ケツワリバシスト・善!

@yoshiyoshi8

第一膳 ケツ割り箸との出会い!

 キーンコーンカーンコーン…


 県立杉地部小学校…5-2でも帰りの会が終わり、今日もいつもと変わらない放課後のチャイムが鳴る。生徒の大半はいつもと同じ帰路につき、そして識潔善しりけつ・ぜんもまた、いつも通りにクラスメイトに声をかけられ…


「ゼン!どう?今日は一緒にドッヂやれそう?」

「おう!今日こそ俺も遊ぶぜ!」


 どどどどどどどっ!ばっしーん!


「ゼーン!まだこんなところにおったか!さあ修行の時間だぞぉ!!!」

「おぉおおおおおおっっっ!親父なんでっ?!今日は…くそおおおおっっっ!はーなーしーやーがーれーえええええええええ!!!!!」

「あー…さよなら…はあ、今日も駄目か-。ドッヂの後に「アレ」も誘えるとおもったんだけどな…」


 いつもの通り、教室に駆け込んできた父親に拉致され、クラスメイトとは遊べないまま家へと帰宅するゼンをクラスメイトは見送るのであった。





「全く何度言ったらわかるのだ!この識潔神社をもり立てて行くには、お前の年頃からしっかり修行をせねばならんと言っておろうが!」

「うるっせぇよ!こんな神社より俺はダチと遊びたいんだって!だいたいなんだよそれだったらもっとマシなことさせろよ!なんで毎日毎日筋トレと祭りの練習なんだよ!」

「だまらっしゃい!いいか?祭事は神事とも言うように、祭りは神へと捧げる大事なもんなんだぞ!そして神輿に太鼓に…なににつけても体力勝負!まずは鍛えなきゃ話にもならん!」

「…百歩譲って鍛えるのは良いけどならせめてトレーニングウェアくらいは…」


 杉地部町にて唯一の神社である識潔神社…小高い山の上にある、町の由来にもなった巨大な神木の傍らに立てられた神社の社にてゼンと父親が口論を繰り広げているが…ゼンは小学校で着ていたハーフパンツを脱いでおり、褌一丁となっていた。それもこれも父親の実践主義。祭事における姿を極力再現すると言う事らしい。それも祭司としての関わりはまだ禁じられ、青年会などのやることに混じるのがメインのようでげんなりした表情は隠せない…とはいうものの文句を言いながら四つん這いになり、片足で後ろの空間を蹴り上げるトレーニングをしているあたりそれを含めて慣れたものといった感じだ。


「だいたいだな、こんな神社とはなにごとか!いいか?この識潔神社は古くは室町時代にこの御神木である識潔杉を祀るためにやしろが建てられいつしかその周りに人々が…」


 神社の由来について語り始める父親を前にうへえと表情を歪ませているが、段々熱が入り目を閉じて陶酔しながらしゃべり始めてくる父親を確認すると、つま先立ちとなり足音を消して立ち去ろうとする…


「そう!この神社をもり立てていくのは即ち町をもり立てると同義で…んん?コラどこへ行くっ!」

「げげっ!」


 しかしそううまくいくはずもなく、逃げ去ろうと十数メートルほど距離が空いたところで流石に気配が無いことを悟られてしまう。そのまま父親が駆け寄りジ・エンドかと思われたそのとき、二人しかいなかった境内に別の声が聞こえてくる。


「やっとついたわぁ。エスカレーターとか付かないのかしらねえ」

「いいじゃないこれくらいダイエットよダイエット」

「あっらぁ結野さんには必要ないんじゃない?スタイル良いもの」

「そんなことないわよぉ、うふふお上手ね♥」

「ここは御利益あるからダイエットついでにちょくちょく来るのも確かにありね」


 がやがやと姦しく階段を上がって姿を現す集団…平均年齢若干高め、やや配色が多めの女性陣…杉地部町の婦人会にして識潔神社氏子代表のご婦人達だ。

「あらー神主さんわざわざお出迎えありがとうございます-そんな気を遣うこと無いのに律儀ですこと」


「あー、えー、これはこれは…ええと、本日は…」

「おほほ、ご冗談を。お電話で話したとおりですわ」


 紫を基調とした服装にやたらでかい帽子をかぶったリーダー格の女性が声をかけると、神主である父親はやや押され気味で対応する。せざるを得ない。ご近所づきあいにおいておb…ご婦人を敵に回すのは死を意味するからだ。

 しかしこの様子、どうやら突発的な訪問というわけではないらしい。父親の頭の上に疑問符が浮かぶが、婦人会の面々から隠れるようにしてそろそろと階段を下り既に頭しか見えなくなっていたゼンを見てぴんと来て、さらに振り返った善の勝ち誇った表情を見て確信する。


(こんにゃろ…!!!電話受けて俺にわざと伝えなかったな…!)


