第12話:黒き戦士!ダークソード!

「ぎえっくしょい!」

佐々木ささきが大きくクシャミをする。

「大丈夫?佐々木くん?」

心配するのは親友の割下わりしただ。


「いやー、今日は寒いな!」

「そりゃそうだよ。もうすぐ12月だよ」

下校時に学ランの前を開けて堂々と歩く佐々木だが、割下はコートを着ている。季節は11月の終わり。もう冬だ。


「おいおい、冬はまだまだこれからだぞ?今からそんな厚着してどうするんだよ?」

「もっと寒くなったらカイロとかあるじゃん」

「カイロすぐ冷たくなるじゃん」

「そうだけどさー」


「おーい!」

そんなこんなでダラダラと話しながら歩く二人に、後ろから声をかける姿があった。二人のクラスメイトの女子、折部おりべだ。

「どうしたの?折部さん?」


「えっと、二人にちょっと相談があってね。ちょっと時間いいかな……」

いつもの強気な折部とちょっと違う雰囲気を、割下は少し不思議に思った。なんというか、いつもより弱そうというか……。

「えーっと、僕たちでよければ」


ここで、佐々木が閃いた。

「あ!忘れ物しちまった!悪いけど先行っててくれ!」

「え、あ、ちょっと!」

佐々木を止めようとした割下だが、一目散に学校の方に戻ってしまった。


「……えーっと、その」

「いいよ。割下くんだけでも相談に乗ってくれたら嬉しいから。歩きながら話そう」

そう言うと折部は、いつものペースで歩き出した。割下も、それに続く。


(割下、ガンバレよ!)

歩き出す二人を、佐々木は曲がり角のカゲからこっそり見ていた。


((折部さんは女の子で、割下くんは彼女のことが好きなんだ。だけど、その思いは伝えられていないんだよ。佐々木くんは割下くんの背中を押してあげたんだね))


――――――――――


二人は話しながら、河川敷の方向に向かってゆっくりと歩いていった。だが、その話の内容は、他愛もないものだった。割下は、折部の相談がなんなのか分からないまま、ただ話をしていた。


そうこうしているうちに、二人は河川敷についた。土手に腰を下ろす折部。割下も、横に座る。

「……それで、相談のことなんだけど」

「うん」


折部は間を置いて、話しだした。

「あのさ、今、私の友達がすごく困ってるんだけど、私しか助けられないっていう感じで……。でも、私が助けたら、友達が傷ついちゃうかもしれないっていうか、さ」

川を眺める折部の目は、真剣だが、寂しそうでもある。


「助けて傷つくって、どういうこと?」

「えーっと、それは、友達を裏切るっていうか。ほら、友達は『自分は助けなんかなくってもやれるぞ!』って思ってるんだけど、だから私が助けちゃうとなんかダメなんじゃないかって思っちゃって」

「うーん。難しいね……」


「ねえ。もし、割下くんの友達が困っていて、それを助けられるのは割下くんしかいなかったとしたら、どうする?その友達に嫌われるかもしれなくっても、助ける?」

「うーん……」

折部の問に、割下は考えた。

(もし、佐々木くんが困っていて、嫌われるかもしれないってなったら……)


(でも……)

「でも、僕なら助けちゃうかな」

割下は折部の方を見て答える。

「嫌われちゃうかもしれないんだよ?」

折部も、割下の方を見て問い返す。


「僕だって、佐々木くんに嫌われるのは嫌だけど、でも……、助けられなくって、ずっと佐々木くんが困ってるほうが、もっと嫌だなって。えへへ、変かな?」

割下は、笑って答えた。


「割下くんは、強いんだね。私は、嫌われるのが怖いってなっちゃう」

「そんなことないよ!僕だって怖いもん。折部さんの方が強いし……」

折部は剣道部で運動神経抜群だ。それに比べて、割下は運動があまり得意ではない。だから、折部に憧れている所もあるし、折部が強く見える。


「……そーいう強さじゃなくって、うーんと、心が強いっていうの?割下くんって、がんばりやさんだし、やるって決めたら絶対にやっちゃうところがあるていうかさ。私は、どうしようかなって」

