第11話:栄光のサヨナラ逆転ホームラン!

「カウントはツーストライクスリーボール。バッターのセイントヒップ、ここまでかなりの粘りを見せましたが、さすがに疲れが見えます」

「ええ。しかしピッチャーも疲れているのは同様です。これが最後の一球となるでしょう」

「さあピッチャーおおきく振りかぶって……投げました!」


……なぜ野球?

話は数時間前に遡る。


――――――――――


「頼む!割下わりした!代走だけでいいんだよ!今日の試合、出てくれないか!?」

「そ、そんなこと言われても……」

割下はクラスメートの野球部員から頼み込まれていた。


「だって、僕、野球なんかやったこと無いんだよ?」

「いや、それでもいい!いや、よくはないんだけど、とにかく、お前の足の速さはみんな知ってる。代走に出るだけなら大丈夫だって」

割下はスポーツが、というか運動全般が苦手である。しかし、足だけはとても早い。


「うーん……」

「頼む!今日は今年最後の練習試合になるかもしれなんだ!このとーり!」

今の時期は11月も半ば。そろそろ寒くなってきて、練習試合もやりにくくなってくる。そして、クラスメートの強い頼み込みだ。こういうのに割下は弱い。

「そういうことなら、わかったよ」


「やったぜ!ユニフォームとかはこっちで用意しとくから、河川敷に来てくれ!頼んだぞ!」

クラスメートは準備のためか、大急ぎで走っていた。

「割下、いいのか?お前、本当に野球やったこと無いんだろ?」

親友の佐々木ささきが声をかける。


「でも、あそこまで言われたら断れないよ」

「ま、それがお前だもんな。いいじゃねえか。応援には行ってやるよ」

「うん、ありがとう」


こうして急遽、草野球の試合に出ることになってしまった割下。しかし、まさかバッターボックスに立つことになるとは、まだこの時は想像もしていなかったのだ……。


――――――――――


そして試合の時間!割下はチームのベンチに座っていた。背番号は11。どうにもこういった経験はないので、そわそわして落ち着かない。

「大丈夫だって。後半まで出番はないから、ゆっくり応援でもしててくれ」

クラスメートの声がかかる。

「う、う、うん」

どうにか受け答えする割下は、震える地蔵のような有様だ。


しかし、割下の不安をよそに、試合は拮抗したまま進んだ。お互いに点は取るが、その差は殆どないという状況だ。そして5回の裏、割下のチームは、勝負に出た。

「タイム!代走!」

キャプテンが声高々に叫び、割下の方を見る。


「ええ!?もう!?」

「もうって、もう試合も終盤だぞ」

「野球って9回までじゃないの!?」

「草野球は7回までなんだよ」

自分の出番はもう少し後だと思っていた割下は、あわあわと慌てる。


「大丈夫だって。俺たちが走れって言ったら全速力で走ってくれればOKだ!」

「そ、それだけでいいんだね?」

「ああ。頼んだぞ!」

割下はクラスメートに背中をバンと叩かれると、ベンチを飛び出し一塁へと向かった。


割下は一塁にたどり着く。ここからゴールのホームベースまでは、二塁と三塁を経由しなければならない。いくら割下の足が速いとは言え、遠い道のりだ。

「おーい!割下!頑張れよー!」

チームのベンチ横から、佐々木の声が聞こえる。


「割下くん!がんばれー!」

佐々木の横に立つ折部おりべの声も聞こえる。

(佐々木くんに、折部さんも!?いつのまに!?)

思わぬ声援に驚く割下!


((折部さんは割下くんたちの同級生の女の子なんだ。割下くんは、折部さんのことが好きなのだけど、そのことは佐々木くんと二人だけの秘密なんだ))


「よ、よーし!」

気合が入った割下は二塁の方を睨み、集中する。

(走れって言われたら走る……走れって言われたら走る……)

「……れ!」

(走れって言われたら走る……走れって言われたら走る……)

「走れ!」

「へっ?」


「割下!走れ!」

ボールはバッターに打ち取られ、内野を抜けて外野に飛び出していた。バッターが一塁に走り込んでくる!

