の白狐

読み切り短編

大分暑さも落ち着いて来た日の放課後、

俺は市立図書館で勉強をしていた。

空調等の設備も整っているし、集中を邪魔するものも無いから勉強するには丁度良い場所なので、よく通っている。

もうすぐ中間テストだ。その後の期末テストで俺の進路が左右されるのだが…

俺は勉強が得意な方では無いのだ。


特に苦手なのが現代文を始めとした国語だ。

いつも…何と言えば良いのか、パターンが掴めず苦戦する。周りは皆、暗記してしまえば簡単だと言うが、それでは最終的な理解と言えない。俺のこの変なプライドが邪魔をするせいなのだ。

何故こんなに喋っているのかって??


…決まってるだろ。


『分からねぇ…』


もう無理、頭が真っ白だ。



(?)「よっ!」


バシッと力強く背中を叩かれた。不意を突かれ思わず


俺『ふぇっ!?』


…変な声が出てしまった。


(?)「アッハハハハハ!」


(?)「やっぱ◯◯からかうのは面白いわー」


(俺)『ちょっ、先輩!ここ図書館ですから!』


…この人は天海先輩、俺達の入学式が終わってすぐの学校紹介で俺のいた班を担当してくれた人だ。面倒見が良く、勉強も出来るしバレー部でもキャプテンとして実力のある人だ。…美人でスタイルも良いし……。とにかく周りからも人気のある人だ。


(天海)「勉強、進んでるー?」


それに比べ、俺は普通の中の普通、超凡人だ。なんで俺なんかの勉強を見てくれるのかと言うと、学校の図書館で俺が勉強をしていた時に会ったのが始まりだ。今いる市立図書館は先輩に勧められて来たのだが…何故か毎回先輩は来る。もしかして…