 そう、学校にてなんらかの策があるように振る舞っていたのはこのご婦人達の電撃訪問により父親が対応に四苦八苦することを見越してのことだったのだ!時間差ではあったが策が成ったのを勝ち誇りそのまま風のように階段を駆け下りる。


「待っ…あーんん…えーこちらへどうぞー」

「ご丁寧にどうもー」

「ちょっといい男よね」

「息子さんも将来有望♥」

「いやだ犯罪よ」

 氏子の前で声を荒げる事も出来ず、流されるようにしてパワフルなご婦人達を相手にする父親であった。





「ふぃ-、今日こそ逃げてやったぜ!…けどあのおばさん達がもっと早くに来てくれたらドッヂも出来てたのに…それに着替える暇も無かったし」


 階段を駆け下り、一息ついていた。だがしかし、その独り言が示すように特訓時の格好である褌に法被という、ちょっと小学生が遊びに行くにはエッジが効いた格好となってしまっている。さすがに警察には捕まらないよなと思いながらとりあえず校庭に同級生が残っているかと思い学校へと進んでいく。


「あっゼン!どうしたのその格好!」

「班津!あっいやこれは…」

「ゼンも大会出るの?!ていうかやってたんなら教えてよ!」

「へ?」


 学校へ付く前、通学路にある商店街の入り口で同級生に遭遇する。メガネで小柄な友人に自らの格好について説明しようとするのだが、なにやら早合点されて手を引いていかれてしまう。


「おいおい、いきなりでなんのことだか…」

「そこまで完璧に揃えてきて何言ってるんだよ、決まってるじゃん!今日、この場所でといったら…」


「ケツ割り箸しか!ないでしょ!」

「はあぁ?!」


 班津の言葉に驚愕の表情を浮かべるゼンであったが、なんやかんや流されている間にいつのまにか受付でエントリーしてしまっていた。流されやすいのは親譲りであるらしい。その間にどうやら班津も勘違いであったことに気づき、申し訳なさそうに説明していく。


「ごめん、まさかその格好でケツ割り箸をしないなんて…ケツ割り箸は今日本中でブレイクしてる新しいジャンルの娯楽だよ!場所を選ばず、最低限割り箸さえあれば一人でも対戦でも遊べる画期的な競技なんだ!もちろん本格的にするには準備も必要になるけどね」

「へぇ…うーん、悪いやったこともないしピンと来ないな」

「そっか…僕はゼンと一緒に遊べたら嬉しかったけどしょうがないね」


豚卑卑卑卑ブヒヒヒヒ…その通り、仕方ない仕方ない…雑魚がビビっちまって逃げてもなあ…」

「その通りでやんす!」

「お前は!豚田…!」


 競技への無知から大会へのエントリーを取り消そうかとなったそのとき、2人に声がかけられる。達磨のようなフォルム、体積にして小柄な班津の3倍はあろうかという小学生にあるまじきサイズ感。6年生の豚田太次郎が取り巻きを引き連れて現れたのだ。


「おい豚田ぁ…!どういうことだ?俺が逃げただと?」

「そんな格好でケツ割り箸をしないだなんて言い訳にしたって無理があるぜ。どうせ雑魚ルーキーが調子に乗って大会に来てみたら、出る直前に我に返ったって話だろう」

「ううーんさすがの説得力!知性派でやんすなー豚田くん!」」


 ケツ割り箸に関しては無知でも、小学生男子の基本的な習性として勝負事にはやたら拘るというものがある。ゼンもまた戦ってもいないのに負け犬呼ばわりをされ、当然怒りの炎を沸き上がらせる。そうでなくても豚田はその体格を利用して昼休みの校庭争奪戦などで横暴をふるうガキ大将…いや、ガキ暴君だ。気に入らない奴に気に入らない態度を取られてニコニコ出来るほどゼンは人間が出来ていなかった。


「おいおい怒ったのか?フン!それならいいぜ、ってみるか?どうやらちょうど一回戦の相手は俺のようだぜ?そう、小学生部門優勝候補のこの俺と!」

「いよっ!さすがでやんす豚田くん!運命に愛された男!」

「いいぜ、そこまで言うなら…やってやる!」

「ゼン?!」


 売り言葉に買い言葉、ケツ割り箸に興味があるかどうかなど関係無く、ただ負けを認めるわけにはいかないとゼンは大会参加を了承する。それに慌てたのは班津だ。自分の勘違いでゼンを巻き込んでしまい、悪名高い豚田との直接対決にまでもつれこんでしまったのだ。罪悪感を感じないわけがない。


「だ、大丈夫なの?ゼン…うん…その感じだと取り消すのは無しだよね…」

「当たり前だろうが!あんなこと言われて黙ってられるか!」

「わかった!僕も全力で支援する!元々は僕のせいだしね!まずは簡単にルールを説明するね!