「う、うわあ!」

状況を理解した割下は、大きく遅れて走りだす!


割下と入れ替わりで一塁にバッターが到着!余裕のセーフ!一方の割下は二塁に向かって全力疾走!外野がボールを拾い、二塁に投げ返す!

「行けー!そのまま走れー!」

ベンチの声に従い、ひたすら走る!


ボールが二塁に届くより早く、割下は二塁を踏み抜いた!だが、まだ割下は止まらない!更に三塁へと走る!

「マジかよ!?」

二塁手はボールをキャッチし、そのまま割下を追いかけてタッチアウトを狙う。だが!


最高速に加速した割下は二塁手を引き離し走り去る!追いつけないと思った時には、すでに割下は三塁を踏み抜き、さらにホームへと進んでいた!

「ええっ!?」

「バックホーム!」

キャッチャーが構える!三塁にボールを投げようとしていた二塁手は、一度もたついてからホームへボールを返す!


割下とボールがホームに迫る!先にホームに着いたのは……。

「セーフ!」

割下だ!

「うおお!やりやがった!」

「なんだよあいつすげーっ!」

ざわめくベンチ!


ベンチに帰ると、チームメンバーが、そして佐々木と折部が、割下を迎えてくれた。

「やったな割下!」

「割下くん、すごかったよ!」

「えへへ……ありがとう」

素直に褒められると、素直に照れてしまう割下だ。


「さすが割下、よくやってくれた!後はオレたちに任せてくれ。ありがとうな」

クラスメートの言葉を聞いて、ホッとする割下。期待に答えることができたことと、自分の役目を果たせたことに、確かな充足感を得ていた。


……だが、ホッとしたのもつかの間。例のアイツが現れたのだ!


「う、うわあ!」

「キャーツ!」

突如、土手の観客たちの悲鳴!

「えっ!?」


割下が振り返ると、観客席には巨大なポップコーンモンスター軍団が!

「「「「「「ポプッ!」」」」」」

「「「「「「ポプポプッ!」」」」」」

「「「「「「ポップーン!」」」」」」

大量!


「試合は中止だ!みんな逃げろ!」

審判の声に、双方のベンチから選手たちが散り散りに逃げる!

(プリプリ!悪霊が出たプリね!)

割下の心に直接話しかけてくるのは、ピンクのマスコット、プリケッツ。割下はプリケッツの魔法の力で、邪悪なクッキングモンスターと戦うセイントヒップに変身できるのだ!


(で、でも、どこで変身すれば……)

ここは見晴らしの良い河川敷。隠れられる場所が見当たらない。だが、割下が迷っている間にも、ポップコーンモンスターは次々と観客や選手たちを遅い、ポップコーンで包まれたポップコーンダルマにしている。


「こうなったら……」

割下は周りの目が自分に向けられていないことを確認し、そして……。川へ向かって走り出した!

「エイヤ!」

川に飛び込む割下!そして、どこからともなく取り出した割り箸を、割った!


パキン。


『パパラパ~チャララパパラパ~♪パッパラ~パパラパッパッパラ~♪』

変身BGMが鳴り響く!水中に浮かぶ割下の体が光に包まれ、変身バンクだ!割下の全身が光のシルエットになり、下半身のユニフォームがはじけ飛ぶ!そして代わりに黒いスパッツが装着される!


さらに上半身のユニフォームがはじけ飛び、フリフリの淡いピンク色ドレスみたいな服が装着される!レースの手袋にニーソックス。ちょっとだけヒールが高い靴。髪の毛はリボンで結ばれ、メガネも魔法で形が変わる。


そして最後に、黒いスパッツの上から白いフンドシがが装着される!

『パパラパ~パパパッ♪パッパン♪』

BGM終了!割下はセイントヒップに変身完了!


