梅雨明け
日曜日、曇だった。息苦しい。そろそろ人間じゃなくなるのだ。私はベンチに座って目を閉じ、陽介と過ごした日々を思い出していく。それは人間が言っている走馬灯なのかもしれない。陽介の声が何だか鮮明に聞こえる、と思ったけれど目を開けると本当に陽介がいた。
「大丈夫ですか」
もしかして、手紙を読んでいなかったのかもしれない。
「...手紙、読んだ。なんで、俺が雨音さんのこと忘れる前提なの」
「だって陽介には、これから素敵な人と出会って家庭を持つ未来が待っている。私のことはあなたの人生の中で、小さな出来事なの。忘れるに決まっている」
「忘れるわけない。だって、雨音さんは僕の初恋なんだ。」
さらっと言われたことに驚いたが、なにか自分の心の中でストンと落ちた。
「私も、陽介に恋していたんだと思う。けれど、人と妖はやはり相容れない。安易に人の姿になるべきではなかった。でも...もし陽介が来年も私のことを忘れないで会いに来てくれたのなら、また人の姿になりたいと思う」
陽介は私の隣に座って手を握った。
「忘れないよ。俺の初恋だって言ったでしょ。というか、こんなことなら恥ずかしがらずにもっと前から手を握っておけばよかった」
意識が遠くなっていく。
「もう、限界かも。」
手を握る力が強くなった気がした。
「ありがとう」
ちゃんと最後に感謝の気持ちを伝えることができただろうか。
「こちらこそありがとう。じゃあ、また『紫陽花が咲く頃に』」
終
紫陽花が咲く頃に 金木犀 @fo-co
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