 

 今回は公式ルールの中では一番簡単な一膳×三回の六本勝負シックススティックスマッチだよ

 使用箸は全員共通で商店街提供の割り箸だから今回は持ち込み不可だよ

 箸を尻のどこにセットするかは選手の自由、セット用にセコンドが1人まで登録可能だよ

 セット宣言後に選手・セコンド共に箸に手が触れた場合減点対象、2回目以降は失格になるよ

 選手は自分のタイミングでボタンを押してから持ち時間の5秒を使って割り箸を割るよ

 時間外に不振な動きや審判の静止命令を無視した場合も減点対象だよ

 一膳の箸を尻で割り、技術点と芸術点が各10点、合計20点で採点されるよ

 それを三回繰り返して、総合点ではなく一回ごとの勝ち星を争い二膳先取したら勝利だよ


 こんなところかな」

「へえ…なあ、そのセコンドって」

「うん、僕がするね。ゼンは初心者だから経験者のサポートがあったほうが心強いでしょ?」

「悪いな…お前も選手登録してただろ?いいのか?」

 

 そう、そもそも最初にケツ割り箸を推してきたのは班津だったのだ。当然先ほどのエントリーもゼンだけではなく班津も一緒に行っていた。本来であれば自らの試合に集中したいのが当然であっただろう。


「何言ってるの!言ったでしょ、僕はゼンと一緒にケツ割り箸できたら嬉しいって!豚田に絡まれたのは嫌だったけどゼンが試しにケツ割り箸してくれるなら全力でサポートしちゃうから!フフフ、しかも僕の支援はこれだけじゃないよ…じゃーん!」

「それは…?」


 だが、班津の返答は快いものであり、それだけでなく眼鏡を光らせてごそごそと鞄のなかから取り出したものを誇らしげに掲げて見せた


「TAMOYAの正規モデルスパッツ「サンダーボルト」だよ!最初はゼンが生尻使いナマジラーなのかと思ってたけど、そうじゃないならスパッツは着て置いた方がいいね。念のためにスペア持ってきてて良かったー!」

「お、なんかそれは格好いいな…!」


 黒や青一色のようなものが多いメンズスパッツだが、TAMOYAのケツ割り箸用スパッツは柄とメーカーロゴ入りなので一目でわかる。班津が持ってきた雷の意匠入りスパッツはゼンも気に入ったようだ。勿論機能性も重視されており、伸縮自在でどんな激しいケツ割り箸にも動きを阻害することが無い。更にしっかりとケツの感覚を保ったまま割り箸のささくれから敏感な生尻をガードする優れものだ。


「よし、それじゃあ今からでも特訓を…」

「そろそろ小学生部門一回戦を開始します!第一試合~第四試合に出る選手のみなさんはステージに集合してください!○○くん、××くん、………豚田くん、識潔くん、以上の八人、及びセコンドの人はステージに集合してください!繰り返します…」

「どぇっ!?」

「そんなに早い順番だったの?!…ぶっつけでやるしかないか…」


 準備が整い、多少でも練習しようかというタイミングでの招集…焦りはするが、遅刻などしたらおそらく失格だ。そうなってはそれこそ逃げ出したような印象が付いてしまうため、遅れるわけにはいかない。流石にステージ上で特訓するわけにも行かず、他の試合の「ミシっ!…みちみち」「ぐぐいっ!…ぐっぐっ…」といった様子を見て感覚を掴むのが精一杯だ。


「さぁーてそれでは注目の試合です!赤コーナー!間違いなく今大会小学生部門最重量!圧巻の優勝候補!豚田太次郎くんの登場です!青コーナー!皆さんご存知、町の名物識潔杉を祀る神社の跡取り息子、識潔善くんの登場です!」


豚腐腐腐腐ブフフフフ!てっきり逃げると思ってたぜ!びびりじゃなくて馬鹿だったみたいだなあ!」

「でかいことばっか言ってると負けたときが恥ずかしいぜデブ」

「ちょっとゼン!そこまで挑発しすぎなくても…」

「デブを語尾にするだなんて豚田くんでもないのに生意気な下級生でやんすね!」

「多分語尾じゃないし俺そんな語尾にしたこと無いよ?」


 ほどなくして、やたら派手な司会者からアナウンスを受けた二人がそれぞれセコンドを伴って入場する。やはりというべきか、豚田のセコンドは揉み手が激しい取り巻きだった。180を越える体格を誇る豚田の迫力は、体格的には一般的な小学五年生であるゼンと並ぶことで否が応でも強調されて観客席にはどよめきが走っていく。


「あんなの…どうやっても勝てなく無い?」

「相手の子が可哀想…」

「本当に小学生なのか?」


 当然、その動揺は対戦相手であるゼンへの同情へと変わっていく。…誰もが豚田の勝利を確信する中、一人だけその確信を持たない者が観客席に存在していた。


「うっわー…先輩見てくださいよ。かわいそうですねあの子…あたしちょっと飲み物買ってきて良いですか?結果わかってるしいじめっぽいの見たくないし…」

「あら、それだったらまだここで見ていても良いと思うわよ?多分貴方が思うほど圧倒的な差があるようには思えないから」


 どこにでもある商店街の光景の中で、その人物は明らかに浮いていた。真っ赤な上下の女性用スーツに高いヒール。そしてボリュームのある金髪に派手な印象だが圧倒的な美貌。傍らにいる女性がよく見るリクルートスーツに黒髪のショートカットであるためその存在の浮き上がり方が更に顕著となっている。


