雲の上

かみや

第1話 意表

空に浮かぶ8月の雲はものすごく単調で華麗だった。

なにも着飾ることなく浮かびゆくその姿に過ぎ去る時間も忘れ、ただ呆然と眺めるその瞬間がなぜか妙に落ち着いた。

この病室に来て幾日が経ったのだろう。ふと、我に返っては、自問自答を繰り返す。

答えなんて知りたくなかった。


純哉は2週間前、交通事故に遭った。

付き合って半年経った彼女、花奈との半年記念日の日、待ち合わせをしていた駅に向かう途中、後ろからやってきた乗用車にはねられた。

全身を強く打ち、意識は戻らなかった。

1週間経ったある日、奇跡的に意識が戻った。だが、頭部も強く打ち付けていた純哉は、両親の事も、花奈の事も分からなくなっていた。

誰が話しかけても、目の焦点も合わず、ポカンとしている純哉。

日に日に病状は悪化していった。


事故から3週間が経ったある日、両親が担当医に呼ばれた。

そこで、純哉の余命を告げられた。


「長くもって、あと2ヵ月が限度でしょう。」


突然の宣告に、両親は唖然とした。


「私たちが暗くなってちゃいけない。」


母は、純哉の前で懸命に明るく振舞っていた。

不器用な父は、ただ無言で純哉の傍にいることしかできなかった。何をするにしても、頭が真っ白な父は、自分の不甲斐なさに、夜な夜な誰もいない廊下で一人涙を流した。

大学生の花奈は、学校が終わり、バイトのない日は、夜遅くまで純哉の傍で付きっきりになって看病した。


「私と出逢わなければ。」


そんなことを心の中で呟いては、純哉に引きつった笑顔を見せていた。


純哉は段々と自分が置かれている状況を理解した。

どこかに向かう途中に事故に遭い、この無機質な病室に運ばれ、どこかで見たことがある様な人達に看病されている。その人達が両親と、花奈である事に気づき出した。

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雲の上 かみや @ratann74

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