どこまでも予想外な
「……連れてきちゃったけど、大丈夫かな?」
何となくココロに質問するが、当然分からないという風に首を傾げて先に家へと足を踏み入れるココロ。
家――ラン達と一緒に生活している家に、今朝会ったリベルテと名乗る碧い眼の女の子をおんぶして連れてきたのだ。
先に理由を話すならしょうがなかったという理由が大きい。何故ならベルはココロ追っかけ回してる最中にころっと転んだように寝てしまったからだ。起こそうとしたが全然反応がなく、親を探そうと若木のエントに尋ねれば「親らしい人間はいません」の一言。
まさか草原に一人寝かせたままにする何てことは当然出来ず、家まで運んで来たというわけだ。
ソファーにベルという名の女の子を横にして、家にいるであろう人物を呼びに二階へと行く。
「ヨーン、いるんだろ? 開けるぞ」
ノックをしたあとヨーンの部屋に入る。部屋は俺のとあまり変わらないのだが、物が極端に無い。あるのはタンスとベッドだけという生活に最低限必要な物が揃っているだけで、地味な部屋だ。
ヨーンの性格が反映されたような空間だな、というのがこの部屋に対する率直な感想だ。
「う~ん、何?」
案の定ヨーンはベッドの上でアザラシ皮を被って寝ていた。
「下まで降りてきて欲しいんだ、だから起きてくれないか」
う~ん、と悩むヨーンの声のあと、彼女はチラッとカーテン越しに風景を見た。そして。
「やだ」
の一言。
「いや、いやいや早く起きろよ、このまま寝てても体に悪いだけだぞ」
「まだこんな時間じゃん、寝ていて問題ないよ」
「昼間で問題無いって、いつになったら問題になるんだよ!」
そう、ヨーンがチラッとカーテン越しに見た風景は青い空に緑色の草原に間違いないだろう。それを『こんな時間』というのだから彼女の体内時計を疑う。
「良いから早く起きろよ、俺一人じゃ解決出来ない問題なんだよ!」
ついに俺はヨーンの腕をぐいぐいと引っ張り出す作戦に移行した。
悪夢にうなされてるかのように『う~ん、う~ん』と不機嫌な声を出す彼女だが気にしない。
「う~ん、分かったよ。ただし終わったらまた寝るからね」
寝ぼけ眼をこすりつつ、ようやく起き上がってくれたことに感謝した。
「――で、トウマはこの子をどうする気? 僕はトウマの趣味を止めるつもりはないけどさ」
「まだ何も説明してないのに誤解を生むような台詞を言うな」
起こされたことを根に持っているのか、すこしだけ意地悪くそういうヨーン。
まあ、いきなり小さい女の子がいたら驚くか。
「今朝、ココロと一緒に魔物園になる原っぱの方へ遊びに行ってたんだ。遊んでたら、この子が突然現れて」
「寝たってことか」
すぅー、すぅーと寝息をたてる赤桃色の髪をした少女。その子は天使のように優しい表情を浮かべている。
「親とか探さなかったの?」
「森に聞いたけど、いないって」
その台詞を聞いたヨーンはう~んと腕を組んで考え始める。
「……それって、可笑しくない?」
ヨーンのその台詞に俺は共感してしまう。俺もそう思ったからだ。
そもそもこんな小さい女の子が森に迷い込むのは可笑しい。森は強者と弱者を分けるため弱者を入り口付近、強者を森の奥へと隔離している。
森を把握しているランやヨーンじゃなければ、あんな奥になど到底足を踏み入れることさえ不可能なのだ。
更に彼女の服装。もしお嬢様ならば護衛の一人や二人いても可笑しくない。いや、そもそも。
「この子の服、凄く綺麗だね」
「――森にいたのに」と締めくくるヨーン。
そう、森にいたんだ。なら服が汚くなるのは当然。枝などで破れても不自然ではない。
しかし彼女の服に破れた後はなく、あるのは転んだ時に付いた土埃。
ますますベルという少女の存在が謎になってきた。
「う~ん」
ソファーから上体だけを起こして欠伸をするベル。
もしかしたら話し声がうるさくて起きてしまったのかもしれない。
「おはようベル、うるさかった? もしそうならごめんな」
ベルの視線に合わせるため中腰になる俺。しかし、ベルの視線は俺の隣――ヨーンに向いていた。
「……お姉ちゃんだれ?」
目を丸くして小首を傾げるベルに、ヨーンも中腰になって微笑む。
「お姉ちゃんはね、ヨーンって言うんだよ。君の名前は何て言うの?」
「ベルはね、リベルテって言うもん!」
えっへん、と胸を張るベル。どうやらベルにとって自分の名前は自慢らしい。
「へぇーリベルテって言うんだ。じゃあリベルテ――」
「ベルで良いんだもん、お姉ちゃん」
「じゃあベル、君は森で何してたのかな?」
ヨーンの質問にベルは大げさな位ウンウン唸って。
「おとーと探してた」
と言った。
「おとーと?」
多分弟と言いたかったのだろう。しかしそれは可笑しい。弟以前に人は俺以外いなかったんだ。
「じゃあ、弟は見つかった?」
ヨーンの質問に対してベルはしゅんと頭を下げる。どうやら見つからなかったらしい。
「でも、でも森にいるのは確かだもん! 絶対間違い無いんだもん!」
と、駄々をこねるように主張するベル。しかし、真実を知ってる俺には心が痛かった。
人がいない。もしかしたら森ではぐれた後セレラントか何かに襲われて死んでしまったかも知れない。
そう考えるとベルが可哀想に見えて仕方なかった。
「……どうしてそう言い切れるの?」
ヨーンの表情に陰が見えたような気がした。彼女もきっと俺と同じ予想をしたのかも知れない。
せめて形見だけでも見つけようと決意しかけたその瞬間のことだった。
ベルのその発言に、冷水を掛けられたかのような衝撃を受けた。
「だって、おとーとの魔力を感じるんだもん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます