第13話:最終決戦!聖夜に響くケツ割り箸!(前編)
(これまでのあらすじ:中学一年生になったばっかりの
(ピンチの時に助けに駆けつけてくれるセイントソードのおかげもあり。ヒップとリングはずっと負け知らずだった。だが、11月のおわりに、ついに敗北してしまう。しかも、セイントソードはダークソードと名前を変え、レディ・パンの仲間になっていたのだ!)
(……あれから約1ヶ月、クッキングモンスターは全く姿を表さなかった。毎週のようにヒップとリングに変身していた戦いの日々から離れ、平和な日常を送っていた)
――――――――――
「今年ももうすぐ終わりかあ。今年も色々あったよね」
「ああ、まさか俺たちが悪と戦うヒーローになるなんて思っても見なかったけどな」
割下と佐々木は、いつものように佐々木の部屋でだべっていた。
「あー、うん……」
前回の敗北のことを思い出し、割下の表情が曇る。
「ああ!いや!ほら!あん時はソードがいきなり寝返りやがったからだろ!俺たちのせいじゃないんだからそんなに落ち込むなって!」
「そうなんだけど、さ。ソードの言葉がちょっと気になってるんだよね」
「言葉って?」
「うん、『これが最後の戦いだ』みたいなこと言ってたんだよね」
実際に、その戦い以降、毎週のように現れていたクッキングモンスターの出現はピタリと止み、二人は一度も変身していない。
「プリー、オイラも気になっていたプリ」
ピンク色のぬいぐるみみたいなマスコット、プリケッツが呟き、ポテトチップスをバリバリ食べていた手を止める。
「どういうこと?」
「クッキングモンスターを作っていたワルノワールの目的が、まだ分からないんだプリ。あいつは、オイラたちの世界でも指折りの悪い科学者だプリ。まだなにか悪いことを企んでるに違いないプリ」
「だったらよお、こっちからワルノワールを捕まえに行けばいいんじゃねーか?」
「それができれば苦労はしないプリ!あいつは逃げ隠れの天才プリ!次に会ったときこそ捕まえてやるプリ!」
プリケッツがプリプリする。
「でも、それがいつになるか、分からいんでしょ?」
「プ、プリィ……」
割下のもっともな言葉に、プリケッツのプリプリがしょんぼりに変わった。割下も相変わらず浮かない表情のままだ。
「ま、だったら考えてもしかたねーだろ。次に奴らが現れた時こそ、絶対に勝つ!それだけさ!」
佐々木はこういうときの切り替えが早い。
「うん、そうだね」
「プリ!ここ最近変身してないから、魔力も十分溜まってるプリ。この前みたいなことにはしないプリよ!」
「……あ!」
割下が突然何かを思い出して立ち上がる。
「ん?どうした?」
「明日って24日だよね?」
「そりゃそうだけど」
「たいへんだ!クリスマス会の準備しなきゃ!」
「おいおい!プレゼント忘れてたのかよ!」
明日は12月24日のクリスマスイブ。二人は、他のクラスの友だちと一緒に、
((折部さんは女の子で、割下くんは彼女のことが好きなんだ。だけど、その思いは伝えられていないんだよ))
「ううん、プレゼントはもう買ってあるんだけど、クリスマスカードが……ああ!とにかく、今日はもう帰るね!」
割下は慌てて佐々木の家を飛び出していった。
「ほーう。クリスマスカードねえ」
佐々木はニヤニヤしながら、割下を見送った。
――――――――――
そして翌日のお昼、折部の家にて。
「「「「「メリークリスマス!」」」」」
パン!パパン!