「な、なあ…さっきから気になってたんだが、あれってケイト・ローズヒップじゃないか…?」

「ケツ割り箸四天王の?まさか…なんのためにこんな田舎に来るんだよ、他人のそら似だろ?」


「…ケツィ先輩、気づかれてますよ。騒ぎになる前にどっか行く方が良くないですか?」

「嫌。せっかくケツ割り箸の大会があるのに素通りするなんて一人のケツワリバシストとして不可能だわ。堂々としてれば意外と大丈夫よ?それに…なんだか面白いものを見られそうな予感があるの♥」

「予感ですか…?」


 全日本ケツ割り箸団体BAKKY所属の日米ハーフプロにして、日本最強の女性ケツワリバシスト。通称ケツィ。とある事情があってこの町へと視察に来ていたのだが、たまたまケツ割り箸大会をみかけ、大学時代の後輩でもある新人マネージャーを伴って見学をしているようだ。


「それでは、まずは豚田くんのターンです!褌に割り箸をセットしてください!」

「いくでやんすよ豚田くん!」

「おうさ!へへっ!それっぽきゃどこでもいいぜ?どこにおいても、俺の尻圧は最強だ!」


 ケツ割り箸は「自分のタイミングで持ち時間のスタートを決められる」というルール上、同時にではなく先攻後攻で競技が行われる。じゃんけんの結果豚田が先行を取ったためにゼン達はほっとしていた。なにせゼンはケツ割り箸初体験ビギナーだ。少しでも多く参考を見るに越したことはない。


「セット完了だ、離れてろ!」

「頑張ってくださいでやんす豚田くん!」

「………スタート!ぬぅおおおおおおおおおおおっっっっ!」

「あ、あれは…!」


         ミシィ…びきびきびきびきバリィ…っ!


 万力のような力を込め、全力で尻圧を割り箸にかけていく豚田。みちみちと負担がかかる音と…それに続いて乾いた破砕音が観客席へと届けられる。


「5秒!それまで!半折はんせつのため測定に入る!」

「手を触れないで………40度!鋭角です!」


「ウォオオオオオオオオッ今日の最高記録だ!」

「小学生で45度を上回るかー…尻尾とはいえこりゃやばいな」


 ケツ割り箸において、最良の結果と言えばもちろん完全に折り切り、地面へと割り箸を落下させることだろう。しかし折りきれずに褌へと箸が残り、まるで「尻尾」のようになってしまったとしても達成度の違いは当然存在する。曲がっただけであるかそれとも折る直前までいくか…それらを計測するために審判は分度器を持って5秒折り続けた割り箸を抜き取り、角度を計測…そしてその後審査員達へとその割り箸を提出して割れ方を吟味することで採点を行うのだ。豚田は「尻尾」にこそなったが、一つの尺度である割り箸の角度を「鋭角」としたことにより大きく評価を上げていた。


「鋭角…!」

「…すげぇな。ステージの脇で他の試合見てたけど間近で見ると迫力が違うぜ…」

「おいおいおい?迫力が違うのは距離の問題じゃねえよ!この俺の!この!ケツのパワーこそが!他の有象無象とは格が違うってことなんだよ!」


 そう…褌からあふれ出した双丘がみちみちと割り箸を圧迫、破砕していくのは凄まじい迫力であり観客と審査員達を熱狂させていた。勿論それは芸術点にも加算され…


「出ました!技術点6,8!芸術点7,4!合計14,2点です!」

「嘘でしょ?!今までの点数、ほとんど二桁いってないんだよ?」


豚覇覇覇覇ブハハハハ!このまま俺様の優勝まで一直線までいかせてもらうぜ?!」

「いよぉっ!豚田くん!最強!無敵!痺れるでやんす!!!」


 体格に見合う実力を見せつけた豚田を前にして、顔面蒼白となるゼン達。しかしそれでも逃げるわけにはいかない。ケツ割り箸大会において折るのは箸、心ではないのだ。


「いくぜ…頼む班津。ポジションとかわからないからお前が見立ててくれ」

「わかった。けど感覚的に微妙だと思ったらすぐ言ってね?あくまでプレイヤーはゼンなんだから。…あっ!」

「どうした?」


 褌に箸を差し入れ、角度などを調節していた班津が驚いたような声を漏らす。ゼンもそれに気づきつい後ろを振り返るが、班津はぶんぶんと首を振る。


「いや、なんでもないよ!ゼンは集中して!(なんか、ちょっとごつごつしてたような…?)」


 セットを完了させると、班津は己の手に残る感触をいぶかしげに反芻しながら審判に宣言して距離をとった。ここから先はゼンの力にかかっている。


「すーっはー………スタート!ふんぎぎぎぎぎぎっぎぎぎ…!」


         ぴきっ…ぴき…みちっ……ぴ…


「そこまで!半折はんせつのため測定に入る!」

「箸を取るから力抜いて………150度!鈍角!」


「ま、普通の子はそうだよな…」

「けどやっぱ退屈だぜ、あんなんじゃさあ」

「えーでも一生懸命な顔可愛くなかった?」


 全力でのけぞり、尻圧を高めても箸は折れるどころかしなるのが精一杯…そういった参加者は他にもいたものの、直前の豚田が記憶に焼き付いている観客は落胆を隠さずに口に出していく。だが、一番落胆していたのは観客ではない。