「え、もしかして、部活やめちゃうの?」


「ううん!違う違う、それとは別のこと。ただ、友達を助けるために、今続けてることをやめるっていうのは、あるけど」

折部は再び川を見つめた。


沈黙する二人。……割下は折部を助けたい一心で、言葉を発した。

「えーっと、迷ったら、後悔しない方を選んだほうがいいと思うな」

「後悔しない方、か……」


「よし」

折部は立ち上がった。

「ありがとう、割下くん。私、やってみるよ」

お礼を言う折部の顔には、決意が満ちていた。

「それじゃあね!」

「あ、うん……」

一足先に家路についた折部を見送ったところで、ちょうど佐々木がやってきた。


「で、どうだったんだよ割下?」

ニヤニヤする佐々木。

「ど、どうって言われても別に」

「なんだよ。ま、いいや。明日もあるしな」

明日の土曜日は、山の広場で落ち葉掃除があるのだ。参加者は焼き芋がもらえるので、ソレが目当てで参加する子供も多い。


「そんなこと言っても、折部さん、来るのかなあ」

「多分来るだろ。ま、来なかったら二人で芋でも食おうぜ」

「うん。そうだね。それじゃあまた明日」

「おう!また明日な!」

夕日が沈みかけた河川敷を後に、二人はそれぞれの家へと帰った。


――――――――――


翌日、山の広場。

町を一望できる広場には、地面を埋め尽くすほどの落ち葉があり、十人くらいの子どもたちが、数人の大人たちの指揮で、箒や熊手を手に落ち葉をかき集めている。


「折部さん、いないね」

割下は折部を探すが、見当たらない。

「うーん。去年も来てたから、来ると思ったんだけどなあ」

佐々木も折部を探すが、見当たらない。二人は他の子供達と一緒に、落ち葉を集めた。


しばらくすると広場の地面がきれいになって、落ち葉の山がいくつも出来上がった。

「よーし、それじゃあそろそろ焼き芋やるよ!」

大人の声に子どもたちが集まり、濡れた新聞紙とアルミホイルでサツマイモを包み、落ち葉の山に放り込んでいく。あとは待つだけだ。


――――――――――


……その光景を、更に高い場所から見下ろす姿があった。

「協力してくれて感謝するわ」

ダークセクシーエプロン魔女服に身を包むレディが、傍らに立つ少女に、黒い割り箸を差し出す。


「これで、もう二人は戦わなくていいんですよね?」

傍らに立つ少女、折部は黒い割り箸を受け取る。悪霊が宿った邪悪な割り箸だ。これを割れば、悪霊が開放され、邪悪なクッキングモンスターが現れる。だが、魔力を持つ者が割った時、それはもう1つの効果も発揮する……。


「ワルワル、そうだワル。オレ様たちが協力すれば、セイントヒップたちに勝つことができるワル。そうすれば、もうわざわざモンスターを呼び出す必要はなくなるワル」

黒いぬいぐるみみたいなマスコット、邪悪な目をしたワルノワールが言う。ワルノワールこそが、邪悪なクッキングモンスターを生み出す張本人だ。


「オレとしても、これ以上、折部に無理はさせたくないというところはあるハシ。ワルノワール、キサマに協力するのは、今回だけだハシ」

青いぬいぐるみみたいなマスコット、鋭い目つきのハシパッキが言う。ハシパッキは、こっちの世界に逃げてきたワルノワールを追って、この世界にやってきた。そして、折部に拾われ、一緒にセイントヒップたちを助けてきた。


だが、ハシパッキの魔力を一人で受けることは、折部には酷なことだった。戦いの後はしばらく動けなくなってしまうこともあった。折部はセイントソードとして戦うことを止めなかった。セイントヒップとセイントソード、つまり、割下と佐々木を助けるために。


そして、変身が解けたところを運悪くレディ・パンに見つかったのが、半月ほど前のことだ。『レディ・パンたちが一度でも勝てば、もうセイントヒップとセイントソードはもう戦う必要はない』と持ちかけられ、折部は協力することを決めた。


「二人のためだから……」

最後の戦いの為に、折部は黒い割り箸を割った。


パキン。


――――――――――


「……あれ?なんだ?」

焚き火を囲む子どもたちの一人が、林の方を見た。なにか大きな影が、ガサガサと動いている。他の子供達も、林の方を見る。みんなが影に注目した、その時だ。

「……ヤ、ヤキーッ!」

林の中から、焼き芋モンスターが飛び出してきた!


「うわああ!」

「きゃー!」

「み、みんな!急いで山を降りるんだ!」

パニックになった子どもたちを、大人が先導して逃がす。


(プリプリ!悪霊だプリ!)

ピンク色のぬいぐるみみたいなマスコット、プリケッツの声が、割下と佐々木の心に直接話しかけてくる。

「佐々木くん!」

「おう!」


二人は逃げる子どもたちと別れて、人気のない林に隠れる。割下はピンクの箸箱から、佐々木はイエローの箸箱から、それぞれ割り箸を取り出し割った。


パキン。


『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

変身BGMが鳴り響く!割下と佐々木の体が宙に浮いて体が光に包まれ、変身バンクだ!