一斉にクラッカーの音が鳴り響き、クリスマス会が幕を開けた。折部の家は広く、10人くらいの子どもたちが集まっている。
みんなでわいわいとお菓子を食べたりお話をしたりしていると、折部さんが割下と佐々木に話しかけてきた。
「ふたりとも、今日は来てくれてありがとうね」
「こ、こちらこそ、お、お招きいただき……」
「あはは!そんなに真面目にならなくってもいいんだよ?」
「そうだぞ割下。ジュースでも飲めよ」
佐々木も割下を柔らかくしようとし、ジュースの注がれた紙コップを渡す。
「うん、ありがとう」
両手でコップを受け取った割下は、ジュースを一口飲んで落ち着いた。
そんな二人を見て、折部は安堵したように笑う。
「プレゼント交換の時間まではゲームとかあるから、楽しんでね」
「うん、ありがとう」
折部は女子の友達の方へと戻っていった。
……それから暫くの間、みんなはお菓子を食べたりゲームをしたりして、楽しんだ。そして夕方。
「それじゃあ最後にプレゼント交換だよ!みんな集まって輪になって!」
折部の声に子どもたちが集まって一つの大きな輪になった。
「「「「「ク~リス~マ~ス~♪プ~レゼ~ン~ト~♪わ~たしがサンタで♪あなたもサンタ~♪」」」」」
子どもたちは歌いながら、それぞれ手に持つプレゼントを右から左へと流していく。歌が終わった時に、手に持っていたものが貰えるシステムだ。
「「「「「ク~リス~マ~ス~♪プ~レゼ~ン~ト~♪み~んなでこうかん♪で~きました!」」」」」
歌が終わって、プレゼントを回す手が止まる。
(あ!折部さんの!)
割下の手に渡ってきたのは、幸運にも折部のプレゼントだった。
割下はドキドキしながら袋を開けると、中にはピンク色のマスコットみたいなぬいぐるみのキーホルダーが入っていた。
(なんだかこれ、プリケッツに似てるかも……)
そんなことを割下が考えていると、会はお開きとなって、みんながそれぞれ帰りの支度をし始めていた。割下も準備をするが、帰る前に、やらなければいけないことがあった。
「お、折部さん!」
割下は勇気を持って折部に近づいた。
「ん?どうしたの割下くん?あ、もしかして、私のプレゼント、気に入ってもらえなかった……?」
「いやいやいやいや!そうじゃないよ!嬉しかったっていうか、ああ!いや、そうじゃなくって……」
割下は上着のポケットからクリスマスカードを取り出し、折部に差し出した。
「これ、よかったら、受け取ってほしいんだ」
「ふふ、ありがとう。割下くん」
折部はクリスマスカードを受け取って、開く。中身は、手作りの飛び出す仕掛け付きだ。
「うわ!すごい!これ割下くんが作ったの!?」
「う、うん……」
割下は自信がなさそうに返事をする。
「すごいよ!ありがとう!大切にするね!」
折部はクリスマスカードを両手でしっかりと握って、笑顔で言った。
「ど、どういたしまして。えへへ……」
折部の笑顔を見て、割下も笑った。
――――――――――
……みんなが帰った後、折部は家を出て、神社の裏手にやってきていた。こんな時間に、ここに来る人はめったにいない。だからこそ、待ち合わせの場所となったのだ。
「約束の時間どおりね」
折部を待っていたのは、ダークセクシーエプロン魔女服に身を包む、レディ・パン。
「これで、最後なんですよね?」
「ええ、今夜の作戦が成功すれば、もう私たちはモンスターを呼び出すことはないわ」
「ワルワル……。その通りワル。ついに今夜、ようやく時が来たのでワル」
黒いぬいぐるみみたいなマスコット、邪悪な目をしたワルノワールが、折部に漆黒の割り箸を渡す。
「キサマの協力でようやくこの割り箸が完成したワル。邪悪な魔力がこもった割り箸を割って、この地に眠る大悪霊を目覚めさせ、オレ様が捕獲するワル。それが終われば、もうセイントヒップたちとの戦いも終わるワル」
「その割り箸を、私が割ればいいのね?」
折部が受け取った割り箸は、前回のものよりも更に禍々しい魔力に満ちていた。
「おい、本当に大丈夫なんだろうハシな?」
青いぬいぐるみみたいなマスコット、鋭い目つきのハシパッキが問う。
ハシパッキは、折部にセイントソードとなる魔力を与えた張本人だ。「割下と佐々木を助けたい」という折部の気持ちを汲んで魔力を与えていたが、それは同時に折部への大きな負担となっていた。だからこそ、もうこれ以上、折部には無理をしてほしくないのだ。
「安心するワル。オレ様の計算が正しければ、すぐに終わるワル」
「……その言葉、信用してやるハシ」
「私なら大丈夫だよ、ハシパッキ。それに、ここまで来たら、もう引き下がれないもん」
不安そうなハシパッキに、笑顔で言葉を返す折部。だが、その笑顔は、すぐに険しい表情へと変わる。
「ふぅー……。それじゃあ、いくよ」
大きく深呼吸をして、折部が、邪悪な漆黒の割り箸を、割った。
パキン。
――――――――――
「プリプリ!悪霊の気配だプリ!」
割下の部屋で、プリケッツが叫ぶ!