「出ました!技術点2,3!芸術点4.9!合計7,2!」

「くっそぉ…!俺は、俺はこんなもんなのかよ…!」

「ゼン…!」

「なんだよ班津!笑いたかったら笑えよ!あんだけでかいこと言ってこんなんで…。俺のケツで割り箸なんて割れるはずなかったんだ!」

「違うよ!」


 あまりの豚田との落差に自暴自棄となり、膝をついて醜態と言える姿をさらすゼンに班津は思わず大きな声で否定する。


「違う…確かにさ、豚田は凄いよ。あんな大きな尻他に見たこと無いよ。けど…単に尻のパワーだけが重要なら、僕だってゼンにケツ割り箸を勧めたりなんかしない。確かに僕も最初は全然駄目で、今のゼンよりもっとひどくて…曲がりすらしなかったよ。けど、色々試して初めて箸にヒビが入ったとき…すごいっておもったんだ。普段全然気にもしたことないお尻で、割り箸を割ることが出来る。僕の身体に、僕の知らないパワーがあったんだって。ケツ割り箸は…可能性の競技なんだ!だから、「自分に出来るはず無い」だなんて言わないでよ、ゼン…!」


 班津の眼鏡の奥で一滴の雫が流れ落ちるのを見ながら…本当に不甲斐ないのは割り箸を折れなかったことではないと気づく。ゼンの瞳に戦意の炎が再度灯されていく。


「悪い、ちょっとどうかした。次も頼むぜ、班津!」

「………!うん!頑張ろう!」

「ふん!茶番はそこまでか?いいぜ、速攻でカタぁつけてやるぜ!セットだ!」

「はいでやんす!」


 二人が持ち直している間に、豚田はセコンドに指示を出して褌に箸を再セットする。審判の確認が終わり次第間を置くことなくスイッチが押され…


「ふんっ…!おっらぁあああああああん!!!」

 

       ミチィ…びきっ!ぴしぴしぴしぃ…っバツィ…っ!


 先ほどと同じように万力のように力を込めて尻圧をかけていく。ケツはぶるぶると震え褌を支え引き上げる手は腰から脇腹へと位置を変えるほどだ!


「5秒そこまで!半折はんせつのため測定に入ります!」

「…………50度!鋭角です!」


「技術点6.6!芸術点6,4!13,0点ン!」

「ハァハァ…これが俺様の実力よぉ!」


「おぉおおっ!また鋭角か!」

「さっきより記録は落ちたがやっぱりすごいな…」


 続けて出る高得点に観客は沸きあがり、そしてケツィ達もまた、豚田とゼンの対決に関して話に花を咲かせていた。


「ほぉらぁ~!やっぱりあのおっきい子が勝っちゃうじゃないですか!勝負になってないですって!先輩逆張りは辞めた方が…」

「ええそうね、「今のまま」ならあの子が勝つのは難しいでしょうけど…次はちょっと違いそうよ?」

「え?」


「班津、セットを頼む。さっきと同じでお前が良いと思うところで」

「ゼン、でも…」

「大丈夫だ。今度は俺が違う」

「…!わかった!」


 二度目であるためゼンの尻型も把握している班津は、てきぱきと褌に箸を差しこんで完了宣言をする。ゼンの瞳の煌めきに勝機の存在を期待しながら。


「(試して工夫して…それで班津は実際にんだ。なら、豚田のやり方が唯一の正解じゃないってことだ。あいつ以外のプレイヤーは?それに豚田の二回目は点数が落ちてた。一体何が………はっ!)」


 心持ちが変わったとはいえゼンはケツ割り箸の素人であることは変わらない。だから探す。班津が示した「可能性」を、己にある全てを…僅かな記憶を…それだけではない。これまでの人生で培っていた全てを尻に載せようと…そして気づく。ケツ割り箸の一つのメソッドに。


「………スタート!ふんっ!」



               バキィ!


「…えっ?」

「あ…半折…なので測定に入ります!」

「6…いや55度!鋭角です!!!」


「な…何が起こったんだ一体!」

「さっきとは別物じゃないか…」

「キャー凄い!格好いいじゃない!」


 先ほどの惨敗から一転、一気に接戦へと持っていったゼンのケツ割り箸に、一気に会場が驚愕と熱狂に包まれていく。


「ど…どどどっ!どういうことなんです先輩?!なんであの子いきなり…」

「ふふっいくつか理由はあるけど…そうね。まずは貴方の誤解を訂正しておきましょうか…えいっ」


 そしてその驚愕はケツィにも届いていた。正確にはマネ子が一人で驚いているだけなのだが…そのリアクションに少し呆れながらもケツィは解説を開始するために…

                 むにゅっ♥

 マネ子の尻に手を伸ばした。


「ちょっ…何するんですか先輩?!」

「あら、わからない?」

「何一つ!」

「仕方ないわねえ…いい?今むにゅっ♥ってしたでしょ?つまり…お尻って、柔らかいのよ」

「は、はぁ?」


 突然何を言っているんだこの人は、言葉には出さないが、マネ子の表情は雄弁すぎるほどに語っている。しかし一方でケツィもやれやれまったくと意に介さないリアクションだ。気心が知れた先輩後輩ということもあるだろうが、やはりトッププロはメンタルの丈夫さも求められるのだろう。


