砂漠に雨を

やすと68

君に花を

タッ──タッ──タッ──タッ。

平日の昼下がり。普通なら学校にいて、普通なら勉強している時間。

二週間前におじいちゃんが死んでから、学校には行っていない。何か言ってくれる家族はもういない。

最近しっかり寝れてないな、帰ったら寝るかなんて考えつつ、今日も当てもなく歩く。

気づいたらいつの間にか墓地に着いていた。せっかくなので、おじいちゃんのお墓参りをすることにした。お墓の前で、目を閉じ、手を合わせていると、後ろから声をかけられた。

「そこの君」

目を開けて、周りを見渡してみても、僕の他に誰かいそうな気はなかった。

「そこの君」

声のした方を見てみると、白髪で、結構お年を召してそうなお爺さんがいた。誰だろう?

「僕でしょうか?」

「そうだよ君だよ。初めまして」

「初めまして。どうかされましたか?」

「『どうかされましたか?』だって?それはこちらの台詞だよ」

「別にどうということはありませんが...ご心配お掛けしました」

別にどうということはない。ただ、疲れたというだけの事。休めばいい。

「君は今暇かね?」

「やる事はないので暇です」

「では、話好きのじじいに付き合ってくれんかね?」

「分かりました」

どうせただの暇つぶし。

「君は将来の夢とかあるかね?」

「...」

「わしはな、小説家になりたいと思っとるんじゃよ」

「...」

夢...そんなもの死語だとばかり思っていた。無言でいる僕に、尚もお爺さんは話を続ける。

「災害前はな────」

確信した。このお爺さんは、犯罪者だ。もしかすると僕も抵触しているかも。

70年前に起こった、大災害の後から制定された法律が三つある。

《災害以前を語らない》

《人生計画に従う事》

《反逆者と関わる事も罰する》

70年前、世界規模の大きな竜巻が起こり、人口は全体の3割にまで激減した。

これを受けて政府は、《人生計画》という新たな法律を制定した。生まれてから死ぬまでの、仕事や結婚相手や出産などまで全てをを決めてしまう事にした。これには、人口増加や国の立て直しを狙う意思があった。食糧不足などもあり、その事について、異を唱える人も少なかった。

しかし近年、反逆組織『recall』という組織が出てきた。このお爺さんが、そこのメンバーなのかは分からない。話すと面倒だが、今の僕は人生計画から少しズレてきている。だからだろうか、少しどうでも良くなっていた。

「で、少年。君の夢は何かね?」

「僕には、夢なんて...ありません」

「『夢なんてありません』か。若いのに勿体ない」

「勿体ないですか...」

「あぁ、勿体ないとも。では、君は"夢"とはなんだと思う?」

「夢とは...ですか?」

「そうだよ夢とはだ」

「...」

「夢とはね、君の進む方向だよ。君の進みたいと思う方向だよ。道を照らす光。なりたい自分。でもね、夢を叶えたらそこでゴールじゃない。その先も続くけどね。」

「なりたい自分...」

「では次に、恋について話をしよう。」

恋.....それもまた死語だ。

「恋とはね────おっと、もう時間か。まだまだ話足りないんだけどな。では、これは宿題だよ。次会った時にでも聞かせてくれ。君の答えを────最後に君の名前は?」

「空といいます」

「いい名前だね」

話すだけ、話したいだけ話して帰っていった。一人で帰れるのかと思ったが、付き添いの人がいるようだ。

夕陽が沈みかけていた。

「恋か.......帰るか」

僕の心も沈んでいた。

住宅街にまで帰ってきた。異様な程に、騒がしかった。

曲がり角を曲がろうとした時だった。足が縺れて、前に倒れそうになる。

運悪くそこに女の子が走ってきた。ゴツン。ゴール。

腰まである髪を、二つに分けて三つ編みにし、綺麗なオレンジ色の髪をした女の子がいて、気を失っていた。僕の方は、当たりどころが悪くなかったから、痛いですんだ。

「だ、大丈夫ですか?」

揺すっても起きない。

どうしようかと困っていると、彼女のズボンのポケットから声がした。

「ロゼ大丈夫?もしかして捕まった?」

大丈夫じゃないですね。もしかしてさっきの騒ぎは『recall』の仕業?

「すいませんすいません。大丈夫ですか?」

揺すっていると、ポケットから青いキューブみたいなのが出てきた。ポケットにしまおうとしたが、我に返る。気を失っている女子のポケットに手を突っ込むのは客観的に見てやばい気がした。後で渡そうと思い自分のポケットにしまう。

