最終話:最終決戦!聖夜に響くケツ割り箸!(後編)

(これまでのあらすじ:中学一年生になったばかりの割下わりしたは、ひょんなことからケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップとして、レディ・パン率いる邪悪なクッキングモンスターと戦うことになった。親友の佐々木ささきも同じく魔法少女装少年セイントリングとなり、割下と共に戦っていた。)


(どうにかレディ・パンたちの野望を阻止してきたが、12月24日の夜、ついに大悪霊が復活してしまった。しかも、その力は暴走し、このままでは街が危ない。だが、ピンチなだけではない。ヒップとリングは、第三の戦士セイントソードと和解し、セイントソードの正体が、同級生の女の子、折部おりべだということも知った。さらに、敵だったレディ・パンとも一時的に手を組んだ。)


(いよいよ最終決戦!行け!セイントヒップ!聖なるケツで、邪悪な割り箸を折れ!)


――――――――――


「作戦の流れを説明するワル」

黒いぬいぐるみみたいなマスコット、邪悪な目をしたワルノワールが説明する。


「あの暴走した悪霊は、もうオレ様たちの手には負えないワル。よって、いつものように、クッキングモンスターにして、成仏させるワル」

クッキングモンスターは、レディ・パンの手料理によって生まれる。だが、当然ながら、ここにそれはない。


「まずは、渡鍋わたなべ!キサマがいつものように料理を作るワル。それも、超特急でワル!」

「ええ、任せなさい!」

テレビに出演するくらい有名な料理研究家の渡鍋わたなべが頷く。何を隠そう、彼女こそレディ・パンの正体なのだ。


「で、それまで俺たちが時間稼ぎってわけだな?」

「そうね」

佐々木と折部が顔を見合わせて頷く。


「ぼ、僕も行くよ!」

「いや、お前は最後に割り箸を割る大役がある。お前にしかできないんだ」

割下も名乗り出るが、それを佐々木は留める。

「そうだプリ。ヒップの聖ケツなくして、この作戦は成功しないプリ!」

「うむ、その通りだハシ」

ピンク色のぬいぐるみみたいなマスコットのプリケッツと、青いぬいぐるみみたいなマスコットの鋭い目つきのハシパッキも佐々木に賛同する。


「で、でも……」

「大丈夫、私達を信じて。私だって、割下くんに負けないくらい強いんだから!」

折部は自分の胸を拳でドンと叩き、自信を持って答える。


「それに、キミには私のお手伝いをしてもらうわ。一人じゃ間に合わないもの」

「え?ぼ、僕が渡鍋先生のお手伝いなんて、そんな、迷惑にならないんですか?」

不安そうな割下に、渡辺とワルノワールが話しかけた。

「迷惑だなんて、とんでもないわ。ね、ワルノワールちゃん?」

「うむ、人手は多いほうがいいワル!」


「わ、わかりました!」

割下は力強く答えると、割り箸を取り出す。

「それじゃあ、みんな、やろう!」

佐々木が、折部が、渡辺が、割下の言葉に頷き、割り箸を取り出す。


パキン。


『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

変身BGMが鳴り響く!4人が宙に浮いて体が光に包まれ、連続変身バンクだ!


まず割下の全身が光のシルエットになり、ズボンがはじけ飛ぶ!そして代わりに黒いスパッツが装着される!


セーターとシャツがはじけ飛び、フリフリの淡いピンク色ドレスみたいな服が装着される!レースの手袋にニーソックス。ちょっとだけヒールが高い靴。髪の毛はリボンで結ばれる。メガネも魔法で形が変わる。


そして最後に、黒いスパッツの上から白いフンドシが装着される!


『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

セイントヒップ変身完了!


『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

次に佐々木の全身が光のシルエットになり、スニーカーががはじけ飛ぶ!そして代わりに装着されるのはカウボーイブーツ!


ズボンとシャツがはじけ飛び、ショートパンツ、胸下で縛られたへそ出しTシャツ、そして茶色いカウガールジャケットが装着される!腰には二丁のガンベルト。手にはレザーのグローブ。首元にはスカーフ。頭にはテンガロンハット。


そして最後に、蛍光イエローのバイザーサングラスが装着される!


『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

セイントリング変身完了!


『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

続いて折部の全身が光のシルエットになり、セーターがはじけ飛ぶ!そして胸元にサラシが装着される!


