第一章『私たちはどこから来たのか』を読み終えての感想になります。
こうしてレビューを書いている今も、いろんな思いが交錯しては花火のように爆発し、胸が詰まってうまく言葉が紡げません。
屋敷の下働きの少年アリムと、離れに住む謎めいた女性トゥミネが出会い、交流を深め、徐々に親密になっていくのですが、様々なものが彼らに重くのしかかり、行く手を阻みます。
匂い立つような華麗な筆致で語られるのは、残酷で悲しい物語。
しかし重々しい息苦しさ、心を切り裂かれるような痛ましさ、憤りすら覚えるやるせなさの中にあるからこそ、二人がゆるりと育んでいく、きめ細やかな愛情が際立ちます。
そして、さいごは…………是非あなたの目で、見届けて下さい。
二人の辿った軌跡を。
そして、二人が選び迎えた『さいご』を。
この胸に残る甘美な痛みを、皆様にも是非とも味わっていただきたいです!
少し変わった構成の物語です。
冒頭に登場するのは、「聖下」と呼ばれる男性。王にさえ尊ばれる彼の頬を流れるのは、愛した「彼」への思い。
第一部は、革命前夜の帝国です。中東風な文化をもつこの国で、少年アリムは、離れに暮らす美しい女性トゥミネと出会います。やがて、アリムはトゥミネの秘密を知ることになります。
第二部。四百年の時と場所を隔て、実父に虐げられて育った少年カヤトは、ある王国の奴隷兵となり、女王の女官メゼアに出会います。心身ともに深い傷を負ったカヤトを、メゼアは愛しますがーー。
第三部は、さらに時を五百年遡り、少女と見習い神官が出会います。
各部の主人公たちを苛むのは、性や身分、宗教、暴力です。繰り返される心理的・身体的虐待は辛いものですが、描写は金糸のように美麗で、読み手を魅了します。やがて、本当に美しいのは、過酷な運命に翻弄されつつも、そこに希望を見出し、生き抜こうとするかれらの魂なのだと気づかされます。
血と絶望と死によって織りあげられる運命のなかで、ただ一条、細く確かに紡がれる光はーー
彼らの魂が最後にたどり着く場所まで、どうぞ見守って下さい。