その時。ビリビリッ。意識が遠のいていく────。

あれからどれだけの時間が経っただろうか。気がつくと、冷たい地面に倒れていて、手が拘束されていた。

「ここは...」

「ここは多分、というか牢屋だよ。いやぁー困ったね〜」

声のした方を見ると、さっきぶつかった少女がいた。

「初めまして。私ロゼっていうの。宜しくねルームメイトさん」

「初めまして。僕は空といいます」

「で、なんで空はここにいるの?」

「気がついたらここにいました」

「そう」

鉄格子から見える外は、暗く夜だということが窺えた。

「星が綺麗だよ。見てみなよ」

「星...」

そう言われ星に注目する。こんなじっくり星なんて見たのは、生まれて初めてかもしれない。皮肉なことに、牢屋にでも入らない限り見れない光景だった。

「あなた、将来の夢とかってある?」

まさか、今日だけで2度も尋ねられることになるとは。まさか、人生で2度も尋ねられることことになるとは。

「それ流行ってるんですか?」

「何が?」

「今日白髪のお爺さんにも聞かれまして」

「あー宝じいか。そりゃ聞くな。あの人話すの好きだしな。でも聞いたのは宝じいでしょ?私は返答を聞いてないわ」

「僕には夢はないんです」

「そっかー。じゃあこれから見つけていけばいいね」

「...」

「私はね、歌手になりたいだ〜。ここだけの秘密だけどね、私recallのリーダーなんだー。すごいでしょ」

「まぁ...はい」

「だからね、自由な世の中にしたいんだー。自由にだって責任はつきものだからね、私は責任を持ってやってるんだよ。責任感無さそーとか思われそうだけど」

「...」

「好きな人と恋をして、好きな職業に就いて、そんな世の中にしたいんだー」

「恋ってなんだと思います?」

なんとなく聞いてみたくなった。

「何それ?もしかして宝じいからの宿題?私もね、同じ宿題出てるけど分からないんだ」

そう言う彼女の顔は、多分はにかんでいるんだろうと思う。

「まあでも、その答えはおいおい、出すとして。君はどうなりたい?どう在りたい?」

「...」

「まぁいいよ、これも宿題ね」

それから、二人の間に会話はなく、彼女は寝てしまっていた。自由な人だ。

彼女は色んなものを持っていて、僕は色んなものを持っていない。

僕は、どうなりたい?僕は、どう在りたい?

そんな事を考えているうちに、いつの間にか眠っていた。

僕と彼女が目を覚ましたのは、大きな破壊音によってだった。

「うにゃー?」

昨日星を見ていた側の壁が壊されていた。日の出をバックに、recallの殲滅部隊のロボット?だろうかが、顔?というか、飛行機のコックピットみたいなのを覗かせていた。