スカートがはじけ飛び、サラシの上から淡いブルーの和服を纏う!腰には大小二膳の巨大割り箸刀が携えられ、足元はハイカラブーツに包まれる。


そして最後に、神がふわりと伸び、巨大なサムライポニーテールが作られ、前髪は目元を覆う!


『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

セイントソード変身完了!


『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

最後に渡鍋の全身が光のシルエットになり、ローファーががはじけ飛ぶ!そして代わりに装着されるのは黒いロングブーツ!


次はスカートとロングコートがはじけ飛び、全身にフィットするぴっちりスーツ、そしてエプロンが装着される!腰には無数の調理器具がセットされたベルトが、アップスタイルだった髪の毛は解かれ風にたなびく。


そして最後に、顔にマスカレイドマスクが装着される!


『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

レディ・パン変身完了!


BGM終了!4人の戦士が、ここに揃った!


「行くぞ!ソード!」

「ああ!」

リングとソードが、闇に包まれた商店街に向かって飛び出した!


「ヒップちゃんはこっちよ。とびっきりの料理を作らなくっちゃ!」

「はい!」

ヒップとレディはクッキングモンスターの元となる料理の制作に取り掛かった!


――――――――――


「うわーっ!」

「きゃーっ!」

リングとソードが飛び込んだ商店街には、大勢の人が不気味な闇の塊から逃げ惑っていた。それもそのはず、今日はクリスマスイブだ。


「う、うわーっ!」

尻餅をついた少年の目の前に、闇の塊が迫る!だが、その時だ!


「させるか!」

リングが二丁の話ゴム鉄砲から輪ゴムを発射!

「ゴモーッ!」

闇の塊に命中!


リングの放つ輪ゴムは、天使の金輪と同じ聖なるパワーを持つ。悪霊には有効な攻撃だ。だが、その魔力は、魔法少女服から変換される。つまり、考えなしに連射すれば、ケツ丸出しなのだ。


「これでも喰らえ!」

「ゴモーッ!」

リングはさらに、闇の塊に飛び蹴りを食らわせ吹き飛ばす!

「セイントリング!」

尻餅をついた少年の眼が、絶望から希望に変わる。


「さあ、立てるか?」

少年に、ソードが手を差し伸べる。

「セイントソードも!」

少年は手を取り、立ち上がった。


「助けてくれてありがとう!」

「礼はいい。今はとにかく逃げるんだ」

「ああ、そうだぜ!悪いやつのことは俺達に任せな!」

少年は、ソードとリングの言葉に頷くと、商店街の外に走っていった。


「あれが大悪霊の本体か?」

リングが二丁輪ゴム鉄砲を構え直す。

「そうだろうな」

ソードが大小二膳の割り箸刀を抜刀する。


二人が見据えるのは、実体を持たない闇の塊だ。二人が対峙する、初めての、誰にも憑依していない悪霊だ。


冷や汗が一筋、ソードの顔を流れる。

「……私達で、奴を止められると思うか?」

ソードが問う。

「っへ!止められるかじゃねえんだ。止めるんだよ!俺たちでな!」

リングが力強く答える。


「ああ、そうだな!やってやるさ!」

ソードの表情に覚悟がみなぎり、二膳を構えて闇の塊に突撃する!

「援護は任せろ!」

リングが二丁の輪ゴム鉄砲から、聖なるゴム鉄砲を乱射した!


――――――――――


一方その頃、神社の境内では!

「さあ!スポンジが焼きあがったわ。ここからはいよいよデコレーションよ」

レディが魔法のオーブンから、ふわふわのスポンジ生地を取り出していた!


「クリームの準備はどう?」

「はい!バッチリです!」

レディの言葉に、泡立て器とボールを持ったヒップが答える。その顔には、所々にホイップクリームが飛び散っている。


「どうれ……」

レディは、ホイップクリームを一口舐めて、味を確かめる。

「……いいわ。目一杯空気を含んだきめ細かいクリーム。デザートなら甘さは控えめだけど、今回はケーキがメインだもの。甘さもタップリでいい感じよ。ヒップちゃん、あなた、料理の才能あるかもしれないわ」