「そう…基本的にお尻とは柔らかいものなの。もちろん例外はあるけどね?ねぇ…例えばふかふかのクッションに包まれた箸って割りやすいと思うかしら」

「そりゃまぁ…まさか!」

「そう。デカ尻は確かに見た目のインパクトは凄いし、尻圧はかけやすいことは確か…けど、肉厚により衝撃は吸収されむしろ逆効果…デカ尻はケツ割り箸において必ずしも長所になるとは限らないの」

「えっえっ…じゃあ…あのふとっちょの子ってもしかして不利スタートなんですか?」

「流石に不利とまでは言い切れないわね?体格が良い…パワーがあるって事は良いことには違いないし。けどそうね…あの有効尻囲を活かすには追い箸が許される膳数自由フリースティックス形式が適当。今回のルールにおいては不向きといったところかしら」

「で、でも…最初は圧倒的大差だったし…」

「ええ、けど見たでしょう?一回目と二回目…あの子のケツ割り箸の違いを」

「はい…なんかいきなりバキッて」

「ふふ♥それが………尻撃インパクトよ」


 観客席が沸き上がり、ケツィがマネ子へとケツ割り箸の叡智を授けている瞬間…ステージの上でもまた歓喜が爆発していた。


「いよっっしゃあああああああああああ!!!!」

「やった、やったやったやったぁ!凄いよゼン!どうしたのなにやったの?!」


 そう、一膳目での落胆が一番大きかったのがゼン達なら、二膳目の喜びもまた大きいのがゼン達である。ゼンは片手を天に突き上げ、班津に至っては両手をバンザイしてぴょんぴょん飛び跳ねている。


「いや…豚田は最後に箸が限界を超えて割れるって感じだったけど他の奴はみんな最初に一番大きく曲がって、そこからはイマイチ曲がりが悪かったからさ…だから力を最初だけで全部ぶちこむようにぐっと行ったんだ」


(「ミシっ!…みちみち」「ぐぐいっ!…ぐっぐっ…」)


「ゼン…すごいや、たったあれだけのものを見て…自分でそんな風に考えるだなんて…」

「よせやい!」


 そう、それこそがケツワリバシスト達の間で尻撃インパクトと呼ばれるテクニック。「5秒」という与えられた時間全て割ることに使いたいと思うものは多い。しかし…それでは破壊のエネルギーは効率的に与えることは出来ない。故に一瞬の尻に全てをかけるのが基本となるのだ。


「おい…なーに勝ち誇ってやがるんだ?!俺の記録は50度!お前は55度!ちょっとは頑張ったけどお前はここで負…」

「でましたァ!技術点6.1!芸術点…7.0!合計13,1点!豚田くんが13,0点なので…二膳目はゼンくんの勝利!勝敗は三膳目にもちこされます!!!!!」

豚呆ブホっっっ!?!?!?!?!?!!」


 信じられないものを見る目で豚田が審査員達の採点を凝視するが結果は変わらない。まさかの接戦に観客席のテンションも一層激しくなっていく。


「ちょっ…お尻とルールの向き不向きとか、テクニックの違いとかはわかりましたけど…けど結局お箸はふとっちょの子の方が折れてたじゃないですか!なんででなんです?!」

「落ち着きなさいな。尻撃インパクトの利点は破砕力だけではないって事よ。そもそも技術点と芸術点というのは箸の点数と人の点数とも置き換えられるわ。芸術点で見られるのは折る際のフォームの美しさや音の爽快感などだけれど…わかりやすく点を稼げるポイントがあるのよ。それが彼がおそらく無意識にしたこと。豚田君のやり方では決して出来ないこと…残心よ」

「残心って…あの剣道とかの?」

「だいたい同じね。箸を折り、呼吸を正し、姿勢を直す。わかりやすく美しく礼儀を感じる動作。時間ギリギリまで使っていてはこうは行かない。多少の角度差程度であれば逆転するのはそう難しいことでは無いわね。そして…三膳目。見ていなさい?おそらくそこで豚田君の問題点と…そしてなにより。あの少年のが見られるわ」


「贔屓だ…インチキだ…金でも払ったんじゃないのかこの野郎…」

「ぶ、豚田くん…落ち着いて…」

「だぁあっ!今度こそ!今度こそ格の違いを見せつけてやるぁ!!!」

「ひぃっ!」


 ステージ上でギリギリと歯ぎしりをしながら苛つきを隠さない豚田に、取り巻きはびくつきながらなだめようとするが、噴火するようにして豚田は吠え、褌をなおしながらセット体勢に入る。