「え!?」

僕が驚いていると、コックピット?が開いて中から同じ年ぐらいの少年が顔を出した。

「迎えに来たぞロゼ」

「サンキュー」

どうやら彼女とは知り合いのようだ。

「そこのヒョロっとしたやつはなんだ?」

「私のルームメイトだよー」

「なんだよそれ」

「そうだ空、これだけは忘れないでね。なりたいようになればいい、在りたいように在ればいい────」

そうだ、返すものがあった。今は出てこないが、返すべき言葉もある。

「そういやこれ」

昨日返せなかった青いキューブがあった。

「ありがとう。それでね、君は、やりたいようにやればいいんだよ」

そう言い終わると、キューブを受け取ろうと手を出してきた。その手を僕は掴んでしまった。

「ほにゃん?」

「あ...」

彼女は不思議そうな顔をしていたが、次には明るい笑顔だった。

「一緒においで」

そう言うと、掴んでいた手を引っ張ってくれた。

「定員オーバーだろぉ。あー狭い、だるい、うざい」

「りっくんうるさい」

「なんか僕のせいで、すいません」

「気にしないで〜。で、りっくんもうみんな退かせといて」

「だってさみんな」

『へーい』

「それとプランXね」

「プランXだそうだ」

「プランXって何ですか?」

「それは.....帰ってから教えるよ」

「分かりました」

ロボットの中は結構な揺れだったが、それが却って心地よく、揺り籠みたいで、気がつくと寝ていた。


「おい、着いたぞ。起きろどアホ」

「もうちょっと寝かしといてあげようか」

「こっちはメンテとかあるんだよ。とっとと起きろ」

「りっくんのばか。プランXの準備もまだなんだからって意味もあるんだよ」

「もういい勝手にしろ」


どれぐらい眠っていたのだろうか。コックピットのドアが開いていて、風が入ってきて気持ちよかった。辺りは少し薄暗い。

ロボットから降りていると、後ろから声をかけられた。

「おにいさんだれ?」

声のした方を振り向くと、一人の子供がいた。

「ぼくはね、ふうっていうの」

「僕は空」

名前を言うと、子供が手を出してきて。

「よろしく」

と満面の笑みで言った。

「...」

少し困る。

「空起きてたのね。丁度いいわ。こっちこっち」

見ると、錆びれたでかいかまぼこ状の建物の方にロゼがいた。

「行こ」

と、ふうが言って、僕の手を取り引っ張って行った。どうやら、かまぼこがアジトのようだ。

中に入ってみると、ビックリした。

【ようこそrecallへ。よろしく空】

と、大きな段幕と共に、50人以上の人が食事の乗った大きな長机を囲んでいた。

「はい空あいさい」

「あっ、えっと、その.....空です。よろしくお願いします」

挨拶をしただけなのに、わぁーっと盛り上がった。みんなが口々に自己紹介をしてきた。そこをロゼが、

「先ご飯ご飯。自己紹介は後ね」

と上手く助けてくれた。

「じゃあ空こっちこっち。普段は私の席なんだけどね、今日は譲ってあげる」

と、如何にもリーダーが座りそうな位置を譲ってくれた。

みんなが席についたのを確認したロゼが、音頭をとるようにみんなに向かって

「新しい盟友空にカンパーイ」

と言うと、みんなもロゼに続いて

「カンパーイ」

と言ったような感じで、始まった。

みんなが笑顔でわいわい楽しみながらご飯を食べる。ただたんに、事務的にこなしてきた今までの食事とは全く違っていた。

皆が、ご飯を食べ終わる頃合いを狙ってロゼから

「空が来たことだし、明日は自由行動に賛成の人ー」

『はーい』

といった事があった。


「空はこの部屋使ってね〜」

と言ってロゼはどっかに行った。

ベッドに木の引き出しが置いてある部屋だった。今日はこのまま寝ようかとも思ったが、ロボットの中で結構寝てしまっていたので、少し散歩に行くことにした。

近くに丁度いい散歩道があった。丁度いいのは、考えるためにいいと言う事。僕はこれからどうしたいのか、どうなりたいのかを考えるのに良かった。

少し歩いていると人影が見えてきた。誰だろうと思ったが、この薄暗い中でもよく分かる、オレンジの髪をしたロゼだった。ロゼもこっちに気づいたらしい。

「空も星を見に?」

「僕は散歩」

「『空も星を見に?』ってなんか字面だけ見れば変よね」

彼女は可笑しそうに笑う。

「一つ聞いてもいいかな?」

「どうぞ」

「ロゼって本名?」

「違うよ。宝じいが付けてくれたの」

「じゃあ僕も名前変えた方がいいのかな?」

「変えなくていいよ、いい名前だし。私の場合は覚悟とか事情とかでかな」

「へー」

「知りたい?知りたい?」

ちょっと悪そうな笑顔で顔を近づけてくる。

「ロゼが言いたくないなら、知りたくない」

「空はいい人だね〜。まあ言いたくないって事ではないし、仲間だし言うね?」

「分かった」

「空ならこの国のトップって知ってるよね?」

「一橋 治」

「正解。そして、血縁上私のお父さん」

「...」

「だから、recallを作った時に名前を変えたの」

「...」

「あんまり驚かないんだね」

「そうかなあ」

「じゃあ、政府直属のrecall殲滅部隊って知ってる?」

「あまり知らない」

「まあ対recall用の組織ね。そこのリーダーが婚約者の予定だったの」

「へー」

「全然驚かないのね」

また可笑しそうに笑う。

「これならどう?今じゃ私は死んだ扱いになってるんだよ。お化けだぞー」

「それはすごいね」

「脅かしがいがないわね」

と、また可笑しそうに笑う。

「じゃあ今度は空のこと教えてくれる?」

「どうぞ」

「じゃあ.....どんな所に住んでて、どんな人に囲まれて、どんな景色を見てきたの?」

「普通の家に住んでて、おじいちゃんと二人暮らしで、色のない景色を見ていたかな」

「へー。色のない景色かー。お父さんとお母さんはどんな人だったの?」

「お母さんは、小さい頃に亡くなってあまり覚えてないけど、お父さんはいいお父さんだったよ。まあでも、僕が中学生ぐらいの時に、recallみたいな運動して、捕まっちゃったんだけどね。」

