Gの悪夢

@rain-rain

第1話

定年前に社宅を出て中古だがマンションを買った

定年間際に住宅で右往左往しないために少し高くても立地条件の良い場所を選んで都内の山手線の内側、駅から歩いて5分以内だがリフォームをしていなかったために評価額より幾分安く買えた

半年間探して予定していたよりも良い物件に巡り会えた

何とか梅雨前に引っ越しをすることができた

それが約10年程前の出来事


引っ越して間もない夜に悪夢で目が覚めた

夢の内容は『ベランダのカーテンを開けると窓一面に羽の生えた虫がベッタリとついている』という夢だった

前日に観たホラー映画の影響だと思いその時はそのまま放置した


それが後に現実に起こるなどと思いもしなかった





集合住宅では上下水道の定期点検がある

毎年 、排水管は必ず高圧洗浄をするのがマンションの規約に書かれている

この点検を受けないと、排水管に問題が発生した場合に、修理修繕費がマンションの保険で支払われない可能性が高いのだ


掃除には3日間使う

共有の排水管に1日、各家庭の排水管を洗浄するのに2日間使う

それに伴い別に1日水道のタンクの清掃を行う

そのため、半日ほど断水する


毎年夏に掃除が行われる


引っ越してきてから3年前までは何事もなく掃除を受けていた


悪夢は不意に訪れる


3年前のとても暑い夏だった

天気予報では今年は昨年よりも暑いですとお決まりのような言葉が並ぶ

毎年の事とその年も掃除の時に邪魔にならないよう水廻りの片付けをした


断水の日

朝から太陽がアスファルトを焼き、外に出ただけで身体中を射す日差しに辟易しながら洗濯物を干すためベランダに出る

何時もと変わらない日常のはずだった

変わっていたとしたらその日は断水があった

洗濯物を干して出掛け、夕方前に家に帰った


家に帰ってまず最初に家の空気の入れ換えのためにベランダへ…


夏はカーテンをしてから出掛けているので先ずはカーテンを開けて窓の鍵に手を掛けようと何気なく窓の外、ベランダに目を向けると…………


黒光りする身体にカサカサと動く脚、あるものはベランダの壁や隣との境にある板壁の隙間や天井をつたい歩き大挙して縦横無尽に歩きまわっていた

一部はひっくり返って脚をヒクヒク動かして死にかけているモノもいた


Gの頭文字を持つ黒い害虫


一瞬、動きが止まった後に出た言葉は自分が出したとは思えない高音の悲鳴だった

窓を開けるのを止め、開けたカーテンを締めた

現実逃避をした

否、現実逃避をしたくなった


恐る恐るカーテンを開けたが現実は何も変わらない

洗濯物にも奴等は登って来ていたので洗濯物を仕舞うのも諦めた処か、棄てる事にした

気分的にGまみれの洗濯物は洗い直しても着る気分になれない

そして、この日は窓を開けるのを諦めた




翌日、ベランダを掃除する為に早起きをした

ベランダには奴等の死骸がベランダにところ狭しと転がり、洗濯物に付いていた奴等は今朝には一匹も付いていなかったが下には死骸が転がっていた

先ず、臭いが酷かった

何日も洗っていない酸っぱい汗の臭いと腐敗した生ゴミの臭いを足して割った様な臭いがしていた

菷で一ヵ所にまとめようと掃いたが、奴等の脚が菷に絡まりまとめられず一掃きして止め、火挟みで一匹ずつごみ袋に入れていった


死骸を片付けた後は洗剤で洗い流した

何となく臭いがこびり着いていそうな感じがしたので念入りに洗い流した

夏の早朝でも気温は高く片付けと掃除で1時間以上使った


しかし、何気なく奴等が来た隣のベランダに目を向ければ隙間から見える範囲に奴等の死骸が見える

その上風向きのせいで異臭もする

隣に言うべきか悩んだが結局言えなかった

偶々、今回だけかもしれないしと思ったからだ


その後の排水管掃除は問題なく終えられた




その翌年の夏の排水管掃除も暑い夏だった

昨年の悪夢が甦りその年の掃除期間はベランダには洗濯物を干さず、物干し竿も片付けて何も無い状態にした


嫌な予感ほど良く当たる

奴等はまたしてもやって来た

それも昨年より多かった

昨年はまだベランダの足の踏み場があったが、この年は踏み場があまり無かった

それほど酷かった

この年の片付けと掃除は徹底的にした

壁も雑巾とモップで拭き清めた

臭いも酷く臭いので、掃除後は薄荷の精油を水で薄めてスプレーをした


2年続けての惨状だった


引っ越してきて間もない時に見た夢が正夢だったと今更ながら気付いたが、対処の仕方に困る



そして今年の夏

今年は掃除の時期に暑くもなく過しやすい日々だったのが幸いして奴等は出てこなかった

前年同様ベランダを片付けておいたのだか、肩透かしを喰った



あの2年間の悲劇は何だったのだろう…

結局、原因は判らないまま



ゴキブリの大群を間近で見るという鳥肌の立つ夏の正夢の話

現実に起きた嫌な話


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Gの悪夢 @rain-rain

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