「折ってやる…!鋭角なんてケチなこと言わず完全に…!」

「豚田くん?あの、セットでやんすがこれでいいでやんすか?」

「どうでもいいって言ってんだろ!はやく完了宣言しとけ!」

「は、はいぃっ!」


「……スタート!ふんっ!ふんふんふぬぬぬぬぬぅうっっっっ!どう、だぁああああ?!」

           

         みしっみしみし…ミシ…ビキッ…みしぃ


「5秒そこまで!半折はんせつのため測定に入る!」

「これは………90度、です…」

「なっ…?!うそだ、だって今までで一番力をいれたんだぞ?!」

「結果…技術点5,2!芸術点4,5!合計…きゅ、9,8点…です!」

豚屁ブヘェッ!?なんで、なんでそんなことになるんだよぉおおっっ?!」


 今まで続いてきた鋭角が突然のストップがかかり、豚田は泡をくったような表情を浮かべる。しかし審査員達が観察している自身の割り箸はやはりくっきり直角を描いているのは間違いない。さらに…そこから導かれた点数はまさかの一桁。信じられないと絶望の叫びが響き渡る。


「先輩っ!これは?!ていうかお箸が全然駄目なのも不思議だけど、どうして芸術点までどんどん下がっていってるんですか?さっきからあの子ずっと同じことしてるじゃないですか!」

「もう、落ち着きなさい。大丈夫、原因はだいたい同じよ。最初からずっと同じ事を?けど見てみなさい。最初と明確に違うところがあるわ。」

「違うって言っても、そりゃ何度もお尻で箸を割ってるから息が乱れたり、あとは服が…あっ!」


 まさかの結果に白熱するのはマネ子も同じ事で、がくがくとケツィを揺さぶりながら説明を要求している。ケツィに言われたとおり最初のふてぶてしい豚田との違いを探っていくうちにケツィの言わんとすることに気づいていく。


「そう。ケツ割り箸にとって重要なファクターは箸、尻…そして。当たり前よね?いくら強靱な尻でも褌で挟み込まないと折れずに落ちるだけ。豚田君は一膳目、二膳目どちらも時間をフルに使って…合計十秒間褌を全力で引っ張った。そんなことをしたらいくら軽く手直しをしたとしてもだるんだるんになるのは当然のこと。そうなれば、三膳目に褌のプレス力を高めるために引っ張る力を余分に使う事になる。結果として尻への集中が途切れ褌の力不足も相まってケツ割り箸は半端な結果となる。そして見苦しくなった褌は芸術点をも下げてしまう…。これらが豚田君の見落とした欠点よ。」

「そ、そっか…いくら一気に引っ張ると言っても一瞬だけなら褌の負担も総合的には少なくなる…けど!一膳目は二人ともフルで引っ張ってたじゃないですか!あっちの子…ですよ?」

「…そこよ。最初から言っていたでしょう?面白い予感がするって」


(そう…プロケツワリバシストでもなければ日常的には履き慣れない褌。最初の締められた形、そして歩き、動き…ケツ割り箸を割る前の段階でも多少ゆるまってしまうことは特に年少者の選手にはありがちなことだわ。でもあの少年はまるでかのように褌をかっちりと締め、動き、締め直しセルフリカバーも完璧。それだけではないわ。もう一方の選手のドカ尻に目を取られて気づきづらいけどケツ筋もしっかりと鍛えられている…にもかかわらず挙動を見る限り素人。あの子は一体?)


「あ…始まりますよ!」

「ええ、見届けましょう」


 ステージ上、ピンと張り詰めた空気の中でゼンは尻を突き出して班津へと箸のセットを頼んでいた。勝ちを見込んだ驕りなどではない。ただ箸を割るのがひたすら楽しみだという笑みを浮かべながら。


「ゼン、セット完了だよ!」

「ありがとうな、班津!楽しみに待ってろよ!」

「うん!」

(ゼンの尻…最初の時より柔らかかった。きっと最初は緊張してたんだ…けど今はあんなにリラックスしてる。力が入ればあんなに固くて、その前には脱力…大丈夫だ、きっと勝てる!)


 脱力からの力み。自分のたどり着いた工夫だが、単にぐにゃぐにゃするだけでは意味が無いので言葉にするのが難しく伝えきれなかったこと…それをゼンも短期間で導き出したことに喜びと羨望を持って班津はセット完了を審判に宣言する。


(不思議だ…最初は豚田に負けたくないだけだった。けど今は…違う。なんだろうこれ。ケツで割り箸割ってるだけなのに…尻でバキって言った瞬間俺にこんな事出来るんだって思って、けど割り切れないのが悔しくて…そうか、これが班津が俺に言いたかったこと…俺の…「可能性」!)


「すーっ…スタート!ふんぬっ!」


 尻に力が込められ、褌で押し当てられた杉製の箸が、スパッツ越しの双丘に強く強く衝撃を与えられ、そして…


             バッキィッ!!!!