「渡辺先生にそう言ってもらえると、あ、ありがとうございます……!」

ヒップの気が引き締まる。なにしろ、あの有名な料理研究家である渡鍋に褒められたのだ。緊張の一つや二つする。


「そんなに緊張しなくって大丈夫よ。今の私はレディ・パン。ただの一人の魔女なんだから、ね?オーッホッホッホ!」

レディはわざとらしく笑ってみせた。


「……っぷ!あはは!」

そんなレディを見て、ヒップもこらえきれなくなって笑った。そのおかげか、緊張がほぐれた。


「フフッ。いい笑顔ね。その意気よ。料理は楽しまなくっちゃ!さあ、ヘラを持って。スポンジにクリームを塗っていくわよ」

「はい!」

ヒップは笑顔で返事をして、ヘラを構える。


「いい?ケーキにクリームをる時は、最初から完璧に塗る必要はないの。最初はちょっと多すぎるかな?ってくらいに、雑に塗っていいのよ」

「こ、こんな感じですか?」

ヒップは、ヘラにたっぷりとホイップクリームを取り、スポンジに塗っていく。その量は、明らかに多すぎる。だが、それで良いのだ。


「そうそう。それでいいのよ。最初にいっぱい塗って、それから整えるのよ」

レディはケーキナイフを使い、器用にクリームを鳴らして平らにしてく。その手つきは手慣れており、滑らかでスムーズだ。


「……」

割下は、その手つきを食い入るように見つめる。

「ふふ、心配しなくっても大丈夫よ」

レディが優しく微笑む。


「細かいとことは私に任せて、ヒップちゃんは思いっきり塗っちゃってね!」

「は、はい!」

ヒップは再びヘラにクリームを取り、重なったスポンジにクリームをどんどん塗っていく。レディはそれを整え、クリーム絞りでデコレーションを重ねていく。


……そして!

「よし!完成よ!」

レディが『メリークリスマス』のチョコレートプレートを載せる。サンタクロースの砂糖細工人形と、たくさんのイチゴで飾り付けられた、クリスマスケーキが完成した!あとは、これに悪霊を宿してクッキングモンスターにするだけだ!


いつもなら、悪霊の宿った割り箸を割り、封印をといて料理に宿す。だが、今回は、すでに大悪霊の封印は解かれている。つまり……。


「あとは、これを運ぶだけね」

「はい!」

レディとヒップは、出来上がったクリスマスケーキを持ち、リングとソードが戦う商店街へと向かった!


――――――――――


闇に飲まれた商店街の周りを、無事に逃げ出した多くの人が、不安そうに見る。

「セイントリングとセイントソードだけで大丈夫なのかな……」

「いや、きっと大丈夫さ。それに、セイントヒップだって、すぐに駆けつけてくるさ!」

「そうだといいけど……」


人々の不安が大きいのも無理はない。今回は、いつもと何かが違う。モンスターではなく、悪霊そのものが暴れている。そして、闇に包まれた商店街の中からは、戦闘音すら聞こえないのだ。


「みんな!遅くなってごめん!」

ヒップとレディが、クリスマスケーキを抱えて商店街に駆けつける!


「あ!セイントヒップだ!」

「おいおい!レディ・パンもいるぞ!?どういうことだよ?」

ざわつく人々が押し寄せる!


「はいはい!みなさん、ちょぉ~と通してくださる?」

レディは大仰な身振り手振りで、堂々と歩く。だが、それを、押し寄せた人の波が壁となり、通さない。


「えっと……、みんな、安心して。今日のレディ・パンは僕たちの味方なんだ。だから、一緒に応援して、ね……?」

ヒップがおずおずと人々に語りかける。


「で、でも……」

「そうは言ってもなあ……」

「そんあやつに任せられるかっていうと……」

人々がざわつく。無理もない。いままでモンスターを呼び出して人々を困らせていたのは、レディなのだから。


「……」

うつむくヒップ。

「しょうがないわ。いままでの私が悪かったんですもの。ヒップちゃんは落ち込まなくっても……」

レディがヒップを慰めようとした、その時だ。


「レディ・パンさん!がんばれー!」

人混みの奥から飛び出し、レディに声援を送る、少年の声が!

「オ、オレ、信じるよ。セイントヒップのこと、それから、レディのことも!」


「よく言ったな、ボウズ」

一人のおじさんが人混みから抜け出し、少年の横に立ち、人々の方を見て言った。

「確かに、俺達はコイツとバケモンのせいで散々な目にあった。だがよ、不思議な事に、いつも誰だって、ゲガの一つもしてなかったんだ。レディ・パンも、なにかワケアリなんじゃねえか?」


「言われてみれば確かに……」

「モンスターが消えたら壊れたものも元通りになってるし……」

人々が再びざわつき始める。だが、このざわつきは、先程のものとは違った。そして、徐々に、人混みは左右に別れ、ヒップとレディが通る道ができていた。


「さあ、行ってくれ」

「行けー!セイントヒップ!レディ・パン!」

おじさんと少年が、二人を送り出す。


「がんばれー!」

「セイントヒップ!折ってくれ!」

「レディ・パンも負けないでー!」

おじさんと少年の声に、他の人々も声援を上げる!