(天海)「ちょっとー?聞いてるー?」


(天海)「…もう、なんか言いなさいよ!じっと見つめられてるの、慣れてなくて恥ずかしいんだけど!」


(俺)『あっ、、すみません。ボーッとしてました…』


…いかん、見惚れてしまった……


(天海)「どっか分かんないとこあるの?」


(俺)『え?』


(天海)「え?…って、、勉強だよ。大丈夫?疲れてるんじゃないの?たまには息抜きしなさいよ〜」


そう言って先輩は俺のペンを取り、ペン回しし始めた。仕方なく予備のペンを出す。


(俺)『…先輩は…勉強しなくて良いんですか?』


(天海)「私?しなくたって余裕だもんね〜」


先輩はいつでも余裕そうだ。


(俺)『あ、先輩。』


(天海)「何〜?」


(俺)『ここの、この文章なんですけど…』


(天海)「あ〜、これはね〜…」


先輩から教えて貰うのは本当に分かりやすい。でも、先輩と数ヶ月一緒にいても分からない事がある。


先輩の…気持ち…

…先輩が俺のことをどう思っているのか知りたい。こんな俺の勉強を見てくれるんだから…本当にもしかしたら…


(天海)「おーい!…またボーッとして、分かったの?」


(俺)『あっ、、。すみません!考え事してて…』


(天海)「…本当に大丈夫?疲れてるんじゃない?…あ、それとも悩み事?それも…恋とか?」


…先輩がまたからかっている時特有の笑い方になっている…悩みの原因は先輩なんだけどなぁ……。

よし、俺もからかってみるか。


(俺)『先輩!』


(天海)「何なに〜?私に話してごらんよ」


(俺)『…我輩は猫であるの文豪って』


(天海)「え?勉強の方?真面目だな〜。夏目漱石だよ。…これ前も教えないっけ?」


(俺)『月が綺麗ですね…は?』


(天海)「“I love you”を勝手に解釈して和訳したものでしょ?」


(俺)『それが…』


(天海)「ん?」


(俺)『…月が……綺麗ですね。』


(天海)「…え、なに突然?今日は曇りだよ?」


…本気だと思っていないようだ。いつもからかう時のように笑っている。


(俺)『曇り…ですけど…』


(俺)『それが、、俺の先輩への気持ちです。……好きです。先輩。』


(天海)「え?………わっ、私をからかおうなんて10年早い!さ、早く勉強の続きを…」


(俺)『本気です。先輩が好きです!付き合って下さい!』


…沈黙が流れる。ほんの数秒でも、俺にはとても長く感じられた。


返事が来ない。恐る恐る顔を上げてみた。

怒っては…いないようだ。ただ…笑顔が消えていた。どこか寂しそうな、、それでいてそれを誤魔化すように驚いているような表情だった。


(天海)「ごめん、今日は帰るね。」


(俺)『えっ…』


次の言葉が見当たらなかった。言葉を探している内、先輩は行ってしまった。


…追いかけなければ。


テーブルに広がっていた勉強道具を雑にリュックに押し込み、急いで図書館を出た。


風が…強かった。雨が降ってくるのかもしれない。急いで先輩を探すと百十数メートル先の信号を渡っているところが見えた。俺は急いで駆け出した。


急ぎ過ぎていた。先輩しか見ていなかった。




俺は…赤信号の道路に飛び出し、トラックに轢かれた。


意識の薄れていく中、体に打ち付ける雨と近づいてくるサイレンの音だけがハッキリと聞こえた。



死ぬのか…俺…



(俺)『だっせぇなぁ…。』


気がついた時は一面、白い場所だった。そこが病院と気付くには少し時間がかかった。


生きてたのか…


…先輩は…どうしたんだろうか…


そこへ看護師が入ってきた。俺の意識が戻ったのを見て俺の担当医を呼びに行ったらしい。その後聞いた話だと、俺は1ヶ月半眠っていたらしい。テストなんてとうに終わっていた。


そこへクラスの委員長が入ってきた。


(俺)『あ、委員長…』


(委員長)「あのね…その呼び方ムズムズするからやめてって言ってるじゃん。私にはちゃんと撫子って名前があるんだけど…」


確かに委員長は大和撫子みたいな綺麗な人だけど…呼ぶにはなんか照れくさい…


(撫子)「あ、そうそう、今日来たのは色々言いたいことはあるんだけど…それはまた今度。◯◯君に用がある人が来てるから私は帰るよ。」


(俺)『あ、うん。ありがと委員長…』


(撫子)「だから!委員長じゃなくて撫子!」


ニッと笑い、頑張れよと言い残して委員長は出て行った。でも、代わりに入って来た人がいた。


(俺)『…先輩……』



(天海)「…なんで…追いかけて来たの?」


(俺)『え?』


(天海)「あの時…」


(俺)『…だって…あれで終わるのは嫌だったから…』


(天海)「だからって…」



(天海)「私だってあんなので終わるのは嫌だよ。逃げた私も悪いのかもだけど…でも、◯◯が死ぬのはもっと嫌だよ。」


(天海)「私だって◯◯が好きだよ。」


(俺)『え…?』


(天海)「だから!私も◯◯が好きなんだって!」


突然すぎる…俺から言ったとはいえ…傷の痛みと嬉しさのあまり意識が飛びそうだ。


(天海)「ちょっと…黙んないでよ。」


(俺)『本当に……俺から言った事だけど…俺なんかで良いんですか?』


(天海)「俺なんかなんて言わない!…◯◯だから私も良いって言ってるの!」


嬉しかった…心の…底から…。


(俺)『今日は…良い天気ですね…』


(天海)「うん…」


先輩の顔は真っ赤だった。


(俺)『先輩、熱…あるんですか?』


(天海)「へっ⁈なっ、無いよ!」


(俺)『…今日の天気なら今夜はきっと…月は…きっと…』


(俺・天海)『月が綺麗ですね。』


…沈黙が流れる。先輩の顔はさっきよりも赤い。


(天海)「じゃあ、、今日はもう帰るね。」


(俺)『はい。先輩、ありがとうございました。』


(天海)「それ!私のことは次からは日菜【ひな】って呼んで!」


(俺)『え…』


(日菜)「…恋人同士なのにいつまでも先輩って呼ばれるのは……」


(俺)『恋人……』


(日菜)「もう、しっかりしてよ!」


その瞬間、先輩の顔はゆっくり近づいて来て俺の口に唇を重ねた。


(日菜)「じゃ、また明日!…あの時、、那月【なつき】が追って来てくれて嬉しかったよ。」


(俺)『えっ?まっ、また明日…先ぱ……日菜…さん…。』


ニコッと笑い、先輩は出て行った。


あの時…先輩にテスト…されてたのか…。


(俺)『早く治さなきゃ。治して…一緒に」



「…月を見よう。』


雲ひとつ無い空はこれからの俺たちを応援してくれているかのように登り始めた月を一層輝かせて見せた。

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