「1度会ってみたいものね」

「...」

「今日はもうお風呂に入って寝るね。おやすみー」

「おやすみ」

久しぶりにおやすみを言った気がする。

「そうだ、一緒にお風呂入る?」

「や、やめとくよ」

「そう」

そう言って戻って行った。

僕も戻ろう。お風呂は明日にでも。今日は疲れた。


部屋に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。

そのまま泥のように眠った。


朝。異様に布団の中がモゾモゾすると思ったら、子供たちが、昨日の夜にでも入ってきていたのだろう。なんかいっぱいいる。

起こさないようにベッドから出ようとしたが、ふうが起きてしまった。

「空どこいくの?」

「ちょっとお散歩にね」

「ふうもいくー」

そう言うと、みんな起きてしまった。

「なに?どこいくのー?」

「さんぽー」

「ゆきもいくー」

この子はゆきちゃんっていうのか、覚えておこう。

そうして僕は、子供たちを連れて散歩することになった。

暫く歩くと、男の人たちがたくさん集まっていた。どうしたのかと近寄ってみた。

「おお!君は空くんじゃないか、おはよう。昨日はよく眠れたかな?」

「おはようございます。よく眠れました」

「それは良かった。今ね、面白いもの作ってたんだ。よかったらやってく?」

「ちなみに、何作ってらっしゃったんですか?」

「えーっとね。何これ?おーい、陸〜、何これ?」

「なんすか小さんいきなり。って新人」

「おはようございますりっくんさん?」

「りっくんって呼ぶな。俺は陸だ」

「あー、ちなみに僕は小だから、小さんとかでいいよ。で、陸これ何?」

「小さんも一緒に作ったでしょうよ。えーっと逆スカイダイビング的な?」

「お前もよく分かってねぇーじゃねぇーかよ。まあ要するに、上向きのファンで1回上に飛んで、そっからまた落下を楽しむ遊び道具だよ。」

「危険じゃないんですか?」

「分からん」

「...」

「飛行機なんてカッチョいいもの作れねぇーしな。仕方ない仕方ない。パラシュート付けときゃ何とかなるでしょ。多分」

「まあでも、パラシュートは失神した時ように、最終ギリギリで開くようにはしてるし大丈夫だと思うぜ。やってみれば新入り」

「行きは失神しちゃうかもなー...」

場が静まり返ってしまった。と、遠くからロゼがやって来るのが見えた。

「なんか面白そうな事やってるね〜。それに空もいるじゃん」

「おはよう」

「おはよ〜。で何これ?」

カクカクシカジカ。

「へー。面白そう。やってもい?」

思わず言ってしまった。

「死んじゃうかもしれないのに!?」

「死にはしないよ...多分(ボソッ)」

「ほら、小さんもこう言ってるし大丈夫だよ」

「えー...」

「はいはい、四の五の言わずに行こー。空が空にゴーなんちって。もちろんりくっちと小さんもだよ」

「いや、僕無理だよ!」

「腹くくれ新入り。ロゼは言い出すと聞かない」


「パラシュートOK」

「ちょっと待ってこれも」

「何これ?」

「意識飛んだら電流流れる装置」

「よし、いざ行こう空の旅へ。えいえいおー」

『おっ、おー』


ファンの近くまで行くと、その大きさに圧倒された。外に飛び出さないように囲いがある。ファンの上は、人が立てるように網目状の足場があるが、人が浮く程度の風にまで上がると、その足場を取るらしいので、余計に怖いだろうとの事だ。下を見るならしい。

「よしみんな上に乗って」

「回しちゃって〜」

「了解」

下からものすごい風が来た。

「わぁーすごいすごい」

ちなみに、朝の6時過ぎである。

「ぼくもいきたい。わたしもいきたい」

「君たちは今度ね」

子供達が羨ましそうに見ている。

「おっ!もう浮いてきた」

「陸、空ビビってねえかー?」

「俺はビ、ビビってねぇーよ」

「僕も今のところは」

「そうかいそうかい。ガハハ」

現状。

ロゼちゃん、ワクワク

小さん、こんな人だったっけ?

陸さん、ビビってる?

僕は...

「こっから一気に強くなるからなー。空の旅を楽しんで」

ゴゴゴ。更に羽が早く回っていく。

「おーし!」

「おっ!」

「ひぃ!」

「う!」

更に強い風が来て4人は凄いところまで飛んでった。と思ったら次は落下だった。

→ → → → →

↑ ↓

↑ ↓

さっきの急上昇では、誰も気を失っていないようだった。

4人とも落ちていくなか、ロゼが僕に向かって言った。

「楽しいねー」

君は凄いね。

「ちょっと怖いよ」

「何?」

「ちょっと怖い」

「もっと大声で」

「ちょっと怖ーい」

「私は楽しい!!」


パラシュートは正常に開き、後は着地まで揺られている中。

「空すごい顔してたよ」

ロゼは大笑いしていた。

「ロゼも風で顔がヴァーってなってたよ」

「うっそだー」

「ほんとだよ」

「で、空はやりたいこと見つかった?」

「まだちょっと分からない...」

「でも、楽しかったでしょ?」

「まあ...」

「ならいいよ」


着地後。

「おにいちゃんどうだった?たのしかった?」

「まあ、楽しかったよ」

「いーなー僕もやりたい」

「君たちはまた今度な」

「はーい」


その日の夕食時。

「明日は街での活動ね〜朝6時にしゅうごうね〜以上」

普段からは想像も出来ないが、ロゼはやっぱりリーダーなのだと思った。

明日朝早いからもう寝よう。風呂入って。


朝5時。ピピピピピピピピ。そこら中で目覚ましのなる音が聞こえる。その音で自分は起きてしまったぐらいだ。

都市までは、ロボットでも3時間かかるので、ご飯を食べたり、予備燃料なりと色々準備が大変なようだ。

朝ごはんは夜のご飯の時間の────────比じゃないくらいうるさくなっていた。

「ワァーワァーワァー」


3人編成で、1時間交代でロボットを運転する。僕は、ロゼと陸さんと同じロボットで、陸さんが代わりに運転してくれる。

ロゼ→陸さんx2で運転することになった。

ロゼが運転する間、陸さんが寝るとの事だった。僕も寝ていてもいいとの事だったので、お言葉に甘えて寝ることにした。


1時間後。ロボットが止まった。それと同時に陸さんと僕が起きた。次はロゼが仮眠をする番だった。

「私にエッチなことしないでよね〜」

「あ、うん、しないしない」

「してもいいんだよ〜。おやすみ〜。グピィー」

寝るのはや。

「お前も寝てろ」

「流石に僕のせいなので起きてます」

「勝手にしろ」

「一つ聞きたい事があるんですが?」

「なんだ?」

「陸さんって夢とかってあるんですか?」

「好きな女を口説きてぇー」

「はぁー。」

「聞いといてなんだよ」

「すいません」

「お前は?」

「僕はまだちょっと...」

「簡単な事でいいんだよ。難しい事なんてねぇーよ」

「ありがとうございます」

「もういい、寝てろ」

「いえ、そんな」

「運転の邪魔」

「はい...」

スースー。


「好きな女ってもしかして、わ・た・し?」

「聞いてたのかよ。安心しろお前じゃない」

「ぷー」


「3機で1班。演説を終えたらそのまま撤収。追手を撒くこと。では、各々担当地区へ」

『りょーかい』


「私達はここでと。準備OK?」

「準備OKだ」

「皆さん、おはようございます。私達はrecall────」

やっぱりロゼは凄いな。

「よーし。撤収」


「OK。全員帰ってきたな。明日の予定だが、空にロボットの操縦を覚えてもらうために、空と、りっくんと、哲さんと、小さんと、私で釣り。その他の者は休みとする。では解散」