「……みんな!ありがとう!」

うつむいていたヒップは前を向き直す!

「ウフフ……。応援、感謝するわ!」

レディも笑顔で答える。


二人はクリスマスケーキを抱え、闇に包まれた商店街に飛び込んだ!


――――――――――


「リング!ソード!遅くなってごめん!」

「心配すんな!こっちはまだ大丈夫だ!」

ノースリーブになったリングが答える。輪ゴムを撃って、魔法少女服の布面積が減っているのだ。


「ハァ……ハァ……、こちらも同じく。持ちこたえたぞ」

やや息が上がっているソードが答える。大小二膳のうち、すでに短い方の割り箸刀は、折れかかっている。


「レディ・パンさん!急ごう!」

「ええ!」

レディは、クリスマスケーキを頭上に掲げ、大悪霊に見せつける!


「さあ!美味しいケーキよ!たっぷり味わいなさい!」

「ゴモーッ!」

レディの誘いに、大悪霊がケーキに飛び込む!すると、突如、強烈な突風が吹き荒れた!


「きゃあ!」

「うわあ!」

「くっ!」

「ああっ!」

4人は闇の外に吹き飛ばされた。


「あ、セイントヒップたちだ!」

人々が駆け寄ろうとする。だが。

「待って!」

レディが掌を向けると、人々はそれを見て立ち止まった。


「……ここからが本番よ」

レディの言葉にその場の全員が、闇を見る。商店街を覆い尽くしていた闇はどんどん小さくなり、そして!


「ケーーーーキーーーー!!!!」

巨大なクリスマスケーキモンスターが姿を表し、商店街の建物を踏み潰した!


「お、大きい……」

「大悪霊のパワーだプリ!桁違いだプリ!」

ヒップとプリケッツがその巨体を見上げる。螺旋状の塔のようなケーキは、その1段が、建物の1階ほどの高さだ。


「みんな!逃げるんだ!」

ソードの声に、人々が逃げだす!だが!


「ホー!ホー!ホー!」

サンタとソリの砂糖菓子モンスターが飛び出し、逃げ遅れた子どもたちを求肥で袋詰にして転がす!

「うわーん!」

「動けないよー!」

「助けてー!」

このままでは子どもたちの恐怖がモンスターのエネルギーとなってしまう!


しかし!

「そおれ!」

レディはいつの間にか取り出していた巨大料理バサミで、子どもたちを求肥袋から解き放った!

「さあ、みんな、早くお逃げなさい」


「あ、ありがとうレディ・パン!」

「がんばれー!レディ・パン!」

子どもたちは笑顔でお礼を言って、走っていく。


「……ヒーローっていうのも悪くないわね」

レディがポツリと呟いた。


「ヒップ!割り箸はテッペンだ!」

リングが、クリスマスケーキモンスターの頂上を指差す。その頂上は、遥かに高く、遠い。


「わかった!行こう!」

「ああ!」

ヒップとリングはクリスマスケーキモンスターの頂上を目指して走り出した!


「クリームに足を取られないようにするのよ!」

ヒップとリングにアドバイスをするレディ。だが、彼女自身の戦いもまだ、終わっていない。


「ホー!ホー!ホー!」

サンタとソリの砂糖菓子モンスターが、レディに襲いかかる!

「負けないわよ!」

レディは巨大調理ばさみで砂糖菓子モンスターを食い止める!これ以上、逃げ遅れた人たちを襲わせる訳にはいかない!


だが、レディの魔力は、あくまで食材を料理とすること。作られたモンスターを成仏させることはできない。

「ぐぬぬ……!」

このままでは、レディが押し負けてしまう。


しかし、我々には、彼女がいる!

「……一膳一閃いちぜんいっせん……砕箸くだきばし!」

セイントソードの巨大割り箸刀の一撃が、砂糖菓子を砕く!