割下の全身が光のシルエットになり、ズボンがはじけ飛ぶ!そして代わりに黒いスパッツが装着される!


佐々木も全身が光のシルエットになり、スニーカーががはじけ飛ぶ!そして代わりに装着されるのはカウボーイブーツ!


割下のセーターとシャツがはじけ飛び、フリフリの淡いピンク色ドレスみたいな服が装着される!レースの手袋にニーソックス。ちょっとだけヒールが高い靴。髪の毛はリボンで結ばれる。メガネも魔法で形が変わる。


佐々木のズボンとシャツがはじけ飛び、ショートパンツ、胸下で縛られたへそ出しTシャツ、そして茶色いカウガールジャケットが装着される!腰には二丁のガンベルト。手にはレザーのグローブ。首元にはスカーフ。頭にはテンガロンハット。


そして最後に、割下には黒いスパッツの上から白いフンドシが、佐々木には蛍光イエローのバイザーサングラスが装着される!

『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

BGM終了!割下はセイントヒップに、佐々木はセイントリングに、それぞれ変身完了!

「よし!行くぞ!」


――――――――――


ヒップとリングは焼き芋モンスターが待つ広場へと戻った。だが、様子がおかしい。

「あれ?誰もいない……?」

クッキングモンスターの目的は、人々を追い回し、混乱を呼び起こすことだ。いつもなら、逃げた人たちを追いかけるはずなのだが、今回はまるで……。

「俺たちを待ち構えたってのか?」


「オホホ、そのとおりよ!」

焼き芋モンスターの後ろから、ダークセクシーエプロン姿のレディが現れた。

「レディ・パン!」

ヒップとリングが身構える。


「今日こそ決着をつけましょう。ここには私たちだけしかいないわ。存分に戦いましょう」

「言われなくてもやってやる!」

リングが腰のガンベルトから二丁の輪ゴム鉄砲を抜き打ち!2本の輪ゴムがレディ・パンに向かって飛び出す!


リングの輪ゴムは天使の金輪と同じく、聖なるパワーを持つ。邪悪な魔力で返信しているレディ・パンに当たれば、いずれその魔力は付き、変身が解けてしまう。だが、レディ・パンは動じない。


「……一膳一閃いちぜんいっせん……貫箸つらぬきばし


レディ・パンを守るように現れたその戦士は、太刀と見まごう巨大な割り箸で、リングの放った輪ゴムを絡め取る。その声は少年か、あるいは少女か、どちらにも聞こえる。


「な……なんで……」

呆然とするヒップ。なぜならば、リングの輪ゴムを絡め取った戦士は……。

「なんで、セイントソードが……?」

セイントソード!これまでは、ヒップとリングがピンチになるたびに現れ、二人を救ってくれた3人目の仲間だ。いや、だったはずだ。


「私達、いろいろとお話をしてね、協力することにしたのよ」

レディ・パンの手が、戦士の肩に触れる。その戦士は、いつものように、目元は前髪で隠れて見えない。だが、淡いブルーを基調とした侍魔法少年服は、ダークブルーに染まっている。


「おい!セイントソード!なんでそいつの味方なんかするんだよ!」

「そうだプリ!ワルノワールは悪いやつだプリ!」

リングとプリケッツが叫ぶ。しかし、セイントソードと呼ばれた戦士は、全く動じず、言葉を返した。

「否、今の私はセイントソードにあらず。ワルノワール様に忠誠を誓った、ダークソードなり」


「オホホ……そういうことよ。さあ、ダークソード。ヒップの方は任せるわ」

「心得た」

ダークソードは、腰から二膳目の巨大割り箸を抜刀する。それは、おお、なんということか。黒く染まった禍々しい小太刀のような割り箸だ!大小二膳の白黒巨大箸を構えたその姿は、まるで二刀流の武士そのものだ。二膳一流にぜんいちりゅうここにあり!


「私はリングの方を」

レディ・パンがリングを睨み、腰の調理器具ホルダーから泡立て器を取り出す。すると、なんということか。泡立て器は巨大化し、まるで巨大な棍棒のような武器になったのだ!


「プリィ!こうなったら仕方ないプリ!戦うプリ!」

プリケッツは、割り箸型魔法少女ステッキに変身し、ヒップの手に収まった。

「うん……」

ヒップも構える。だが、その表情は不安に満ちてる。


「おい、ヒップ。無茶するなよ。いつもみたいにモンスターをやっつければ、オレたちの勝ちだ」

「うん。分かってる」

リングの言葉にヒップは頷く。邪悪なクッキングモンスターには、必ずコアとなる邪悪な割り箸が刺さっている。それを引き抜き、ヒップの聖なるケツで穴割り箸をすることによって、邪悪なクッキングモンスターはやっつけることができるのだ。


「できるものなら、やってみなさいな!」

「参る!」

レディ・パンとダークソードが飛び出した!狙いはそれぞれ、リングとヒップだ!