「え!?本当に!?」
「本当だプリ!久しぶりに来たプリ!」
「佐々木くんにも知らせなきゃ!」
割下はスマートフォンを握りしめ、家を飛び出した!
「もしもし、佐々木くん!?」
「やっぱり悪霊が出たのか!?」
佐々木の手元では、イエローの箸入れがカタカタと震え、ダイヤモンドカットのクリスタルが淡い光を放っていた。悪霊が現れたことを知らせる合図だ。
「うん!えっと、場所は……」
「あっちの方だプリ!」
プリケッツが森の方を指差す。神社がある森だ。
「神社だって!」
「オーケー分かった!すぐに行く!」
「うん!僕も急ぐよ!」
電話を切った割下は、自転車に乗って全速力でペダルを漕いだ!
――――――――――
……数分後、神社に登る石段のもとに、割下と佐々木は集合していた。
「この上から、とんでもない悪霊の気配がするプリ……」
階段の上、鳥居の向こうからは、今にも恐るべき魔力が溢れそうな雰囲気だ。だが……。
「モンスターの声がしないぞ?」
佐々木は耳を澄ますが、いつもの身妙な鳴き声は聞こえない。
「うん、それに、誰もいないみたいな……」
割下も疑問に思った。おつもなら、人が多い場所に現れるクッキングモンスターだが、今回は、逃げ惑う人々の声も聞こえないのだ。それどころか、まるで、誰も居ないような……。
「とにかく、行くしか無いプリ」
「ああ、そうだな」
「うん、そうだね」
二人は周囲にだれもいないことを確認して、割下はピンクの箸箱から、佐々木はイエローの箸箱から、それぞれ割り箸を取り出し割った。
パキン。
『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』
変身BGMが鳴り響く!割下と佐々木の体が宙に浮いて体が光に包まれ、変身バンクだ!
割下の全身が光のシルエットになり、ズボンがはじけ飛ぶ!そして代わりに黒いスパッツが装着される!
佐々木も全身が光のシルエットになり、スニーカーががはじけ飛ぶ!そして代わりに装着されるのはカウボーイブーツ!
割下のセーターとシャツがはじけ飛び、フリフリの淡いピンク色ドレスみたいな服が装着される!レースの手袋にニーソックス。ちょっとだけヒールが高い靴。髪の毛はリボンで結ばれる。メガネも魔法で形が変わる。
佐々木のズボンとシャツがはじけ飛び、ショートパンツ、胸下で縛られたへそ出しTシャツ、そして茶色いカウガールジャケットが装着される!腰には二丁のガンベルト。手にはレザーのグローブ。首元にはスカーフ。頭にはテンガロンハット。
そして最後に、割下には黒いスパッツの上から白いフンドシが、佐々木には蛍光イエローのバイザーサングラスが装着される!
『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』
BGM終了!割下はセイントヒップに、佐々木はセイントリングに、それぞれ変身完了!