「ホーーーーッ!」

サンタとソリの砂糖菓子は光の粒子となり、消えていった。


「……いいの?私なんかと一緒で?セイントヒップたちと一緒に行かないの?」

「否、私が今やるべきことは、これ以上の被害を増やさないこと」

レディの問に、ソードは淡々と答える。


「それに……」

「それに?」

「セイントヒップには、セインリングがついているから」

ソードの見つめる先には、クリスマスケーキモンスターを駆け上る二人の姿があった。


「フフ、やっぱりあなたって、強いのね」

「む?どういうことだ?」

微笑むレディと、困惑するソード。


「人のことを信じるっていうのは、強いってことよ」

レディはそう言うと、クリスマスケーキモンスターの方を見る。何かが、こっちに飛んで来るのだ。それも、その数は1つや2つではない。


「どうやら、出し惜しみはできないみたいね」

レディは腰の調理器具ホルダーから包丁を取り出す。すると、なんということか。包丁は巨大化し、まるで巨大なバスタードソードのような武器になったのだ!


「フゥー……」

ソードも深呼吸をして、折れかかった小さい箸を、合わせて構え直す。大小二膳の巨大箸を構えたその姿は、まるで二刀流の武士そのものだ。二膳一流にぜんいちりゅうここにあり!


「さあ、準備はいいわね!」

「無論!」

構える二人に、トナカイ砂糖菓子モンスターの群れが襲いかかる!

「「「「「トナー!」」」」」


――――――――――


そのころヒップとリングは、クリスマスケーキモンスターを登っていた!

「ええい!まさかクリームがあんなにやっかいだったとは!」

リングの下半身には、まだクリームとスポンジの欠片がくっついている。


「イチゴをうまく飛び乗っていかないとダメだね」

ヒップの言葉の通り、所々に点在するイチゴを、うまくジャンプして登っていくしか無い。足を滑らせれば、底なし沼のようなクリームに飲み込まれてしまう。


そこまで恐ろしいクリームだとは思っていなかったリングは、思いっきり足を滑らせて、ケーキに埋まってしまったのだ。どうにかヒップに引っ張り出してもらったが、大きなタイムロスとなった。


「焦らず行かないとな。……よっと!」

リングがジャンプし、イチゴからイチゴへと飛び移る。

「えーい!」

ヒップもジャンプし、リングの後に続く。


「よっ!ほっ!はっ!」

「えい!たあ!いやあ!」

二人は順調に進んでいくが、中腹のあたりで、リングが足を止めた。


「おい、なんか聞こえねえか?」

「え?」

リングの声に、ヒップも耳を澄ます。


(ゴロゴロゴロゴロ……)


「何かが転がって……!うわあ!」

ヒップが頭上を指差す!上の段から転がってきたのは、巨大なブルーベリーモンスターの大群だ!

「「「「「「ブルー!!」」」」」」


「これでもくらえ!」

リングが二丁輪ゴム鉄砲を連射!!

「「「「ベリーッ!」」」」

百発百中の腕前で撃ち落とす!


「えい!えい!えい!」

「「「ベリーッ!」」」

ヒップもステッキを振り回して撃退!


「「「「「「ブルー!!」」」」」」

だが、まだ次が落ちてくる!

「ええい!キリがない!急ぐぞ」

「うん!」

ヒップとリングは登頂ペースを跳ね上げる!急げ!


――――――――――


ヒップとリングがブルーベリーモンスターの相手をしていた頃、ソードとレディはトナカイ砂糖菓子モンスターの群れと戦っていた!


「そおおおおれええええ!!!」

レディが巨大な包丁を横薙ぎに振り回す!


「「「「「「トナッ!?」」」」」

トナカイ砂糖菓子モンスターたちは足を切断され、動きが鈍る。そこにソードが割り箸刀の一撃!


「セイ!」

「「「「「「トナーッ!」」」」」

ソードに貫かれたトナカイ砂糖菓子モンスターたちが、次々と光の粒子になっていく。


「ぜぇ……、ぜぇ……、これで、終わりかしら?」

レディが息を切らしながら周囲を見渡す。

「どうやら、あれで最後のようだ」

ソードが見つめるのは、ひときわ大きなトナカイ砂糖菓子モンスターだ。


「ドナー……」

花は赤く、ツノは他のどのトナカイ砂糖菓子モンスターよりも立派だ。まさに群れのボスである。


「もうひと踏ん張りってところね」

レディが巨大包丁を構える。

「ドナーッ!!!!」

赤鼻のトナカイ砂糖菓子モンスターは、地響きのように嘶き、レィでに向かって突進!


「そおれ!」

巨大包丁を振り下ろす!だが!


