壱ノ四 神眼を有する一族 神眼を守護する一族
「その御当主様のせいで、俺は今、締め切りに追われてんだッ!なんでババァの本の原稿を俺が書かなきゃなんねぇ⁉」
「超忙しいんだから仕方ないよ、志津さんは…。世界一有名で有能な占い師で霊能力者なんだからさ」
健悟が穏やかに答える。
「ふんっ!ババァの占い本は全部俺が汗水たらして書いてんだって、おめぇも知ってんだろう?毎月どんだけ苦労してるかってぇの!」
申彦のこめかみに青い筋が浮かぶ。
「けど、そのおかげで食ってるわけだしさ」
「引きこもりの孫の食いっぷちをババァが世話してるとでも、言いいてぇんか?」
「当たらずとも遠からず?そこまで自虐しなくてもだけど」
健悟が苦笑すると、申彦は小さく舌打ちした。
「だったら当主になって自立したらいいよ。志津さんだって70歳越えだろ?そろそろ申彦が世界中飛び回ったら?」
絵を探りながら健悟が言う。
「くだんねぇな…」
申彦が不満そうに唇を尖らせた。
健悟は軽くため息をつく。
必要以上、いや、例え必要があってもほぼ外出しない申彦は立派な引きこもりだ。
確かに世間は生きずらい場所、そんなことも分かり切っている。
それでも時渡家の当主、代替わりを後押しするのには理由があった。
古くから時渡家は強い霊力を持つ一族と言われてきた。その確かなる力に救われた者も数多い。だからこそ人々は『神眼を有する一族』と呼び、時渡家に畏怖の念を抱いている。
そして堂前家は『神眼を守護する一族』として、代々当主を支えてきた。
現当主、志津には守護者として健悟の父 清人が、申彦には長男である健悟が、それぞれの役目を担っている。
しかしながら健悟に至っては、まだ守護者に(
現当主、時渡志津は申彦の祖母になる。
その
その力で多くの人々を救うのが時渡の務めだと、テレビ、新聞、雑誌、ネットに講演とあらゆる場に活動を広げ、精力的に動き回っている。
もちろん志津は現在も元気過ぎるほどだが、代替わりの時期をそろそろ考えなくてはいけない年齢となっていることは間違いない。
その準備や後押しも守護者の務めとなる。
「世間様の為だとか抜かしながら、強欲ババァ、イタリア旅行だろ?ブランドの山に埋もれてる姿が目に浮かぶぜ」
申彦が心底忌々しそうに呟いた。
「あっ、知ってたんだ」
「ばぁ~か、当たりめぇだ!この俺様を誰だと思ってんだよ」
申彦がジロッと見上げる。
「そりゃ、そうか…」
志津以上の
申彦の持つ神眼、それは時渡家最強の霊力と呼ばれている。
それは他人の夢の中へ潜入することが出来る『夢渡り』という秘儀だった。
…壱ノ伍に続く
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