「行こう!」
――――――――――
石段を登りきったヒップとリングは、足元に誰かが倒れているのを見つけた。
「う、うう……」
「お前は、レディ・パン!」
リングに声をかけられ、レディ・パンはどうにか立ち上がる。だが、武器を構える素振りは見せない。
「おい、どうした?何があったんだよ!?」
「し、失敗しちゃったのよ……。ワルノワールちゃんも、取り込まれ、うう……」
レディ・パンが境内の奥を指差す。そこには、闇に飲み込まれた人影がひとつ、空を見上げながらじっと佇んでいた。
「あれって、もしかして、ソード?」
ヒップは恐る恐る問う。
「ええ、そうよ」
「そんな……」
闇に飲み込まれた人影、セイントソードは、もはや完全に闇に飲み込まれていた。ブルーを貴重とした魔法少女服は完全に黒く染まり、両手に携えた大小二膳のカタナと見まごう巨大割り箸も、二膳とも黒く染まっている。
前回、セイントソードがダークソードとなった時、黒く染まった箸は一膳のみで、服も完全に黒くはなっていなかった。だが、今、セイントヒップたちの眼の前にいるのは、完全に闇に染まったダークソードだ。
「どういうことだこのやろう!説明しやがれ!」
リングがレディ・パンに問いただす。
「ワルノワールちゃんの計画では、あの子が悪霊を呼び出して、それを捕獲するはずだったのよ。この前の戦いでようやく出来上がった割り箸でね。でも、逆にワルノワールちゃんが取り込まれちゃったの」
「なんだと!?よくもソードを巻き込みやがって!」
「違うわ。ソードが私たちに協力したのは、あの子の意思よ」
「なんだと?」
「あの子は、あなた達の正体を知っているわ。それで、あなた達がもう戦わなくっていいように、私達の計画を手伝うって言ったのよ」
「もしかして、最近モンスターが出なかったのって……」
ヒップは、まさかと思ったことを考える。ソードは、自分たちのために、あえて敵になったのではないかと。
「ええ、そのとおりよ。前回の戦いで十分な魔力を手に入れた私たちは、もうモンスターを呼び出す必要はなくなったわ。だから、あなた達が戦う必要もなかったってわけ。それで、今日が最後の計画実行になるはずだったのよ」
「じゃあ、ソードは……」
「ええ、全部、あなた達のことを思っての行動よ」
レディ・パンの言葉に、ヒップは困惑する。
「そんな言い訳、誰が信じるか!行くぞ、ヒップ。とにかくソードを助けるんだ」
「ま、待って!」
飛び出そうとしたリングを、レディ・パンが引き止める。
「なんだよ?まだなんか言い訳でもあるのか?」
「そうじゃないわ。……お願い、ワルノワールちゃんのことも助けてあげて」
レディ・パンは、ヒップとリングに懇願した。
「はあ?なんでそんなこと俺たちが」
「そうだプリ!きっちりやっつけて懲らしめてやるプリ!」
リングとプリケッツは反対する。だが……。
「ねえ、リング。助けてあげようよ」
ヒップは、その願いを、聞き入れようというのだ。
「おい、マジかよ。なんであんな奴のことを」
「えっとさ、僕たちだって、プリケッツがいなくなったら、悲しいじゃない。……それに、悪いのは悪霊なんだし、えっと、そりゃあ、ワルノワールも悪いかもだけど、えっと……」
ヒップは、レディ・パンの方を見て、言葉を続けた。
「……困ってる人は、見捨てられないよ」
「セイントヒップちゃん……」
レディ・パンは、思わず泣きそうになる。
「な、なんだか、レディ・パンさんに名前で呼ばれるのって、不思議な感じだなあ。ハハ……」
ヒップの顔から笑みが溢れる。そこには、もう困惑の色はない。やるべきことを、見つけたのだ。
「……っしっかたねえな!ピップがそう言うんなら、俺だってやってやる。待ってろよレディ・パン、ワルノワールもきっちり助けてやるからよ」
リングも笑ってヒップに答える。
「……とは言ったものの、どうすりゃいいんだ?」
「決まってるプリ!いつもみたいに割り箸を折るプリ!」
プリケッツの言葉を聞いて、リングがサイバーゴーグル越しにダークソードを見つめる。
サイバーゴーグル越しに映し出されるWEAKの文字が二箇所。それぞれが、漆黒の大小二膳割り箸を示している。
「二膳とも折らなきゃいけないってことか……。よし、ヒップ、作戦だ。とにかくソードのスキを作ってくれ。俺が割り箸を奪う」
リングの言葉に、ヒップが頷く。
「わかった。行くよ!」
「ああ、頼んだ!」
ヒップは、プリケッツが変身した割り箸型魔法少女ステッキを構え、ソードに向かって走り出す!
「えーい!」
元気な掛け声とともに大ぶりの攻撃を仕掛けるヒップ!
「ゼァア!」
虚ろに空を見ていたソードが、超人的な速度で反応し、二膳の割り箸を交差させてガードする!その声はまるで獣だ!
「ソード!しっかりして!」
「グガァ!」
もはや咆哮と言わんばかりの声を上げ、ソードは交差させた割り箸を切り払い、ヒップを吹き飛ばす!
