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「今……魔力って……言ったの?」

ヨーンの問いに、うん、と元気良く首を縦に振るリベルテ。


魔力とは、生命なら誰もが持つ不思議な力で、それに気付いたものは魔法として扱うことができると言うもの。

ちょっと前、アルモと話している時の事。俺は冗談気味で俺も魔法使いになれるか、と聞いた。

すると彼女は俺の腕に手を当てて数分後、無いですね、ときっぱり言ったのだ。

異世界に来たのだからそのぐらいの夢は抱く。だからこそ、反発気味に嘘付いてないかと言った。

そして、次の言葉はあまりにも真剣そのもので、常々ふざけた様な発言をする彼女の中で、数少ない特別な言葉だったと記憶している。

『魔力を感じ取れる様になるには、何年とも言える修行によってようやく身に付けられるものなんです。生まれた頃から感じられる物もいますが、特例を覗いても最低5年は掛かります』


そう、最低でも5年だ。それは滝行だったり山に籠ったりするなどしてようやくらしい。

しかしこの子は純真そうな笑顔を向けて、『魔力』と言い放ったのだ。

アルモの言っていた特例か? それともこういう性格でそういった背景が伺えないだけなのか。

とにかく俺は、彼女に対して意識を改めることにする。魔女とは常に自分のペースを貫くものだから、良い人ばかりではないと、ラミージュやアルモに言われている。

正直こんな子が危ないだなんておもってはいない。しかし、人を見た目で判断してはならない。

それはありふれた日常の中で、誰にも気付かれない虹みたいなものであり、一人気付かれぬまま人生を全うして人知れず死んでいく冒険者と変わらない。


見えないからこそ怖いんじゃない、知らないからこそ怖いんだ。


しかし、その意味を反転して彼女に当てたとすれば、彼女もまた『弟』の魔力を感じ取れるからこそ探しているのだろう。

知っているから探している。


「――ベルは弟の場所が分かるんだよね?」

「うん、そうだもん」

こくりと首を縦に振るリベルテ。

ヨーンから会話を引き継いで、リベルテが『弟』の存在を確認出来るか改めて確認する。

彼女が魔力を感じ取れることを確認した、けれどそれは、彼女を魔女として定めるためではない。

「……弟のこと、心配?」

花の様な笑顔は、一瞬にしてしょんぼりと垂れ下がる。今までの行動を見返せば、弟を探してるようには見えなかった。この子が弟を心配している緊張から、俺達に会ったことで喜びに置き換わったのか、反動によって元の性格が出たのか、判断することはまだ出来ない。

俺はベルから答えを聞きたかった。善か悪かなど関係なく、純粋に。

「……けたい」

「何て?」

「……見つけたい」

不安いっぱいな顔を俺に向けて、うるうると今にも泣きそうな表情で答えたリベルテ。

俺はその答えを、待ってましたとばかりにベルの頭を撫でる。

「じゃあ見つけような!」

「……! うん!」

意思の大きさを声に置き換えたかのような元気な声に、俺はきっと大丈夫だと心のどこかで確信した。


「も~、トウマはお人好しだな」

そういってヨーンは俺にもたれ掛かってきた。その際背中に熱くて柔らかい何かが2つ当たり、耳元にヨーンの吐息が当たる。

しかしそれは、当然甘い展開のものではない。

「……トウマ、お人好しにも程があるよ」

ヨーンからの警告だった。

「弟を探してるんだ、手伝ってやらないと」

「そうかもしれないけど、でも、それが嘘だったら? 生まれた頃から魔力を感じ取れる人は確かに存在するよ。ラミージュさんもそうらしいから、でも、あんな小さい女の子が森に一人でいたってのはどう考えても可笑しいよ」


それは俺も思うところがあった。何故大人の一人や二人付いていないのか、エントによって魔物が森の奥に誘導されているとは言え、魔物が出てこない保証は無いのだ。

危険な森に子供二人を残していったと言うのなら、親に会って殴ってやりたいところだ。


しかし、

「俺さ、人を勝手に判断するのって何か苦手で、困ってるって言われると、手伝ってやりたくなるんだ。

もちろんそれで何回か騙されて損したこともあるよ、でも最終的に、これで良かったなーって思えるんだ」

元の世界であった出来事を、背中にいるヨーンに語りかける。


思いでとしては良くある話しだ。助けてって言う奴に限って大抵はノートを忘れたり、役で一人足りなかったり、お金が無いって言われたり。

考えれば回避出来ることもあるにはあった。でも、それをする前に実行している。

何故かって言われたら、多分俺は何故って聞き返す。

頼ってくれるのが嬉しいから、困っている奴に手助け出来るのが嬉しいから。

甘いと思っても助けてしまう。何も出来ない無力感よりも、何か出来る有力感に浸っていたいのかもしれない。

人に甘いままで、異世界でもここまできた。

人の支えに、力に成れるなら、俺は自分から進んで行くのだろう。


「――トウマは、それで良いの?」

腑に落ちないという風にヨーンに聞かれる。

俺は静かに首を縦に振った。

「……そっか」

俺の背中から熱が消える。振り向けばため息を吐くヨーンの姿。

「段々トウマが心配になってきたから、僕も行くよ。本当はもう少し寝ていたかったけどね。トウマ、この埋め合わせはいつかしてよ」

と、よく分からない埋め合わせを背負わされたのだった。

「じゃあ、ベルの弟を探すか」

そういって、俺は家の扉を開けた。

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動物園ならぬ魔物園の経営は大変だ!! 無頼 チャイ @186412274710

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