ガキィン!!!!


「そ、そんな!」

赤鼻のトナカイ砂糖菓子モンスターは、レディの包丁を、ツノで受け止めたのだ!そして!


「ドナーッ!」

バキィン!!!!


巨大包丁が、折られた!


「きゃあ!」

その勢いで吹き飛ばされるレディ!再突撃されればもはや受ける武器は無い!


「下がれ!レディ!」

ソードが割って入る!だが、二膳の割り箸刀のうち、短い方はすでに折れる寸前だ。包丁を折ったツノのである。折れかけの割り箸で敵う相手ではない。


「フゥー……」

ソードは、折れかけの割り箸を納刀し、長い割り箸刀を両手で握る。


「ソードちゃん……」

「レディ、安心してくれ。今の私の役目は、あなたを守ることだ」

「でも、一膳で大丈夫なの?」


「……心配無用!」

ソードは、超手で持った割り箸を、自身の中央に構える。箸先はトナカイに。これは、剣道の構えの一つ、正眼の構えだ。

「さあ、来い!」


「ドナーッ!」

ソードの挑発に、トナカイが突撃!


加速するトナカイのツノは正面から喰らえばひとたまりもない。だが、ソードはこれを避けようとせず、ただ、タイミングを待った。


一膳一閃いちぜんいっせん……)

「ドナーッ!」

トナカイが眼前に迫った、その時!


割箸わりばし!」

掛け声とともにソードは右斜め前に大きく踏み込み、トナカイとすれ違いざまに、横一文字の鋭い斬撃を繰り出した!剣道の返し技の一つ、抜き胴だ!


「フゥー……」

振り返って残心するソードが見たものは、倒れているレディの目の前で硬直し、光の粒子となっていくトナカイだった。


「ぐっ!」

いきなりソードが膝をついた。

「ソードちゃん!」

レディが駆け寄る。


「素晴らしい一本だったわ」

「あ、ありがたき……」

立ち上がろうとして、そのままレディに倒れ込むソード。


「すまない……。私はそろそろ限界のようだ。もはや、動くことも……」

「……本当に、強い子ね」

レディはソードを抱き抱えると、人気のない建物の屋上へと飛び去った。


――――――――――


レディとソードがトナカイを倒したその頃、ヒップとリングは、ついにクリスマスケーキモンスターの頂上にたどり着いた。だが、そこには、最後の壁となる、恐るべきモンスターがいた!


「チョコー!」

チョコプレートモンスターだ!


「ヒップ!あいつに割り箸が刺さってるぞ!」

だが、割り箸は見えない。

「もしかして……」

「ああ、アイツの中に、埋まってるんだ」


「だったら、やるしかないね!」

ヒップはステッキを強く握り、走り出す!ケーキ最上段には薄切りのイチゴが敷き詰められてあり、クリームに沈む心配は無い!


「えーい!」

助走をつけて大ジャンプしたヒップは、そのままチョコプレートモンスターにステッキを叩きつけにいく!


「チョコーッ!」

チョコプレートモンスターは、これを軽々と腕でブロック!そのままヒップをケーキ頂上の外に放り投げる!


「きゃあーっ!」

「ヒップ!」

リングが輪ゴム投げ縄を投擲!かろうじてヒップの足に絡まり、バンジージャンプ状態で復帰した。


「だめだ。アイツ、とても硬い……」

ヒップは腕の痺れを感じていた。チョコプレートモンスターに全力でステッキを叩きつけたのに、全く効果がなかったのだ。


「なら、アレをやるしかねえな」

アレとは、二人の力を合わせた必殺技、セイントアローである。だが、この技を使うためには、多くの魔力を消費する。

「でも、リング、そんなことしたら……」


ヒップが躊躇するのも無理はない。クリスマスケーキモンスターを登りながら輪ゴムを大量に発射したリングの魔法少女服は、もはや衣服の形を保つのが限界だった。ここでセイントアローを使えってしまえば……。


「ヘッ!いまさらケツ丸出しなんて、構うもんかよ!」

「リング……」

「そんなことより、アイツの動きを止めねえと……!」


「チョコーッ!」

チョコプレートモンスターは二人に向かって突進!押し出すつもりだ!

「えーい!」

「よっと!」

ヒップは跳躍、リングはスライディングで避ける!


チョコプレートモンスターは急停止し、二人の方を向き直す。

「思ったより速い!」

「ああ、それに落とそうたって無理っぽいな」


(くそ!考えろ!なんか、なんか策があるはずだ!)