「ったあ!」
ヒップはバク転で勢いを殺しながら着地し、ステッキを構え直す。
「プリケッツ、どうしよう。ソード、大丈夫なの?」
「分からないプリ……とにかく、割り箸をナントカ奪うプリ!」
「ガァ!」
ソードは二膳の割り箸を大上段に構えて大きく跳躍!そのままヒップに飛びかかる!
「やあ!」
ヒップはこれを前転で回避!そのままソードの背後に回り込む!
「ガァ!」
着地したソードは、側鎖に振り向きざまの横薙ぎを繰り出すが、これをヒップがガード!その時だ!
「グ?」
ソードの持つ短い割り箸に、輪ゴムの投げ縄が絡みついた!リングが全力でこれを引っ張る!
「うおおおお!」
輪ゴムは伸びるどころか、その伸縮性を利用して一気に縮まり、割り箸を引っ張る!
「ガァア!」
ソードも片手で抵抗するが、地に足をつけて踏ん張るリングにはかなわない!割り箸がソードの手を離れ、リングの引き寄せられた!
よろめくソードを見て、リングが走り出す!
「ヒップ!交代だ!」
「うん!」
ヒップもソードから離れ、リングから黒い割り箸を受け取りながらすれ違う!
「ガァァ!!」
ソードは割り箸を取りもどそうと体制を立て直す。だが、二丁の輪ゴム拳銃を構えたリングがそれを食い止めた。
「今度は俺の相手をしてもらうぞ!」
一方ヒップは、漆黒の割り箸をフンドシに挟み、力を込める!
「んん~~~!!!」
だが、簡単には折れない。
「もっと力を込めるプリ!」
「こ、これでも精一杯やってるよぉ……」
「オイラも魔力でサポートするプリ。いいプリ?力を抜いて、オイラの合図で一気にケツに力を込めるプリ!」
「うん。ふぅー……」
ヒップは息を大きく吐き、ケツに全神経を集中させる。そして……。
「せーの、プリィ!」
「えいっ!」
バキィ!
割り箸が割れた!
「やった!」
「安心するのはまだ早いプリ!」
喜ぶヒップにプリケッツが声をかける。然り、まだもう一本、しかも、大きな割り箸のほうが残っているのだ。
「プリケッツの言うとおりだハシ」
「その声はハシパッキでプリ!?」
ヒップの聖ケツに折られた黒い割り箸は浄化され、青いぬいぐるみみたいなマスコット、目付きが鋭いハシパッキへと戻っていた。
「ああ、オレだハシ。それより、ソードがマズイことになるハシ」
ハシパッキの言葉に、ヒップはソードを見据える。どうにかリングが戦って押さえ込んでいるが、様子がおかしい。
「グ、グガアアアアア!!」
突如、よりいっそう巨大な咆哮を上げ、ソード覆う闇が膨れ上がり、リングを弾き飛ばした!
「ぐわあ!」
リングはヒップのそばまで吹き飛ばされるも、華麗に着地を決める。
「リング!」
「すまねえヒップ。突然強くなりやがって……」
「オレとワルノワールが押さえ込んでいた悪霊が、完全にソードを乗っ取ろうとしているハシ」
「なんだって!?それじゃあ、もうだめってことなのかよ!?」
リングとハシパッキは諦めかけていた。もはや、ソードを救うことはできないのだと。
しかし、ヒップは諦めていなかった。
「いや、まだだよ!」
その目は、光輝き、ソードをしかと捕らえていた。
「だが、どうやってもう一膳の割り箸を奪うというのでハシ?」
「セイントアローを使うんだ」
「ただ撃ったところで弾き返されちまうぞ?」
ソードは地に足をつけ、暴れようとする体を必死に抗っているようにも見える。だが、その状態でも、セイントアローは弾かれてしまうだろう。
「……ソードに呼びかけよう」
「呼びかける?」
ヒップの言葉に、リングが聞き返す。今までもヒップは何度もソードに呼びかけてきた。だが、その声は届かなかった。
「うん。ソードの、本当の名前を」
その言葉に、リングは驚きを隠せない。
「おい!まさかヒップ!ソードの正体を知ってるのか?」
「うん。たぶん、だけど……」
「誰なんだよそいつは?」
リングは問うが、その問はハシパッキの言葉に遮られた!