「来い!」

リングが二丁輪ゴム鉄砲で迎撃!バシュンバシュンバシュンバシュン!四発同時発射!

「そぉれ!」

レディ・パンは巨大な泡立器を器用に回転させ、全ての輪ゴムを絡めとり、そのままリングに巨大泡立て器を叩きつける!


「させるか!」

リングはスライディングでレディ・パンの足元を滑りぬけ、背後に回る!

「これなら……」

リングは二丁の輪ゴム鉄砲をくっつけると、魔法のパワーで合体し、一丁の巨大な輪ゴム鉄砲になった!まるでライフルだ!


「……どうだ!」

輪ゴムライフルから巨大な輪ゴムが発射される!振り返ったレディ・パンは再び泡立器で絡め取ろうとするが、輪ゴムの勢いが強い!泡立器が弾かれた!


弾かれた泡立器は魔力が切れて消滅した。

「……あら。なかなかやるじゃない」

レディ・パンは腰の調理器具ホルダーからフライ返しを取り出す。すると、なんということか。フライ返しは巨大化し、まるで巨大なハエたたきのような武器になったのだ!


このまま新しい武器をどんどん作り続けていけば、いずれはレディ・パンの魔力が尽きる。残弾数は有限なのだ。

「そいつもふっ飛ばしてやるぜ」

堂々と言い切るリング。だが、輪ゴムライフルの魔力消費は大きく、すでにショートパンツはホットパンツほどの短さになっている。


リングの撃ち出す輪ゴムは、魔法少女服に込められた魔力を変換して打ち出している。無駄打ちを続ければ、あっというまにケツ丸出しだ。残弾数が有限なのは、レディ・パンだけではない。


「ふうん。それなら、私の魔力が尽きるのが先か、あなたの魔力が尽きるのが先か、勝負と行きましょうか」

レディ・パンは巨大フライ返しを演舞のように取り回し、構え直す。

「望むところだ」

リングも再び二丁輪ゴム銃に切り替え、レディ・パンの隙を窺う。


一方その頃、ヒップとソードは、壮絶な接近戦を繰り広げていた!

「はあっ!」

ソードの長割り箸が横薙ぎにヒップを襲う!

「えい!」

垂直大ジャンプで軽々と躱すヒップ!だが、空中で身動きが取れないヒップに、黒い短割り箸の突きが迫る!


「くぅ……!」

ヒップはこれをどうにかステッキでガード!そのまま勢いを利用して後方に飛び去り、連続三回転の後に着地!しかし、ソードはすでに走り出していた!


「遅い!」

長割り箸が大上段から振り下ろされる!

「たあ!」

ヒップはステッキで受け流し、さらに追撃の短割り箸の着きを回転で回避!そのまま勢いを乗せてステッキで攻撃を仕掛ける!


だが!ソードにステッキが当たる直前、ピタリとその動きが止まった。

「どうしたプリ!」

ステッキに変身しているプリケッツも驚く。


「……やっぱり、できないよ」

ヒップは未だに、ソードと戦うべきか迷っていた。本当に、ダークソードは、敵となってしまったのか?


「甘いな」

動きの止まったヒップに、ソードの無慈悲な短割り箸の一撃が繰り出される!

「きゃあ!」

クリーンヒットでふっとばされ、ヒップは木に激突!


「うう……」

どうにか立ち上がるヒップ。だが、そのダメージは大きい。このまま黒い邪悪な短割り箸の攻撃を受け続ければ、いずれ魔力が尽きて変身が解けてしまう。


「どうした?そんなものか?」

ソードがヒップを睨む。その目は前髪に隠れて見えないが、口元の険しさが、その表情を語っている。


「ねえ、本当に、レディ・パンの味方になっちゃったの?」

「……何度も言わせるな。今は、ワルノワール様に忠誠を誓っている。そして、これが最後の戦いだ」

動揺しきったヒップの言葉と逆に、ソードの言葉は淡々としている。そして、ソードの言葉には確固たる意志がある。


「最後のって、そんな……」

「ぐわぁ!」

困惑するヒップのもとに、リングが吹き飛ばされてきた!レディ・パンとの激闘で、そのパンツはすでにケツ丸見えのギリギリであり、カウガールジャケットももはや無い。残された魔力は、あと僅かだ。


「リング!大丈夫!?」

「ああ、なんとかな!」

強がるヒップだが、半ば空元気だ。


「オーッホッホッホッ!どうやら、ふたりとも限界のようね?」

レディ・パンはソードのそばに立ち、どうにか立ち上がったヒップとリングを見下ろす。


「限界だあ?それは、これを見てから言うんだな!ヒップ!アレをやるぞ!」

リングが二丁の輪ゴム銃を合体させる!それは変形し、巨大なボウガンになった!