グラウンドでは、割下のクラスメートが必死に逃げ回っていた。

「なんだあのポップコーン速すぎる!」

「ポプーッ!」

このままではポップコーンモンスターに追いつかれてしまう!だが、その時!川がピンク色に光り、何かが飛び出してきた!


「えーい!」

飛び出したのはセイントヒップ!割り箸型魔法少女ステッキでポップコーンモンスターをホームラン!

「ポプーーーーッ!」

「セイントヒップ!」

「遅くなってごめん!」


「いや、助かったよ!ありがとう!」

クラスメートを逃し、改めてステッキを構え、周囲を見渡す。どこかに、ポップコーンモンスターの本体がいるはずだ。


「オーッホッホッホ!現れたわね、セイントヒップ!」

ピッチャーマウンドから聞き慣れた声!

「その声は、レディ・パン!」


ピッチャーマウンドに立っているのは、ダークセクシー魔女エプロンに身を包むレディ・パン!彼女こそ、クッキングモンスターを生み出す魔法の使い手だ!だが、今日は何か様子がおかしい。


レディ・パンは、野球帽とグローブを装着している。

「なんか、いつもと様子が違うプリ」

ステッキから声がした。セイントヒップの持つステッキは、プリケッツが姿を変えたものなのだ。


「それについてはオレ様が説明するワル!」

レディ・パンの肩にちょこんと乗った黒いマスコットがしゃべりだした。

「あー!ワルノワール!やっぱりワルノワールだったプリね!」

プリケッツステッキがぴょこぴょこ動く。


「ワルワルワル……オレ様、考えたでワル。クッキングモンスターだけでは、セイントヒップに勝てないワル。なら、勝負を変えてしまえばいいワルと!」

ワルノワールの体から、黒いオーラが溢れ出す!

「ワルワルワール!」


「な、なに!?」

河川敷のグラウンドを禍々しいオーラが包む!思わず一瞬目を閉じるセイントヒップ!


……そして、目を開くと、そこには野球場が広がっていた!人工芝に電光掲示板!観客席も完備!

「「「「「「ポプッ!」」」」」」

「「「「「「ポプポプッ!」」」」」」

「「「「「「ポップーン!」」」」」」

ポップコーンモンスター満員御礼!


「代打のお知らせです。代打、背番号11番、セイントヒップ」

球場にウグイス嬢ポップコーンモンスターのアナウンスが木霊する。

「え?」

戸惑うセイントヒップの背中には、いつのまにか背番号11が現れていた!

「ええ!?」


「さあ、勝負よセイントヒップ!」

「え、ええー!?」

「ワルワルワル……ここはオレ様の魔法で作られた世界だワル。どういうことか分かるワル?」


ワルノワールの言葉に、プリケッツステッキがしょんぼり萎れる。

「プリィ……。ワルノワールの魔法は強いワル。こうなったらもう、野球で勝負するしかないプリ」

ワルノワールの魔力は、プリケッツも認める強さだ。


「よ、よーし、やるしかないならやってやる!」

セイントヒップは覚悟を決めてヘルメットを被り、打席に立つ。構えるのはいつもの割り箸型魔法少女ステッキ、すなわちプリケッツステッキだ。


「ルールを説明するワル。勝負は一打席ワル。アウトになるか、内野ゴロならこちらの勝ちワル。逆に、打った球が内野を超えればそっちの勝ちワル。あと、無いとは思うワルが、フォアボールもそっちの勝ちワル」

「……よくわからないんだけど」

ポカンとする割下。割下は野球のルールが未だに良くわかっていない。


「とにかく打てるボールを遠くまでかっ飛ばせばいいプリね!?」

プリケッツもあまり良くわかっていなかった。

「……まあ、そういうことだワル」

ワルノワールが割り切って認める。


「それなら簡単だプリ!セイントヒップの力を見せてやるプリ!」

「プレイ!!」

審判ポップコーンモンスターが宣言!ちょっぴり不安なゲームが始まった!