リングは全力で考える。なにか、なにか策がないのか!


(ちくしょう!クリームにはまらなけりゃ、もっと早く来れてたのに!)

「……はっ!その手があったか!ヒップ!」


ヒップはリングの顔を見る。その顔は、いつものひらめきの顔だ。

「なにか作戦があるんだね!」


「ああ!いつものやつ、頼むぞ!」

「わかった!」

ヒップとソードは左右に別れる!


「チョ、チョコ?チョコーッ!」

チョコプレートモンスターは少し迷って、ヒップの方に突撃!

「やあ!」

ヒップはとにかく逃げまくる!捕まってしまえば最後、下に落とされてしまう!


「チョコーッ!」

「えい!」

「チョコーッ!」

「やあ!」

「チョコーッ!」

「たあ!」

ヒップはとにかく時間を稼ぐ。ただ、リングのことを信じて!


そして、ついにその時がやってきた。

「おい!チョコプレート!そろそろこっちにかかってこいよ!」

リングの挑発!


「チョー!」

チョコプレートモンスターは、リングに向かって一直線!そして!

「コーッ!」

リングを掴んだ!


「チョココココ!」

チョコプレートモンスターは、笑ってリングを投げ飛ばそうとする。だが、その時だ!


「これでもくらいな!」

リングが二丁の輪ゴム鉄砲を発射!放たれた輪ゴムはチョコプレートモンスター……では無くその足元の薄切りイチゴに命中!


「チョ!?」

薄切りイチゴの下はクリームだ!そのままズブズブとチョコプレートモンスターの体が沈んでいく。

「やったぜ!あとは……」


「チョコーッ!」

チョコプレートモンスターがリングを投げ飛ばす!リングの体はケーキ下に真っ逆さまだ!

「最後は任せた!」


「リングーッ!」

ヒップの声に答えるリングの声はなかった。壁をよじ登ってくるリングの姿は、見えない。


「そ、そんな……リング……リングーッ!」

「呼んだか?」


「ってええ!?」

驚くヒップのすぐ後ろに、リングが立っていた!

「え!?ええ!?」


「これだよこれ」

そう言うと、リングは自分の足首を指差した。そこには、輪ゴム投げ縄が付いている。

「それって、もしかして……」


「ああ、あいつを油断させるために、わざと捕まって、投げられたんだよ。で、これでバンジージャンプして戻ってきたってわけさ」

「んもう!心配させないでよ!」

ヒップがリングをポコポコ叩く。


「イテテテ!こら、やめろって!」

「本当に心配したんだからあ!」

「……お前、泣いてんのか?」


「……そうだよ!泣くほど心配したんだよ!」

ヒップの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「あー、いや……」


「ふたりとも!モンスターがクリームから抜け出ちゃうプリ!早くやっつけるプリ!」

「チョコーッ!」

プリケッツの言葉の通り、今にもチョコプレートモンスターはクリームから抜け出しそうだった!


「あとで詫びはするからよ」

「……うん」

二人は気を取り直し、それぞれの武器を構える。


「行くぞ!」

リングが二丁の輪ゴム銃を合体させる!それは変形し、巨大なボウガンになった!

「これで終わりだ!」

ヒップはステッキを巨大ボウガンにセット!それは変形し、巨大な矢となった!


「ロックオン!」

リングが照準を固定!

「シュート!」

ヒップが発射トリガーを引く!

「「セイントアロー!!」」


二人の息のあった声で、聖なる矢が打ち出される!イエローの光を纏ったピンクの矢は、チョコプレートモンスターのど真ん中に命中!貫く!チョコプレートモンスターの背中から飛び出したピンクの矢は、プリケッツに変身。プリケッツの手には邪悪な割り箸が!


「セイントヒップ!折るプリーッ!」

そのまま邪悪な割り箸をヒップに投げる!


プリケッツが投げた割り箸を見事キャッチしたヒップは、ふんどしに割り箸を挟む。スパッツの上に、白いふんどしと割り箸が、聖なる十字を表した!……そして!

「えいっ!」


バキィ!


割り箸が割れた!

「チョ、チョ、チョ……」

チョコプレートモンスターが中から光りだす!そして!

