第8話「吹くは神風」

 俺たちを苦しめていたグアームド軍の矢の雨が止む。


「今が好機だ! 一気に攻め立てるぞ!!」


 それに乗じて、防戦一方だった重騎兵たちも、ガイダルを先頭にグアームド軍に切り込んでいく。

 後ろから100騎、前からも100騎の挟み撃ちの状態だ。


 このままいけば押し切れる!


 そう思った矢先、横から突風が吹き荒れた。

 風魔法ではなく、ただの突風。しかし、その風は、まるでグアームド軍を守るかのように彼らの周りだけは無風という、異様な突風だった。


「神風だ! 左右に分かれて退散するぞ!」


 アタカイが号令をかける。一瞬生まれた隙を突き、グアームド軍は左右散り散りになって逃走していく。


「待て! 逃してたまるか!」


 ジュテーム軍が逃げるグアームド軍を攻撃するものの、軽騎兵であるグアームド軍の方が機動力では上をいく。およそ半分に逃げられてしまう。


「畜生! あと少しだったのに!!」

 

 ジュテーム軍の兵士たちからは、落胆の声が上がる。


 しかし、ラーダルが言う。


「彼らは左右散り散りに逃げたので、隊の編成は今や崩壊寸前です。そして、指揮官のアタカイが逃げた方向には、グアームド軍の臨時基地があったはずです」


 それを聞いた俺は、落胆する兵士たちに号令をかける。


「今の突風で分かったと思うが、最も厄介なのがアタカイの勝ち運だ! だから、アタカイが他のグアームド軍と合流する前にあいつを仕留める!!」


 かつて、モンゴル帝国が日本に攻め込もうとした際、海上で吹き荒れた暴風雨。日本側の史記では、「神風」とも記されているらしい。


 一度目の侵攻、文永の役で日本に大敗を喫したモンゴル帝国は、総軍約15万の戦力で再び日本に攻め入る。

 その際、10万もの戦力をもつ江南こうなん軍の総司令官を務めたのが、アタカイである。

 アタカイはもともと総司令官を務めるはずではなかった。前任者が急病で亡くなったため、急遽、アタカイが務めることになったのだ。その引き継ぎで江南軍は、出発が遅れてしまう。遅れて日本に向かった江南軍は、海上で暴風雨に見舞われる。これにより、江南軍の大半が海の藻屑となった。


 アタカイは、この失態を追求されて左遷されてしまう。突然の司令官就任からの、暴風雨によって左遷。運命の神様に弄ばれたアタカイは、まさに負け運の持ち主だ。


 そのアタカイが、ここでは神風によって何度も窮地を救われてきたらしい。神風が日本人からアタカイを救う。何とも皮肉な話だが、この世界ならば、それもまかり通ってしまう。


 俺の勝ち運とアタカイの勝ち運。どちらが下か、決めるべき時が来た。



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