※ここからは実況解説でお送りします


「さあ、ついに始まりました。セイントヒップ対レディ・パンの一打席勝負。実況は私、ポプミツ。解説で色を添えてくれるのは、色のことならこのポップコーンでおなじみ、カラポップさんです」

「マーブル!トリコロール!ペイズリー!」

「それは模様です」

「ブリーな気持ち……」


「さあピッチャー第一球、振りかぶって……投げました!」

『スッッッッタラァァイカァ~~~~ンンヌァ!』

「バッター大きく振り遅れてワンストライク!審判ポップコーン、今日も素晴らしい発声です」

「目の覚めるようなグリーン」


『なんなのこの実況!?』

「バッターセイントヒップ、選手にも丸聞こえの実況に、思わずツッコミが入りました」

「純真な純白」


『野球といえば実況解説ワル!』

『そうよ。美しく見せる器が料理に必要なように、盛り上げる実況が野球には無くてはならないものですわ』

「ピッチャーのレディ・パン、平然と答えます」

「不穏な漆黒」


「しかしバッター、どうにも集中できない様子です。一体どうしたというのでしょうか」

『キミたちの実況のせいだよ!もう!』

「おっと、これは手厳しい。怒られてしまいました」

「桜色の心境」


(セイントヒップ、集中するプリ!いいでプリ?オイラが球を見極めるプリ。打てそうだったら合図するから、そしたら思い切って振るプリ)

(うん、わかった……)

「バッター、ステッキと対話するような面持ちでうなずき、ステッキを構え直しました」

「謎めいた迷彩色」


「さあ続く第二球、ピッチャー振りかぶって……投げました!」

『ボール』

「バッター、ここはきっちり見送りました。審判の坦々とした声が響きます」

「灰色の落差」


『ふうん、なかなか見る目があるじゃない』

「さらに第三球……投げました!」

『ボール』

「ピッチャー、バッターを挑発しますが、バッター動じません」

「鋼色の魂」

「そろそろ真面目に解説してください」

「はいすみません」


「ピッチャー、ボールを握り、キャッチャーのサインを確認します。うなずきました。そして……投げました!」

(打つプリ!)

「バッター全力でステッキを振った!」

『スッッッタラァイカンンンヌゥッ!!』

「ツーストライク。追い込まれました。バッター、これを打てなかったのが不思議といった顔です」

「変化球ですね」


(プリケッツ、今のはなんなの?)

(お、おかしいプリ……絶対に打てると思ったプリ……)

『あら、変化は料理の基本よ。同じ味だけじゃあ、飽きてしまいますもの』

「ピッチャー、不敵に笑います」

「余裕の現れですね。すでに勝ちを確信しているようにも見えます」


『これで終わりよ!』

「ピッチャー、事実上のストライク宣言をして投げました!!」

(打つプリ!!)

