呼ぶ声

雛田安胡

第1話

 友人のDくんは、学生寮住まいである。

 ある週末の夜のことだ。 

 真っ暗な廊下で、笑い声を聞いた。

 きゃはは、とか、そんな感じの、幼い女の子の声だった。

 当時Dくんは三人部屋に入っていたのだが、同室の二人は週末ということで帰省していて、一人だった。

 Dくんは不思議に思ったが、いつも通りに就寝した。

 明くる日。

 昼前、Dくんはパソコンに向かっていた。

 ゴン。

 窓から音がした。

 鳥がぶつかってきたのだ。

 窓には痛々しく血痕が残っていたらしい。

 そのときになってDくんは恐怖を覚えた。

 鳥があんな速度で建物にぶつかるなど、尋常ではない。

 その後Dくんは真昼間からカーテンを閉め切り部屋の蛍光灯を全て点け、ベッドの上でタオルケットに包まって一日を過ごした。

 しかしさらに二回、また窓に血が付くほどの勢いで、鳥がぶつかってきたのだという。


 私が、笑い声は誰かがやっていたゲームの音声ではないかと訊くと、Dくんは、作った声優の声には聞こえなかった、と言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

呼ぶ声 雛田安胡 @asahina_an

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