「チョコーーーーーーーーー!!!!」


チョコプレートモンスターは爆発!キラキラした光の粒子となって空へと登っていった。


ゴゴゴゴ……。

「おい、これやばくねえか?」

クリスマスケーキモンスター全体が大きく揺れ、光の粒子となっていく。

「こ、この高さから落っこちたら死んじゃうよぉ!」


絶体絶命のピンチか?

「オーッホッホッホ!」

「その声は!」

ヒップとリングが頭上を見上げる。


「「レディ・パン!」」

そこには、巨大な空飛ぶまな板に乗ったレディの姿が!

「さあ、はやくこっちへ!」


ヒップとリングは、レディのまな板に乗り、そのまま神社の方へと戻っていった。


――――――――――


商店街を見下ろす神社。そこにいるのは、変身が解けた4人と、3匹のマスコットだ。


「これで、終わったんだね」

割下が商店街の方を見る。明かりが灯り、人々で賑わう、いつもの夜の商店街だ。

「うむ、これで終わったワル」


「それじゃあ、お別れ……なのかな?」

折部が、ハシパッキを見つめる。

「そうだハシ。オレとプリケッツは、ワルノワールを連れて、元の世界に帰るハシ」

「プリ。ワルノワールはこっちの世界に逃げてきた以外にも、色々悪いこと一杯やってるプリ。しっかりオシオキされてもらうプリ」

プリケッツも帰る気満々だ。


「そうなの?ワルノワールちゃん?」

渡鍋が問う。

「うーむ……。オレ様、悪いことしようと思ってしたわけじゃないワルが、実は結構悪いことしちゃってるワル……」

「それじゃあ、本当にお別れなのね……残念だわ」

渡辺は、名残惜しそうにワルノワールをムニムニする。


「割下、佐々木、今までいっぱいお世話になったプリ。ごはんも美味しかったプリ。これからも、二人仲良くするプリよ?」

「ヘッ!お前に言われなくったって、俺達は親友さ!」

佐々木は割り下の肩を掴んで引き寄せる。


「私だって、友達なんだもんね!」

折部も、割下のそばに寄る。

「佐々木くん……折部さん……」


「……みんな、ありがとう。プリケッツたちも、ありがとう。その、最後だから言うんだけど、セイントヒップになるの、ちょっと楽しかったんだ」

「ケツ割り箸がプリ?」

「ち、違うよ!もう!」


「僕、折部さんみたいに運動できなくて、でも、セイントヒップになると、いっぱいジャンプしたりできて、すごく楽しかったんだ」

「でも、恥ずかしかったりもしただろ?」

「それはもちろん、そうだけど。でも、それでも、楽しかったんだ」


割下の言葉に、佐々木も話し始めた。

「まあ、俺も、楽しかったかって言われれば、楽しかったかもしれないな。それに、セイントソードの折部も、かっこよかったぜ?」

「うん、僕も、セイントソードはすごくかっこよかったと思う」


「フフフ、そう言ってもらえると、ちょっと嬉しいかな。二人のために頑張ったかいがあったってもんですよ」

「……だが、これからは、あまり無茶はするなハシ?」

「わかってるよハシパッキ。私のワガママ聞いてくれて、ありがとうね」



いつの間にか、雪が、降り始めていた。


「そろそろ行くプリ!みんな!さよならプリー!」

プリケッツを戦闘に、3匹のマスコットが、天高く登っていき、光となった。4人はそれを見届けると、それぞれの日常に戻っていった。


――――――――――


数日後、大晦日。


「うーん!やっぱり年越しはソバに限るプリ!」

割下の部屋では、いるのが当たり前のように、プリケッツがソバを食べていた。


「いきなり戻ってきてびっくりしたんだよ」

割下は、そばを食べるプリケッツに話しかける。


「二度とこっちに戻れないとは一言も行ってないプリ。こっちの世界の食べ物は美味しいプリから、たまには遊びに来るプリ」

「そうだけど、フフ、まあ、いいや」

割下はニッコリと笑い、出かける準備をした。


「こんな夜遅くに、どこか行くプリ?」

「うん。神社で除夜の鐘つきがあるんだ。佐々木くんと折部さんも行くって言ってたから、僕も行こうかなって」


「プリ!面白そうだプリ!オイラも行くプリ!」

プリケッツは言うが早いか、一気に残りのソバを食べきった。


「うん。それじゃあ、行こうか!佐々木くん、きっとびっくりするよ」

「プリィ!」



――――――――――


ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ

最終話:最終決戦!聖夜に響くケツ割り箸!(後編)

おわり

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ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ デバスズメ @debasuzume

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