「わ、わかった!」

ヒップはステッキを巨大ボウガンにセット!それは変形し、巨大な矢となった!


二人は一緒に巨大ボウガンを構え、狙いを定める。

「あらあら……」

いつもならこの必殺技を止めようとするレディ・パンだが、今回は余裕の笑みだ。

「いくぞ、セイントヒップ!」

「うん!」


「ロックオン!」

リングが照準を固定!

「シュート!」

ヒップが発射トリガーを引く!

「「セイントアロー!!」」


二人の息のあった声で、聖なる矢が打ち出される!イエローの光を纏ったピンクの矢は、レディ・パンのど真ん中に命中!貫く……はずだった。


「そ、そんな……」

ヒップが見たものは、ピンクの矢を完全に受けきった、ソードの姿だ。

二膳双操にぜんそうそう……白箸取しらはしどり……」


「ダークソード、やっておしまいなさい」

レディ・パンの声に従い、ダークソードは、矢となった割り箸型ステッキを……黒い割り箸で真っ二つにへし折った!!


「プ、プリーッ!!」

割り箸型ステッキは、悲鳴を上げて元のプリケッツの姿に戻り、ポテッと地面に落ちた。

「プリケッツ!」

ヒップが駆け寄り、プリケッツを抱き抱える。


「ご、ごめんプリ……。魔力を奪われちゃったプリ。もう、変身が解けるプリ……」

それだけ言うと、プリケッツは気絶してしまった。

「プリケッツ?プリケッツ!?」


「チクショウ!おい、一旦逃げるぞ!」

変身が解けてしまえば、もはや戦うことはできない。泣きそうになりながらプリケッツを心配するヒップも、そのことはわかっていた。


「……」

ヒップはプリケッツを抱え、無言で林の方へと逃げていった。無論、リングもそれを追う。

だが、レディ・パンとソードは、二人を追わなかった。


「これで、良いのですよね?」

ソードがレディ・パンに問う。

「これでいいのよね?ワルノワールちゃん?」

レディ・パンが、ワルノワールに問う。


「ワルワル……。大成功だワル」

ワルノワールの手には、邪悪な割り箸が一膳握られていた。それは、焼き芋モンスターのコアだったものだ。いつのまにか、焼き芋モンスターは姿を消していた。


「プリケッツから魔力を奪えたのは思いがけない幸運だったワル。おかげで、十分な魔力が集まったワル」

「それでは、もうモンスターは……」


「ワル。もう呼び出す必要はないワル。セイントヒップたちと戦うのも、これで最後だワル」

その言葉を聞いて、ダークソードは安堵した。

「良かった……」


「本当に、これが最後なんだろうハシな?」

ソードに着いている青いマスコット、ハシパッキが鋭い目で割るノワールを睨む。


「ワル!オレ様も科学者の端くれ、オレ様の理論では嘘をつかないワル!」

「……フン。これ以上ソードが戦わなくていいことに免じて、今回ばかりは信用してやるハシ。だが、次に会った時は、覚えておくハシ」

ハシパッキはそう言うと、ソードと共に姿を消した。


残されたのは、レディ・パンとワルノワールの二人だ。

「ワルノワールちゃん。これで、大悪霊捕獲ができるの?」

「もちろんワル。大悪霊は放っておけば爆発する爆弾みたいなものでワル。しかし、この割り箸に込められた魔力があれば、安全に呼び出して捕獲することができるワル。あとは、時が来るのを待つわけワルな」


「ふーん……。その、時っていつなのかしら?」

「12月24日、クリスマスイブだワル……」


――――――――――


……それから2学期が終わるまで、クッキングモンスターは現れなかった。プリケッツはいつのまにか元気になっていたし、割下と佐々木、そして折部も、いつもと変わらない平和な学校生活を送っていた。


毎週のように襲ってきたクッキングモンスターがでなくなったことで、セイントヒップたちの出番もなくなっていた。妙に物足りないような日々を過ごす割下と佐々木だったが、それでも、ソードと戦いたくはないという気持ちが勝り、むしろ安心していた。


12月24日までは。



――――――――――


ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ

第12話:黒き戦士!ダークソード!

おわり

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