最終話「勝てない理由」

 目を開くと、爆発の衝撃で急造の基地は半壊していた。アタカイたちも吹き飛ばされている。


「今だ!一気に攻め込むぞ!!」


 俺はとどめを刺すために最後の号令をかける。そのままガイダルたちが基地に攻め込んでいく。


 しかしというか案の定、アタカイを守るように突風が吹き込んでくる。

 その隙に、起き上がったアタカイが一人で逃げようとする。


「ラーダル! もう一つ光球を頼む!」


 ラーダルが光魔法を唱え、光球を俺に渡す。先程の球に比べれば威力は劣るだろうが、直撃させれば問題ないだろう。


 それに気づいたアタカイが、弓を構えて俺に矢を放とうとする。


 だが、俺は振りかぶらずに投げるモーションを小さくして、光球を投げ込む。


 クイックモーション。ピッチャーが盗塁を防ぐために、投球のモーションを小さくして素早く球を投げる技術だ。俺から塁を盗めると思うなよ?


 クイックモーションで投げた光球が、矢を放とうとするアタカイに直撃する。

 ストライクだ!アタカイは吹き飛ばされて、地面に叩きつけられ、そのままのびていた。


 それを見たラーダルが俺に言う。


「タツヤ。なんであなたが勝ち投手になれないのか、分からないです」


 俺は答える。



「この世界で勝つためだろ?」


***


 7回裏。1-1の同点。俺が投げた白球を、相手バッターが打ち損ねる。白球はサード方向に転がっていく。


 サードのライドンさんが、俺に視線を向ける。


「任セロ、タツヤ。コンドはゼッタイ捕るヨ!」


 その視線は、そう言っている気がした。


 しかし、白球は急にバウンドを変える。イレギュラーバウンドだ。白球はライドンさんの頭上を越えていき、グラブの中に収まることはなかった。

「――負け投手は敷島。セーブは――」


 もはや聞きなれてしまった球場アナウンス。俺は、軽くクールダウンした後に、ユニフォームを着替える。


 別れ際、ライドンさんがまた謝ってくれた。


「タツヤ、またまたソーリーね!コンド、タコヤキでも食べいこうネ!」


 ごめん、ライドンさん……、俺、歯ごたえのある食べ物は駄目なんだ。


 球場を出ると、タートルズの帽子を被ったおっさんが出待ちをしていた。帽子は目深に被り、大きなマスクをつけているので、顔を見ることはできない。


「ラーダル? なんでそんな格好をしてるんだ?」


 おっさん、もといラーダルが答える。


「タツヤに、この姿を見られたくないんや! 堪忍してやー!」


 ラーダルは顔を真っ赤に、恥ずかしそうに俯く。


 いや、おっさんの姿で顔を赤らめるな!贔屓のチームが負けてヤケ酒したみたいに見えるから!あと、喋り方もそれで固定されるのな。


 俯くラーダルのマスクをとる。銀歯が光らないと転移できないからな。

 

「さあ、今日も勝ちに行きますか! いつか、マウンドの上でも勝てるようにな!」


 いつか必ず勝ち投手になる。そのために、俺は今日も異世界で勝ち星を積み上げる。




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勝ち運のない先発投手が異世界では勝ちに恵まれる ごんの者 @gongon911

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