「急ぐハシ!もうワルノワールも限界だハシ」
ソードは今にもヒップ達に向かって行こうとばかりに、大きく地面を踏みしめる!
「ええい!こうなったらヒップを信じるぞ!」
「うん!ありがとう!」
「行くぜ!」
リングが二丁の輪ゴム銃を合体させる!それは変形し、巨大なボウガンになった!
「お願い!届いて!」
ヒップはステッキを巨大ボウガンにセット!それは変形し、巨大な矢となった!
ヒップは、いや、割下は、ソードの心に呼びかける!
「折部さん!!」
「……!」
ソードの動きが止まった!
「今だ!ロックオン!」
リングが照準を固定!
「シュート!」
ヒップが発射トリガーを引く!
「「セイントアロー!!」」
二人の息のあった声で、聖なる矢が打ち出される!イエローの光を纏ったピンクの矢は、ソードの構える漆黒の割り箸に命中!ピンクの矢は、プリケッツに変身し、そのまま漆黒の割り箸を奪う!
「セイントヒップ!折るプリーッ!」
プリケッツが邪悪な割り箸をヒップに投げた!
プリケッツが投げた割り箸を見事キャッチしたヒップは、ふんどしに割り箸を挟む。だが、先程のよりも大きな割り箸だ。果たして、折れるのか!?
「ふぅー……」
脱力……そして、ケツに一気に力を込める!
「えいっ!」
バキィ!
割り箸が割れた!
「ワルーッ!」
折れた割り箸はワルノワールの姿に戻った!同時に、ソードの変身も解け、崩れ落ちるように倒れる。
「折部さん!」
ヒップは全速力で駆けつけてしゃがみ込み、倒れる折部を支えた。
「……割下、くん?」
「うん、そうだよ。僕だよ」
ヒップは、まだ変身が解けていないにも関わらず、自らの正体を明かした。
「また、私、割下くんに守られちゃった。ダメだなあ、ハハハ……」
「そんな!ダメじゃないよ!僕とリングはみんなを守るヒーローなんだから」
「でも、それなら、誰が割下くんたちを守ってくれるの?」
「え……?」
折部の言葉に、割下は固まってしまった。
「私、ずっと知ってたんだ。割下くんと佐々木くんが、セイントヒップとセイントリングだってこと。二人の変身が解ける所、偶然見ちゃったんだ。それで、二人がいつも大変な目にあって戦ってるから、私が、二人を守らなちゃって思って……それで、ハシパッキにお願いしたの」
「おい、本当か?」
リングがハシパッキに問う。
「ああ、本当だハシ。割下は、お前たちを助けたい一心で、セイントソードになったハシ」
「そろそろ変身が解けるプリ」
プリケッツの声に、折部は自分の足で立ち上がる。セイントヒップは割下に、セイントソードは佐々木に戻った。
「でも、なんで私がセイントソードだってわかったの?」
「えっと、それは、これ」
割下はスマートフォンを取り出す。それには、ピンク色のマスコットみたいなぬいぐるみのキーホルダーがついていた。折部から貰ったクリスマスプレゼントだ。
「ほら、夏祭りの時、ハシパッキみたいなぬいぐるみがあったでしょ。それで、思ったんだ。セイントヒップに変身してる時は、プリケッツはステッキになってるから、姿を知らないはずなんだ。でも、折部さんは、それを知ってたから、いろいろな色から、ピンク色のこれを選んだんじゃないのかなって、思ったんだ」
「……割下くんは、やっぱりすごいや。なんでもお見通しなんだね。フフフ」
折部の笑顔に、割下は我に返ってハッとした。
「あ、いや。そ、そんなことないよ!エヘヘ……」
「……あー、いい感じの所わりいんだけどお二人さん。あれ、ヤバイんじゃないのか?」
佐々木の呼びかけに、二人は町の方を見る。
「え、あれって……」
「もしかして……」
割下たちの目に入ったのは、邪悪な黒いオーラに包まれる商店街だ。
「どうやら、大悪霊が暴走してるみたいだワル」
「ええ、そのようね」
割下は、聞き慣れた声に振り返る。
「ワルノワール!?それと……え!もしかして、あなたは!」
そこにいたのはワルノワールと、変身が解けたレディ・パン、
「えー!?レディ・パンってあの有名な渡鍋先生だったのかよ!?」