「打った!!これを見逃すバッターではありません!打球は内野を超えて伸びる!」

『ファァーーーールゥゥァッッッ!!!』

「あーっと!惜しいところに落ちました」

「無理やり打ちに行った感覚がありましたね」


「しかし依然カウントはツーストライクツーボール。バッターにとっては厳しい状況です」

「フォアボールまではまだ二球ありますから、ピッチャーは1回ボールにしても良いわけですね」

『フォアボールってそういうことだったんだ』

「バッター、ここでようやくルールを理解し始めたようです」


『プリ!細かいルールなんて気にしなくてもいいプリ!ようは振るか振らないか、2つに1つだプリ!』

『うん!』

「バッター陣営、ブレません」

「メンタルの強さは投手側にも見習って欲しいところではあります」

『そこ!聞こえてますわよ!』

「「はいすみません!」」


「さあ、ピッチャー気を取り直して振りかぶり……投げましたがああっと!」

『ボール』

「これは大きくハズレました。どうしたことでしょうか!?」

「やはりメンタルの強さを見習って欲しいところですね」

「いつもの油断グセが出てしまったのでしょうかおっとこちらを睨みつけています」

「怖いですね」


「さあ、なんだかんだでカウントはツーストライクスリーボール。両者追い込まれました。次が最後の勝負になるでしょうか」

「ボールを務めるワルノワール様の体調もそろそろ限界もしれません」

『え!?あのボール、ワルノワールだったプリ!?』

『お前だってバットじゃないかワル!』


「あの変化球の正体はワルノワール様の魔力ということでしょうか」

「そういうことですね」

「しかし、バットもプリケッツだということですから、お互い様と言ったところでしょうか」

「どちらも身を挺して全力で戦っているというわけです」

「そうこう言っている間にピッチャー投げました!」


(プリィ!)

「打った!本日二度目のヒッティング!」

『ファアアアアアアアアアルゥウウウ!!』

「あーっと、またしてもファール!粘ります!」

「ワルノワール様はこれで2回も撃たれていますから、そろそろ厳しいのではないかと思われます」


「カウントはツーストライクスリーボール。バッターセイントヒップ、ここまでかなりの粘りを見せましたが、さすがに疲れが見えます」

「ええ。しかしピッチャーも疲れているのは同様です。これが最後の一球となるでしょう」

「さあピッチャーおおきく振りかぶって……投げた!」


「打球はど真ん中ストレート!」

(プリィ!!)

「バッターおおきく振りかぶって打った!……だが打球が飛ばない!ステッキに貼りき押し返そうとしている!」

『このまま打たれてたまるかワル!』

「あーっと!ワルノワール様が変身を解いてステッキにしがみついている!」

『ず、ずるいプリ!』


『このまま地面に落ちればオレ様の勝ちワル!』

「ワルノワール様ずる賢い!だがあーっと!なぜかステッキから離れることができない!どうしたのか!」

「ステッキが変身を解いて、ワルノワール様を掴んでいますね。これでは離れることができません」


『な、なんですって!?』

「これにはピッチャーも驚きだ!」

「はい、私も驚いています」

「解説のカラポップさんは驚いていても冷静だ!本当に驚いているのか!?」

「驚天動地」


『セイントヒップ!オイラごとホームランするプリ!』

『そ、そんなことしたらお前も吹っ飛ぶワル!』

『ふっとばされるのは慣れてるプリ!やるプリ!』

『うん!』


「バッター、迷いなく足に力を込めた!」

「このままでは投げられますね」

『えーい!!』

「投げたーっ!ケツ割り箸で鍛えられた下半身が生み出すパワーをそのまま腕に伝えての豪快なスイング!」


『ワルーッ!』

『プリーッ!』

「二匹揃って大きなアーチを描く!入るか入るか入るか入った!」

『ホォォォオォーーーームラァァァァァンン!!!!ゲイーーーームセェエエエエッッッッツ!!!!』

「審判が今日一番のダイナミックな発声!」


『そ、そんな……』

「ピッチャー、マウントに膝をつきました」

「ショックでしょうねえ」

「ええ。そして、我々の実況もここまでです。この空間は消えてしまいますので」

「はい、さようなら」


※ここまで実況解説でお送りしました



野球空間から開放され、元の世界に戻ってきたセイントヒップ達!

「ええい!こうなったら実力行使よ!やっておしまい!」

「ポップーッ!」

巨大なポップコーンモンスターの本体がセイントヒップに襲いかかる!

「ええーっ!?結局いつものパターンじゃない!!」


「ポプーッ!」

ポップコーンモンスターの体当たり!

「えーい!」

セイントヒップは軽々跳び超える!


「ヒップ!こっちだ!」

その声は、頼れる相棒、サイバーカウガール魔法少女服のセイントリング!

「リング!」

合流するヒップ!


「なにがあったかよくわからねえが、勝ったんだな?」

「うん!でも、まだ終わりじゃない」

「ああ、いつもどおり、アイツをやっつければいいんだろ?」

巨大なポップコーンモンスターをにらみ、ニヤリと笑うリング。

「うん!」

ヒップも笑って答える。


「そうは行きませんわ!」

レディ・パンは腰の調理器具ホルダーからすりごきを取り出す。すると、なんということか。すりこぎは巨大化し、まるで巨大なバットのような武器になったのだ!

