エピローグ
エピローグ
世界は平穏を取り戻した。
ジョブリアの知らせの通り、アルアン皇帝は絶海の孤島で発見された。
兄さんは陛下から留まるように求められたが、それを辞退し、勇者の後進を育てるためにグローリエルの後釜として、ギルロスの教官となった。
アルアンではなく、ノーゼルアンに戻ったのは、きっとアレグラさんのことがあるからだ。
そして、彼女に会いにギースへ向かうという。
レイGは、故郷カサ―ラントを始め、アルアン全土の復興を担う大臣に任命されて、力を尽くしていた。
その手腕は凄かったようだが、相変わらずスライム時代の癖が抜けきらないのか、食べ方の汚い残念なイケメンとして、婦女子の間では良くも悪くも噂になっている。
当の本人は、まだ結婚をする気はないようだけど。
グローリエルとオーシンは、そんな彼を手助けするために、便利屋を興して民間人として復興に携わっているらしい。
あ、そうそう。
彼らが見つけたカサンブラ大海溝の巨大なエプシロンの中に、僕の父さん、その父さんを追っていた母さん、ニコルガさんの娘ミリアさんも他の大勢の人と共に囚われていた。
元々、気の弱かったラーナスは、人々のやる気を削ぐことが目的で、本気で殺すつもりはなかったらしい。
そんなわけで、僕の両親はケプロに戻り、診療所を再開させた。
僕とロディは、ケプロに寄った後、故郷のアムロイへと向かった。
アンと親方には引き留められたが、二〇億セネカの借金の話をすると、それ以上引き留めなかった。
まぁ、借金のある男と結婚したいとは思わないよなぁ。
そして、僕はというと木に登っている。
「レイバー、もっと右だって、右よ」
なぜ、今僕が木に登っているかというと、ロディが急に「蜂蜜のアイスが食べたいっ!」と言ったからだ。
え、断れ?
断れるわけがないじゃないですか。
だって、彼女は僕に二〇億セネカの貸しがある大貸主様。
逆らったら、地の果てまでも追いかけてくると思う。
絶対に。
内心、僕も街で買えばいいのにって、思ってますけど。
「キャッ!」
どうも、山の斜面は足場が悪い。
ロディはズデンッと尻もちをついた。
「何やってるのさ。そこは、足場が悪いから……、う、うわっ」
彼女に気を取られていると、僕も思わず木から落ちてしまった。
「痛て、イテテッ……」
僕とロディは、目を見合わせてププッと笑い合った。
もしかしたら、専業主夫という永久就職も悪くないかもしれない。
あ、でもその場合は勇者が副業になるのか?
僕がボケボケと妄想していると、目の前のロディが急に青ざめた表情になる。
「ん、どうしたのさロディ。そんな顔し……」
彼女が指差す方向を見ると、無数の蜂がこちらに向かってきている。
木を落ちた拍子に、どうやらハチの巣も落っこちたらしい。
僕はロディの手を引いて、一目散に走った。
やっぱ、専業主夫はやめだ、やめ。
こうなったら、意地でも勇者で名を馳せて借金を返してやる。
それから先のこと?
そんなのは知らない。
ただ、わかっているのは誰かのために働くのは、そんなに悪くないってこと。
そうさ、それだけさ――。
イーブレイバー ~働かざる者たちの黙示録~ 五五五 @gogomori555
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