ヒップとリングが驚くのも無理はない。渡鍋は、若くして料理研究家として名を馳せており、テレビにも出演している有名人だ。まさか、そんな人が、レディ・パンの正体だったなんて。
「ええ。まあ、もう隠す必要はないわね。それより、ワルノワールちゃん、あれ、どうにかできないの?」
「ワール……」
ワルノワールはしばし考え、言った。
「俺様たち全員が協力すれば、何とかできるかもしれないワル」
「プリィ!?なんでワルノワールなんかと協力しなきゃいけないプリ!?」
「全くだハシ。そもそも、この大混乱こそが、お前が本当に求めていたもので、オレを騙していたんじゃないハシか?」
黒いマスコットを、ピンクのマスコットとブルーのマスコットが睨む。
「断じて違うワル!オレ様の目的は、あの大悪霊のパワーを手に入れ、オレ様の研究所に持ち帰ることだったワル!」
「あんなものを持ち帰るつもりだったプリ!?それこそオイラたちの世界が大混乱になるプリ!」
「完全に計算違いだったワル!オレ様だって、オレ様たちの世界も、渡鍋の世界も、どっちも壊したくないワル!オレ様がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったはずなのでワル……」
ひとしきり落ち込んだワルノワールは、気持ちを切り替え、呼びかけた。
「そして、オレ様の手には終えないワル。だから、みんなの力が必要ワル」
「……つまり、セイントヒップのケツ割り箸でやっつけるということハシな?」
「その通りでワル」
ワルノワールは渡鍋の方を見る。
「キサマに最後の料理を頼みたいワル。あの大悪霊を封じ込める料理と、作ってくれるワルか?」
「もちろんよ。私を誰だと思ってるの?ワルノワールちゃん。テレビに出るくらい有名な料理研究家よ」
渡鍋はぐっと力こぶを作ってみせる。
「二人は大丈夫プリ?」
「もちろん!」
「ああ、任せろ!」
プリケッツの問に、割下と佐々木は元気良く答える。
「待って!私も一緒に戦う!」
折部も声を上げる。
「……できるハシか?」
「私なら大丈夫。それに、二人を守るのが、私の役目だから……」
「おいおいおいおい!ちょっと待てよ!」
折部の言葉に、佐々木が割り込んだ。
「さっきから聞いてりゃ、俺と割下が頼りねえみたいな言い方じゃねーか。そんなに信用されてないんじゃ、守ってもらうわけにはいかねえよな?」
「え……?」
困惑する折部。
「そうだよ。だから、折部さん……」
割下も、佐々木に続く。
「……僕たちと、一緒に戦ってほしいんだ。守ってもらうんじゃなくて、みんなで一緒に。折部さんが僕たちを守ってくれるのと同じくらい、僕たちも、折部さんを守りたいんだ」
割下は、折部に握手を求めた。
「ああ、そういうことだ」
佐々木も、折部に握手を求める。
「……ごめんね。ありがとう」
折部は二人それぞれの手を強く握り返した。
「よーし!それじゃあ張り切って行くプリ!」
「うん!」
「やってやるぜ!」
プリケッツの号令に、割下と佐々木が答える。その目は、決意が宿っている。
「無理はするなハシ」
「大丈夫だよ。二人に正体をバラしたら、なんだかスッキリしちゃった。だから、安心して」
ハシパッキの心配する声に、折部が答える。その表情は、明るい。
「渡鍋、キサマに色々と迷惑をかけたワル。でも、これが最後ワル。許してほしいワル」
「大丈夫よ。ワルノワールちゃん。悪者もちょっぴり楽しかったのよ。それに、私の責任でもあるわ。腕によりをかけなくっちゃ」
ワルノワールの謝る言葉に、渡辺が答える。その顔は、責任感に満ちている。
――――――――――
ついに解き放たれてしまった大悪霊。はたして、4人と3匹は、成仏させることができるのか!?
ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ
第13話:最終決戦!聖夜に響くケツ割り箸!(前編)
おわり
次回、『最終回:最終決戦!聖夜に響くケツ割り箸!(後編)』へ続く。
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