G戦上のアリア(仮)

夢幻一夜

第1話 東部戦線撤退篇①

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 ――状況は絶望的だった。

 補給の目途は完全に絶え、残弾もほぼなく、味方は完全に沈黙し、もはや銃声や砲声の飛び交う音もしない。

 塹壕には死体が山積みで、敵兵の足音が今か今かと自分のいるこの場所へ向かってきているような錯覚が精神をむしばむようだった。

 ―――嫌な感じだ。

 だのに今私の頭に浮かんでいるのは「朝のレーション、ザクツ野菜ベースの固形食じゃなくてラスタート肉ベースの固形食にしておけばよかった」なんてコトなんだから、人間って奴は基本的には楽観的にできているのではないだろうか。


 ……。


 現実逃避はこれくらいにしておこうか。そろそろ本気で此処を切り抜ける方法をひねり出さないと……。崩壊寸前の塹壕こんなところに取り残されたまま何もしないのでは自殺と変わりはしない。

 いや、もういっそのことそれならそれでも構わないような気もするが。

 なにせ、味方のほとんどは死に絶えたが、その中の数名……いや、もう現実をちゃんと直視しよう。

 まぁなんだ。つまりは私一人の命を生贄として決死の逃亡作戦が行われ、つい数分前に生き残った味方の兵士たちはトラックに乗り込んで逃げたのだった。

 ……逃げ延びられたのかどうかは不明だが。

 まあいい。そんな事はどうでもいい。敵の足音がこちらへ近づいてくる。

「ああ、これはもう死んだな」

 自然とそう思った。

 もはや私は自分の命に興味がないのだ。

 もう、いいのだ。

 このような地獄に骨を埋めるのは癪だが、かような地獄をもはや見続けなくていいというのなら、それは救い以外の何者であるというのか。

 否。

 何者でもあるまい。

 だが・・・


「残念だったわね、死神はまだあんたを必要としていないそうよ?」


 悪魔のような笑顔を顔面に張り付けた親友が腰に手を当てて睨みつけ笑っていた。

 出逢った時と同じ、灼熱色のコートを戦場の劫火で煽られながら、しかしこの上もなく楽しそうに。あちらこちらを火傷の痕が痛々しく彩り、銃創や切り傷が火傷の合間にアクセントをつけている。

 それでも彼女はあっけらかんと笑っていた。


「―――疫病神」

「あぁ~~らっ、酷い言いぐさね。こんなところまで追いかけてきてくれる献身的な女性、そうはいないわよ?」

「ふん、だ。来てくれるのは嬉しいし有難いんだけどさ、でもあんたの場合いっつもナニカ引き連れてくるでしょ?有難さやら感謝やらよりもそっちのインパクトが強すぎるんだよ。今度は一体どんな問題を持ってきた? ―――っていうか、今の今までどこでなにしやがったのよ!?」


 敵兵の服を着た親友が、ショットガン片手に笑いながらこちらをニヤニヤと見下ろしている。


 神様はまだ、私に生きろと言っているらしい。

 ………巨大なお世話だ。


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