「これでも喰らいなさい!!」

すりこぎを振りかぶり二人に襲いかかるレディ・パン!だが!


ガキィン!!

「そうはさせるかは、こちらのセリフだ!」

レディ・パンが振り下ろしたすりこぎを受け止めるのは、大小二膳の巨大割り箸を操る侍魔法少年服のセイントソード!

「今だ、セイントヒップ!」

「はい!」


「いつものやつをキメてやる!」

リングが二丁の輪ゴム銃を合体させる!それは変形し、巨大なボウガンになった!

「今度こそゲームセットだよ!」

ヒップはステッキを巨大ボウガンにセット!それは変形し、巨大な矢となった!


「ロックオン!」

リングが照準を固定!

「シュート!」

ヒップが発射トリガーを引く!

「「セイントアロー!!」」


二人の息のあった声で、聖なる矢が打ち出される!イエローの光を纏ったピンクの矢は、ポップコーンモンスターのど真ん中に命中!貫く!ポップコーンモンスターの背中から飛び出したピンクの矢は、プリケッツに変身。プリケッツの手には邪悪な割り箸が!


この邪悪な割り箸こそ、悪霊が宿ったモンスターの心臓部であり、これをヒップが聖ケツで折ることにより、モンスターを倒せるのだ!

「セイントヒップ!折るプリーッ!」

そのまま邪悪な割り箸をヒップに投げる!


プリケッツが投げた割り箸を見事キャッチしたヒップは、ふんどしに割り箸を挟む。スパッツの上に、白いふんどしと割り箸が、聖なる十字を表した!……そして!

「えいっ!」


バキィ!


割り箸が割れた!

「ポ、ポ、ポ……」

ポップコーンモンスターが中から光りだす!そして!

「ポップーーーーーーーーー!!!!」

ポップコーンモンスターは爆発!キラキラした光の粒子となって空へと登っていった。


「ええい!今回はここまでにしてあげますわ!それではごきげんよう!」

レディ・パンが突然白い煙に包まれる!小麦粉だ!

「ゴホッ!ゴホッ!」

ヒップとリングが咳き込む!煙が晴れた時には、もうレディ・パンは逃走していた。そして、ソードの姿も、そこにはなかった。


「やれやれ。今回も、だろ」

リングが呆れたように言う。

「うん。でも今回も勝ててよかったね」

「……ああ、そうだな!」

「プリプリ!そろそろ変身が解けるプリ!」

「おっと!」

二人は変身が解ける前に、人目の付かない林の方へと飛び去って行った。


――――――――――


所は変わって敗走したワルノワールたちの方では!

「今回も勝てなかったワル……」

「うーん。そうねえ。でも、そろそろ時間もないんでしょ?」

「そうなのでワル。大悪霊復活捕獲作戦まで、残り時間はあと1ヶ月ほどでワル。大悪霊復活に必要な混沌は、足りるかどうかと言ったところワルな。なにか、策を講じなければ行けないワル……」


「あら?あれは……」

「ん?何でワル?」

レディ・パンとワルノワールが、遠くの物陰を見る。そこには、二人を追ってきたはずのセイントソードが倒れていた。しかも、ただ倒れているわけではない。変身が解けかかっているのだ!


「あらあら。オッホッホ……なぁるほど……。あの子がセイントソードの正体っていうわけね」

「ワルワル……」

二人は不敵な笑いで見つめ合う。

「ねえ、ワルノワールちゃん、ちょーっとイイコト思いついたんだけど」

「ワルワルワル、それは気が合うワル」



――――――――――


ついにレディ・パンに正体を知られてしまったセイントソード!その運命やいかに!


ケツ割り箸魔法少女装少年セイントヒップ

第11話:栄光のサヨナラ逆転ホームラン!

おわり

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