第9話「気持ちで捕らないと」


 俺は、ラーダルとガイダルを含めた20騎とともにアタカイを追う。残りのジュテーム軍の兵士たちには、国境を守るよう指示を送る。


 アタカイが逃げた方向に馬を進めていく(乗せてもらっている)と、キャンプのようにテントが張られた、急造の基地を見つける。


「どうする、指揮官? このまま攻め込んじまうか?」


 ガイダルがそんなことを口にしていると、基地の方から矢が飛んでくる。


「どこまでもしつこい奴らだ! ばらばらに別れた軽騎兵たちが戻ってくるまでは、ここで凌ぐぞ!」


 アタカイが声を荒げて、矢を放つ。


 奴らも、まだ20騎ぐらいしか基地には集まっていないはず。ここでアタカイを討ちたいが、飛んでくる矢のせいで容易に近付くことはできない。


「タツヤ、どうしますか? このまま時間を稼がれると、グアームド軍たちが次々と戻ってきてしまいますよ!」


 だが、今の俺たちに遠距離の攻撃手段がない……。

 いや……、一つだけあるな。


「ラーダル! 光魔法で出来るだけ強力な光球を作ってくれ!」


「まさか、それをタツヤが投げるのですか? かなり距離が離れていますよ!?」


「遠投で山なりのボールなら届くはずだ、頼む!」


「分かりました!」


 ラーダルが光魔法を詠唱する。掌の上に、眩しいほどの光を放つ光球が現れる。先ほど作った光球とは比べ物にならないほどの輝きを放っており、それだけエネルギーが凝縮されていることが伺える。


 しかし、その眩しさゆえに、アタカイも光球に気付く。


「光魔法か! ハイヤー、たしかお前は光封じの魔道具を持っていたな?」


 ハイヤーと呼ばれた強面の男が答える。


「はい! この黒の手袋です!」

 

 ハイヤーは、黒の手袋を両手に着ける。


「まずいですよ! あの手袋が光封じの魔道具ならば、この光球は手袋に触れた瞬間にかき消されてしまいます!」


 俺は、ラーダルから光球を受け取る。


「いや、大丈夫だ! 手袋に触られることはないよ!」


 そう言うと、俺は空高く、山なりに光球を投げる。

 光球は眩い輝きを放ちながら、空高くに上がっていき、そして落下していく。


 ハイヤーは、高く上がった光球を手袋で捕ろうと走りながら、両腕をあげる。


 しかし、落下位置を見誤る。明らかに前に出過ぎていた。


 ハイヤーがバンザイをしていた。分かるぞ、フライを捕るのは難しいんだ。俺はこの光景を何度も見てきたからな。

 

 バンザイするハイヤーの後ろに光球が落ちる。強烈な光と激しい爆発音によって、視覚と聴覚が奪われる。


 その刹那、高井くんの姿が頭に浮かび、俺はぼそりと呟いた。


「フライは気持ちで捕らないとな、そうだろ、高井くん?」





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