今日も疲れた、明日も早いし早く寝るか。


「なんでてめぇーが1番遅せぇんだよ」

「すいません、すいません」

「まあまあ、いいじゃねぇーかよたった五分ぐらい。陸だって遅刻する時ぐらいあるだろ?」

「しかし、その五分が命取りになるかもですよ」

「哲も固いこと言うなよ」

「もういいじゃん。始めよー。哲さんとりくっちで基礎動作教えてあげてね。私と小さんは先行ってるね」


ガゴン、ギィー、ゴン

「なんで、そーなんだよ」

「すいません」

「まあでも、初めの陸よりは上手いですね。筋がいいです」

「はい」

「ロボットを自分の身体のパーツだと思って。そうそう上手いですよ」

2時間後。

「やっと着いたー」

「帰りは1時間で帰れるようにしましょうね」

「おお、やっと来たか。遅かったな」

「おそーい」

「それより釣れてんの?」

「まあボチボチだな」

「釣りって初めてなんですがどうするんですか?」

「りっくん」

「俺はお世話係か。まあいい教えてやるよ。まずここの糸を抑えてだな────後は、まあそんな感じだ」

「ありがとうございます」


「大物釣れないね〜」

「釣れました。陸さんのお陰です」

「ものすげぇー小さいけどな」

「初めてですので嬉しいです」

「そうかい」

「あっ、また来ました。今度は大きいです」

「わー。竿がすごいしなってる」

「どうせ、根がかりだろ」

「あっ、わぁー」

「あっぶな。今わしが注意して見とらんかったら空持ってかれとったぞ。これは本物だ」

「ロゼ、陸、哲、手伝えー」

「『哲、手伝え』だって。クスクス」

「ロゼウケとらんで助けろ」

「分かった分かった。って、え!重くない!?」

「哲も陸も早く」

「私は手を怪我したくないのでパスで」

「しかたねぇーな。ってマジかよこれ!!」

「せーのでいくぞ。せーの!せーの!」

「姿が見えてきた」

「だからって焦るなよ」

「なんか鮫並にでかくないか!?」

「いくぞー。せーの!せーの!もう上がるぞ!せーの!せーの!よっしゃ上がったぞ!」

『え!!』

姿を現したのはなんと、巨大マグロだった。

「こりゃたまげたなぁー」

「空は釣り担当ね」

「まじかよ、マグロ!!今日は宴じゃー」

「じゃあもう今日は帰りますかー。イェーイ」


「だいぶ上達してきましたね。その調子です。後は慣れですね。疲れたでしょうし変わりましょうか?」

「最後までやらせましょーよ哲さん」

「分かり────」

哲さんの言葉を阻むように無線が入る。

「哲さん、りっくん、空、待ち伏せよ。ここで別れましょう。アジトで会いましょう」

「了解」


「私が変わりましょう」

「いや、最後までこいつにやらせよう」

「正気ですか?」

「ああ。俺達はサポートにまわろう」

「分かりました。空頑張って」

「そんな...僕できませんよ」

「お前がやるんだ。いいな」

「...」

「これぐらいやってみせろ。そしたら認めてやる」

「はい」

「空、倒さなくていいですよ。行動不能にさせるか逃げればいいんです。分かりますね?」

「分かりました。行きます」

相手は運良く巡回していたロボットで、2機しかいなかった。こちらも2機なので、1機を相手にするというラッキーだった。

考えろ考えろ。逃げると一定距離を置いて付いて来る。片足でいい、やるしかない。

よし、ここだ。距離を詰める。

「おっ!」

相手のロボットの体勢が崩れた。

「今だ!」

ガシャン!

「...」

片足を壊した。

「良くやった。応援が呼ばれる前に帰ろう」

僕にも出来たんだ。


「すごいじゃん空!よくやったね。お疲れ様」

「ありがとう」

「では、みんな聞いてほしい。空の奮闘を祝して、明日は温泉だぁー。覗いちゃ嫌よ〜。そして、今日の晩飯はマグロだぁー。これまた空の奮闘のお陰だ」

「おにいちゃんすごーい」

「ありがとう」

あーあ。今日も疲れたな〜。早く食べて寝よ。


「おーい、空起きろ行くぞ(小声)」

「おはようございます陸さん。もう出発ですか?まだ少し早くないですか?」

「一番温泉だよ」

「分かりました」


「何をしてるんですか?」

「見てわかんねぇーのか?景色見てんだよ景色」

「そっちは温泉しか見えないでしょ」

「景色!!」

「陸さん早く行────」

「見てみろ凄いぞ!」

「あ、ああ、あ。こ、こんなのダメですよ」

「まだガキには早かったか」

「お前ら、俺のかみさんの裸がそんなに見たいのか?許さんぞ」

「なんで小さんがいるんですか」

「温泉のところから見えた」

「視力やべぇ!!」

「で、俺のかみさんの裸がそんなに見たいのか?」

「40過ぎたばばあの裸なんて興味ないっすよ」

「俺のかみさんをばばあなんて言うな。で、誰の見てんだ?ロゼか?」

「あんなクソペチャやろうじゃねぇーよ。碧さんだよ」

「碧くんか〜。私の妻と同い歳だぞ」

「くだらねぇー嘘つくんじゃねぇーよ。まだ碧さんは20代だ」

「でも碧くんって子持ちだろ?」

「あー藍ちゃんか。そんなの関係ないっすよ。好きになっちまったんで。元旦那さんからDV受けてたらしいっすから、男の事嫌いになってたりするかもですけど。まあ、この国のルールのせいっすよね。好きな人と結婚出来ないとか...」