 真っ二つになった箸が、からんからんと音を立てて床に転がっていく…!


「5秒…それまで!か、完折かんせつ!測定無しで審査員席へ箸を!」

「か、かかか…完折かんせつ!本日初めての真っ二つがついに出ましたぁああああああっっっっ!」


「技術点8.6!芸術点9,2!17,8点!三膳目は識潔善君の勝利…よって!2-1でゼンくんの勝利で決定いたしましたっっっ!!!!」


「すげえっ!あの子すげえぞ!」

「やっぱあいつは違うと思ったんだよ!」

「きゃぁあああああああっ!」


 観客席は圧倒的勝利に沸き上がり、本日最高の勝利を祝福する。このまま優勝まで行けば町のスター扱いも夢ではないだろう。


「やった…やったやったやった!見た?見てたか?班津!俺折った!割った!やったよ!」

「見た!すっごいみた!やった!やった!ゼン凄いっ!」

ぅ…凄いな、くそ…」

「あ、豚田…」


 そして勝者がいれば敗者もいる。右肩上がりで点を伸ばしたゼンと対照的にどんどんと点を下げた豚田。僅差での敗北なら言い訳も出来ただろうが、最後は目に見える大敗だ。下級生に負けた悔しさと情けなさで四つん這いでうなだれ、目尻には光るものがある。


「何をみてんだよ…どうせ馬鹿にしてんだろ!これからずっと俺は5年生に負けたワリバシストだって馬鹿にされ…」

「それは違う」

「あん?」


 泣いて腐れる豚田に、ゼンはその言葉を喰い気味に否定した。なぜなら豚田の気持ちが痛いほどわかり…そしてそれは間違っているのだと心から思っているからだ。


「確かに今日のところは俺の完勝だぜ、気持ちよくバキッと行かせて貰ったさ!けどな、ケツ割り箸ってのは「可能性」…今日はこうでも明日はどうだかわからない、お前がどんな可能性を持って開花させるかなんて俺もお前もわからないからな!そういう未知を割り開く…それがケツ割り箸!そうだろ?班津」

「…うんっ!そうだよ!」

「畜生…なんだよそれ…」


 泣き笑いながら、差し伸べられた手を取って立ち上がる。まだ目は濡れているが…その顔には笑顔があった。


「じゃあ次の試合あるしさっさと降りて…げっ!」

「どうしたの?ゼン?…あっ」


「ゼ~ン~!!!!!よくも逃げよったな~!!!」


 ステージからどこうとしたそのとき、ゼンと班津の視線の先にいたのは…全速力で大会会場にダッシュしてくるゼンの父親だった。


「やばい!俺修行から逃げてたんだった!」

「えっどうしよう、どうする?」

「逃げないとまずい…けど大会はまだ出たい…!」

「うわやばいやばい来てる来てる来てる来てる!」


 おろおろと対応を迷っている間にダーン!とステージ上に乱入するゼンの父親。そのままがしっと米俵のように抱え込んでしまう。


「うぉおおっっ!離してくれ親父!俺はもっとケツ割り箸を…!」

「ええい!親を騙して逃げてそれ以上なにを申し開くか!………それに…まさかケツ割り箸とは…血は争えんと…」

「何か言ったか?」

「いや……すまん司会者の方!お騒がせして申し訳ない!この場にて愚息は棄権させて頂く!では!」


 ぽかーんと観客があっけにとられる中、嵐のように去っていくゼン達親子。何が何だかわからないというものもいるが、とりあえず棄権と言う事は伝わったようだ。


「な、なな…なんです今の?誘拐じゃないみたいでしたけど…はぁ?えーあの子いないとこれからの大会盛り上がらなく無いです?」

「今のは…!そう、そういうことなのね…。準備なさい。ちょっと行くところが出来たわ」

「あっ先輩もやっぱ大会つまらなくなるって思います?」

「そうは言わないわ。けれど…もっと今後を面白くなるために行く必要があるのよ。全く、「あの子」が転校する町だからと来てみればとんでもない見つけものね」


 ケツィ達も観客席であっけにとられているのは同様だった。しかし…マネ子は他の観客と同じように、父親の登場とその奇行に驚いていただけだが、ケツィはどうやら父親の顔に見覚えがあるようで、何かを思案したかと思うと咄嗟に立ち上がる。向かう先は…父親が立ち去った方向へ。



「ゼーーーーーーン!また明日!また明日ね!!!!!!」

「おーう!セコンド出来なくて悪い!また明日!絶対またろうな!!!!」


 そしてゼン達は声を張り上げて約束をする。今までのようにもしかしたら出来ないかもとストップをかけた願望ではない。絶対にやってやろうという希望を載せて。今日は父親に止められても明日は違う。そう思うことが出来る…それがケツ割り箸なんだと。


 今日ここに一人の少年がケツ割り箸と出会い、ケツワリバシストとなった。

 この物語は、ケツワリバシスト・ゼンが世界一のケツワリバシストになるまでのストーリーである!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ケツワリバシスト・善! @yoshiyoshi8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