「陸は俺に似てるな」

「嫌っすよ」

「ふっ」

「ねえねえ何見てるの?」

「あぁ?何って、碧さ.....」

「え!」

「なんでここにロゼがいんだよ」

「あっちから見えたよ」

「あんたら化け物かよ.......あーあ白けた、温泉行こーぜ空」

「分かりました」

日頃の疲れを癒せた。


「あー気持ちよかったー。帰ろーぜ」

「待てーい。ここで発表がある。今日は夜にも活動をする。なので、浴衣で待機せよー」

『浴衣?』

「そう、浴衣。みんなの分も用意してあるよ〜」

「なんで浴衣なんだよ?」

「まあそれは、帰ってから説明するよ」

「浴衣か...何するんだろう?」

.

.

.

.

「やっと着いたー。温泉入ったのにこれからまたやるとかだりー」

「楽しいことは保証するよ。じゃ、活動内容の発表ねー。今回は、歌でみんなを変えていこう作戦ね」

「歌?歌って誰が歌うんだよ?」

「私だよ」

「歌えんのかぁ?」

「私の美声に惚れないでよね〜。で、それにあたって、哲さんにはピアノお願いしたいんだけど?いいよね?」

「了解しました」

「じゃあみんな、浴衣に着替えたら集合。そして、場所移動。私に付いてきてね〜」

どこ行くんだろう?


「着いたはいいけど、ここ何処だよ?」

「知らないけどこの前見つけた。中も広いよ」

「ここ元は野球場じゃろうな」

「今の子らは知らんだろうがな、昔野球ってスポーツがあってな、それをこの球場の中でやっとったんじゃよ」

「さすが宝じい!」

「ほほっ」

「じゃあ、中入ろっか」

ドアらしきものがなかったので、ロボットで道を作りながら進む。

ガラッ。パラパラパラ。あっ!──────そこには、大きな空洞が広がっていた。天井を突き破って入ってきたのであろう巨大な石が、真ん中にドンと一つあった。その石を、その場所を、囲むように、周りには椅子が、整然と並べられていた。

天井から夕陽が射していて、石をライトアップしているかのようだった。

「じゃ、準備よろしく〜」

解(ばら)してあったピアノを、並べて揃えて組み立て終わる頃には、夕陽が沈み、空には星が見えていた。

バッ、バッ、バッ、バババババッ。

石の周辺を照らすかのように、ライトが一斉につけられた。

「んじゃ、始めようかー。みんな好きなとこ座っといて。あと、小さんカメラもセットしといて」

「なんでカメラがいるんだよ?」

「なんでって、歌ってる動画を日本のみんなに見せるためだよ」

「...」

「それと、ロボットであっこ乗っけて」

そう言って指さしたのは、なんと、岩の上だった。

「お前馬鹿なのか?」

「あそこで歌うとかかっこよくない?」

「お前馬鹿だった...」


「よーし、哲さん準備OK?」

「いつでも」

「ふぅー...」


♪ 描いてた夢が、あーって────


きっと、誰もが持っていたであろう、ロゼが歌えるのかという疑問。その疑問を、払拭するように、力ずよくも儚げに、彼女は歌い出した。


♪思いがととぎますよーうに。I pray for your happiness────


彼女は今、とても楽しいのだろう。観客席から見てる僕には、彼女がとても美しく、眩しく映る...

歌も終盤に差し掛かった頃。ドォーン。

彼女の美しさに拍車をかけるように、穴の空いた天井から花火が見えた。


♪────I will continue to be in my────。


誰もが、終了の余韻に浸っていた。

「ふぅー。終わったー。ありがとうみんな」

名残惜しくもみんな拍手喝采だ。

「そしてー。今から花火だー」

球場に皆集まり、思い思いに花火を楽しんだ。


帰り支度を済ませ帰ろうとした時だ。

「えーっと。明日は皆でキャンプに行きまーす。1泊2日で自給自足生活だよ」

「明日も遊ぶのかよ?」

「いやいや、今日のは遊びじゃないよー。ちゃんとした活動だよー」

「そうだったんだ」

「もう帰るよー」


それにしてもロゼの歌すごい上手かったな。


「皆揃ったね。よしじゃあ行こー」

「行くって山か?」

「そうだよ」

山の麓まで来た時だった。

「こっからは歩きで行くよー。大きい荷物は男達よろしく〜」

『え〜』

「可愛いレディー達に持たせるつもりかい。男達よ」

「誰が可愛いって?碧さんは分かるけど(ボソッ」

男達の抵抗も虚しく、決定事項のようで仕方なく持っていく事になった。

「テントは頂上に張るよね?」

「アホか。開けたところ見つけたらそこに張るんだよ。帰りを考えろ」

「え〜」

「まぁまぁロゼちゃん。子供たちもいる事だし」

「碧さんがそう言うなら...」

「さすが碧さん!!」


「ここにするか」

「じゃあテントと食料と薪の三チームに分かれましょうか。空は魚釣りね」

「分かった」

「じゃあ、分かれたら即取り掛かってねー」


テント

「痛ったー」

「大丈夫ロゼちゃん?」

「大丈夫大丈夫」


「でんせつのけんひろったー」

「ぼくのほうがすごいし」

「わたしのほうがすごいもん」


食料

「巻け巻け巻け巻けー。空巻けー」

「ちょっと陸さん、助け、あー」

「空が飛んだ!」

「何やっとるんじゃお前ら」

「おお!ナイスキャッチ小さん」


PM6時

「全員揃ったね。じゃあ、今後ためのミーティングと宴を兼ねて。かんぱーい!」

『かんぱーい』

今後か...

僕は何をすればいいんだろうか。


「女子と子供はドラム缶風呂。男子は川行ってこーい」

「ひでぇーぞ!」

「だってドラム缶そんなないし、時間かかるし」

「陸、川で我慢するぞ。男は黙って女の言うことを聞いておけい」

「まぁ、ちょっと暑いしいいか。小さん背中流しますよ」

「おお、サンキュー」

「空は俺の背中な」

「分かりました」


「星を見ながらお風呂なんてサイコー」


「なんか虚しいっすね小さん」

「いいじゃないか、男の友情だ」


「もうみんな寝るよー」

『はーい』


小さんと陸さんに挟まれる感じで寝ていたが、2人のイビキで寝られない。

「ちょっと外に行くか」

月明かりを頼りに、少し散歩をしていると、川のところに人影が見えた。誰だろうと近づくとロゼだった。

「眠れないのロゼ?」

「あぁ空。うんちょっとね」

.

.

.

少しの間沈黙が続いたが、唐突にロゼが口を開く。

「空は、この先どうしたらいいと思う?」

それは、ロゼらしからぬような事だった。

「楽しいだけじゃダメなのかな...」

「いや、大丈夫だよ」

「時々思うんだ。これでいいのか、このやり方でいいのかね...」

「間違ってないと思う」

また沈黙が続いた時だった。カサッ。

動物でも来たのかと思ったが、そこから出てきたのは宝じいだった。

「どうしたんじゃお二人さん。もしかして邪魔したかの?ほほっ」

「大丈夫だよ宝じい」

「ワシはここにいられてよかったと思っておるよ」

「なんだ聞いてたのか」

その後一時間程3人で話をした。


「ワシはもう寝るよ。若いからってあんまり夜ふかしはするなよ。ほほっ」

「おやすみ〜」

「おやすみなさい」

「ありがとうなー」


「僕達ももう戻る?」

「私はちょっと頂上まで行こうかな」

「今から!?」

「うん」

「危ないし僕もついて行くよ」

「別にそんなの大丈夫だよ」

「ついてくよ」

「眠くなったらいつでも帰っていいからね」


ロゼは、ぴょんぴょんと軽々進んで行くが、かなりしんどいものだった。

「もうちょっとで着きそうだけど、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」


何時間ぐらい歩いただろうか、やっと頂上が見えてきた。

「おー!着いたよー、空も早く早く」

「う、うん」

頂上に着いた。360°見渡せる。川に、大きな木に、よく見ると動物も見えた。そして何より、地平線から太陽が顔を覗かせていた。とても綺麗な風景だった。

無性に叫びたくなった。

「ロゼー。君は間違ってない」

ロゼは少し驚いた様だったが、すぐに。

「ありがとー。空はかっこいいぞー」

「何それ(クスクス」

「そっちこそ(クスクス」

お互いに笑っていた。

「帰ろっか」

「うん」


2人ともクタクタになりながらもテントに帰ってきた。ちょっと寝たかったが。

「みんな起きろー。帰るよー」

もう帰るらしい。

帰りは僕とロゼは眠っていて、陸さんが運転してくれていた。


「明日は普通の活動ね〜。早く寝るように」

『はーい』


「起きろ空。行くぞー」

「は、はい」


いつものように、チームに分かれての演説だった。ロゼが演説していると、1人の女性が近づいてきた。

「私も加入したいのですが...」

「大歓迎大歓迎。こっちに────」

ロゼが近づいて行った瞬間、運悪く殲滅部隊のロボットが来てしまった。

「やばい!」

ガチャン!

「ふぅー。空助かったよ」

「今のうちに」

「よし、今日はここで撤退ね」


「ようこそ『recall』へ」

「あ、ありがとうございます」

女性は泣きそうになっていた。

「私の名前はロゼ宜しくね」

「私の名前はゆりです」

「ゆりさんか。宜しくね」

その夜は、どんちゃん騒ぎをして終わった。

「明日もノリに乗って、勧誘と演説に励むよー」


「ちっ!今日は運が悪いなー。撤退」

今日の成果はなかった。


「明日も、もう一度行きましょうか。明日は場所を変えましょうか。D地区中心で」

『はーい』


「ちっくしょー。また運悪く鉢合わせかよ。なんで2日連続敵とぶつかるんだよ」

「仕方ないね。撤退」


「明日も挫けずがんばるぞー」

『おー』

「明日も場所を変えましょう。E地区で」


風呂上がりの事だった。遠くで何かが光っている。ロゼを連れて行ってみた。近づいてみると、ゆりさんがいた。声をかけようとすると、それをロゼが制した。音を殺しロゼが近づく。


「事情を話してください」

「あ、あの、その...」

ゆりさんはスパイだった。

「私達はあなたの力になります」

「う...」

「埒が明かねぇー。ボコるか」

「それはダメ」

「もしかしたら潰されてたかもしれないんだぞ」

「潰されてないでしょ」

「く...」

「実はですねゆりさん。僕はここのみんなに助けられました。身内を亡くした、進む道を失くした僕を。保証します。私達はあなたを助けます」

「.........おっ...夫と子供が人質に...」


「明朝5時、救出作戦実行。二チームに分ける。一つは第二拠点に移動する班もう一つは救出班」

『おー!』

「みなさん...本当にありがとうございます」

「気にするな」

「哲の言う通りだ」

ゆりさんの携帯は一応全然違うところに置きに行った。


AM3時。まだ薄暗い

「死ぬ気で行くよ!」


5時前。ご主人と子供さんが囚われているであろう所、僕達が捕まっていたところの近くに着いた。これから起こることを予期させない静けさだった。

5時。

「行くよ!」

突入。ロボットが2機出てきた。それを軽くあしらって探す。


「おいおいおい」

すぐに見つかったが...

2人とも体に、爆弾が巻きついてあった。

発見と共に、無線から声がした。

「やべぇーロゼ。こっちが狙われた」

まだ片付けをしていた第1が狙われた。

「ゆきの仕業だ」

「ゆき?」

「私の婚約相手だった殲滅部隊の頭脳」

「爆弾は小さんに任せて私達も戻るよ」


「うりゃあー」

「みんな移動した?」

「宝じいがいない!」

「僕が探してくる」


拠点が今にも崩壊しそうだった。そんな中でも宝じいは本を読んでいた。

「宝じい逃げるよ!」

「少し話を聞いてくれ」

「そんな場合じゃ!」

「いいからいいから。ロゼと出会った時の話じゃ。あの子は昔っから綺麗でな、眩しかった。何かと危なっかしい所があってな。彼女を頼むよ」

「何をいってんの?」

「彼女の名前をつけたのはワシなのじゃがな、確か何かの花の名前だった気がするんじゃ」

もう待ってられない。担いでいく。

「ワシはもう助からんよ。置いていけ」

「黙って!」

「ワシは荷物になる置いていけ」

ポンッと突き飛ばされた。

「ありがとうと伝えてくれ」

ガラガラ、ドン!

天井が崩壊した。宝じいの真上の。


第二拠点

誰も口を開くものはいなかった。

「宝じい...」

「...」


キュインキュインキュインキュイン。

何かと思って周りを見渡す。

「き、き、きやがった。70年前と同じ台風が!」

『!!』

「どうすんだよ!」

「もうどうでもいいよ」

「はぁ?」

ロゼがそう言った。

「何言ってるか分かってんのかテメェ?」

「もうどうでもいいって言ったんだよ」

『...』

「ふざけるなよロゼ!」

「どうせ何とか出来るわけないでしょ」

「やってみなきゃ────」


「生きている限り戦い続けろ!休みたいなら死んでから休め!これは僕の父さんの言葉なんだ」

気がつくと僕は口を開いていた。

「何言ってんだよロゼ。君らしくない。僕はやりたい事を見つけたんだ。それをするまで死ねない。」

「やりたい事?」

「君を守りたい。宝じいに頼まれたからじゃない。自分の意思だ。どうにかして止めたい。力を貸してくれ」


「やってやるぜ!」

「第一拠点にあったスカイダイビングの機械を覚えてる?アレを使おう。台風後は電気がこないから手動で回せるように改造しといて」

「人手が足りないだろ!?」

「私に考えがある」


政府のビルに来た。みんな地下に逃げる準備をしていた。

「父さん!」

「ロゼ──」

「力を貸して欲しい。あの台風を止める」

「また変なことを言っているのか!」

「違う!!私を信じて!」

「とっとと消えろ!」

「この分からずや!」

「なんだと?」

「現実ちゃんと見やがれ!生きたいように生きやがれよ!」

「親に向かって!」

「好きなように生きる、素晴らしいじゃないか!私はたくさんのものを得た。将来やりたいことも────」

こっちをチラッと見た。

「好きな人だって出来た!」

「あんたはどうなんだ?あんたはどうだったんだ!生きたいように生きたのかよ!」

「それは選んじゃダメだったんだよ」

「なんでダメだったんだよ!」

「みんなそうしてきたから」

「あんたとみんなは違うだろ!これからだってまだ間に合うだろ!ちゃんと前見ろよ!」

「.........子供に教えられるとはな」


「全員!ロゼの加勢に行け!」


3.2.1

「回せーー!!」

『うおおおおおぉぉぉ!!!』

みんなの思いで回すんだ。

ガチャガチャガチャガチャ。シューン!

空は気持ちいい程の晴れ模様になっていた。

台風を消したのだ!


『やったぁー』

みんな抱き合って喜んでいた。

「やったね空!」

気がついたらロゼと抱き合っていた。

「やったんだね僕ら!」

ロゼが恥ずかしくなって僕から離れた。

「ロゼに言いたいことがある」

ふぅーふぅーと、周りから冷やかす音が聞こえた。

「今の僕があるのは君のおかげだ。ありがとう」

『ぶーぶー』

「いいよ」

「それと、この先も僕と一緒に歩いてくれませんか?」

「はい」


僕はやりたい事を見つけ、なりたい自分になろうとする。

こんな世界だが、ロゼに出会えてよかった。

彼女に恋をしてよかった。


ありがとう────

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砂漠に雨を やすと68 @yasuto68

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