track 9


 

 CDやレコードを無残に切り刻むようなことは今まで一度もなかった。

 音楽には、なぜか「飽きる」ことがなかった。

 

 心の移ろいの中でそれほど好きでなくなった曲も、過去の思い入れと相まってそれなりに楽しむことはできた。あるいは、そんな通り過ぎたはずの楽曲にふとしたきっかけで再び心を揺り動かされることもあった。それらは如何にも人間らしい営みと思えた。そういった点もまた、ぼくが音楽に縋った理由のひとつだった。

 

 けれど、音楽を取り巻くすべてが、性癖から逃れうる「おとぎの国」だったわけではない。


 ギターなら、何本となくバラバラに切り刻んできたのだ。

 無残に。凄惨に。初めからなんの思い入れすらなかったように。


 切り刻まれることのない音楽。

 一方で、何本もゴミとされてきたギター。


 ではなぜ、このような差異が生まれるのだろうか?

 

 ――そもそも、ぼくの「性癖」は、なんでもかんでもその対象とするわけではない。

 そこには一定の法則性が存在する。

 

 まず、ぼくの性癖は基本的に日々の生活に付き物の実用品などを対象としない。たとえば炊事道具や家具一般などがそれにあたる。

 ただしもしそこに特別な思い入れや愛着が介入した場合、話は変わってくる。だからそれらを平穏無事に扱い続けるためには、ただただ無機質な使用を心がけなければならない。

 と言っても、別段むずかしいことでもないだろう。それはきっと、今の世の中ではむしろあたりまえの感覚なのだから。モノばかり馬車馬のように作らされ、病むほどに売らされ、ゴミと倦怠が溢れて止まることを知らない狂った世の中なのだ。九十九神など宿るべくもない。

 けれど、それでもぼくらは手前勝手な思い入れをそれらに抱くことがある。大切な誰かとの共用は、そんな甘い思い入れを抱きやすくさせる。それが儚く脆いひとときのつながりならなおさらだ。強い不安は甘えた感情を増幅させる。それだけのことだ。


 要するに、性癖の対象となるものは、必ずある種の嗜好品的要素を持っている。

 

 では、音楽はどうだろうか?

 考えるまでもない。音楽はまさしく嗜好品そのものだから。

 ――ところで嗜好品とはなにか。端的に言えばないと寂しい気もする、けれどどうとでもなる。そういうもののことだ。そこで「いやいやNO MUSIC NO LIFE って標語もあるくらいじゃないか。音楽は栄養価を持った食べ物と同じ、生活の必需品だよ」などと戯けたことを抜かすのだけはどうか勘弁して欲しい。ぼくははっきり言ってそういう如何にもな音楽好き気取りが大嫌いだ。そういう奴らはみんな聴覚を失った瞬間、呼吸を辞めて潔く窒息死でもするのだろうか。なんて言い遺して。ぜひやってみて欲しい。まあ、どちらにしても死には至れないだろうけれど。

 音楽は必需品ではない。心の支えとしてすら。だって他に代わりはいくらでもある。文学にしろ絵画にしろ、アニメや漫画、ネットにしろ。そもそもべつにつくられたものにばかり縋る必要もない。壁のシミや樹間の暗がり、石の質感や金属の冷たさだっていい。音という観点から見ても、虫や風のささやかな音、自販機や大型空調機の発する深遠にして美しいノイズなどがある。つくられた音楽にしか心の拠り所を見出そうとしない自称音楽好きどもは、よっぽど狭量で感受性の乏しい連中なのだろう。自らの罪悪や絶望すら忘れに忘れて、つい彼らに同情してしまいそうになる。

 

 ともかく、音楽は限りなく嗜好品と言える。つまりこの時点では、音楽も間違いなく性癖の対象となり得る。


 ――ところで、人はどうだろうか。

 人は人と交わらなければ生きていけない。人との交流はなかなか避けて通れるものではない。だから最低限の接触においては、人は生活に付き物の単なる実用品であると言える。

 けれど、一度深く関わってしまえば話は変わる。家具などと同じだ。人を思い入れのある個人と見なしたときから、それはいずれ飽きる触れ合える玩具へと変わる。心を満たすための嗜好品となる。

 そして、いつかは性癖による破壊の対象となる。


 けれど特別な人間や家具、ホビー・グッズなどと違い、音楽は無残なゴミクズへ変わり果てることがない。なぜだろうか。その答えはおそらく次の法則にある。

 ――視覚によって確認できたり、触れられるものしか性癖の対象とはならない。

 つまり、視認し触れられる実体を持たない存在は破壊の対象とならないのだ。

 おそらく、それらはぼくの異能によって壊せるものではないのだろう。

 さらに、たとえばタバコやコーヒーなどといった嗜好品も性癖の対象とならない。そのように迅速に消費される物品のひとつひとつに対してはなど抱く暇もない。それらはただ概念として解釈され、性癖の対象から逃れる。概念は視認も接触もできないからだ。

 おなじく音楽という概念そのものも壊せなければ、やはり楽曲やアルバムを壊すこともできない。もちろん、それらが記録された媒体は破壊することができる。一瞬で消し屑にできるだろう。しかし記録媒体を失ったところで、楽曲やアルバムの存在そのものが消えることはない。それらは他に数多くの複製を持つうえ、そもそも生み出された時点でやはりひとつの概念として確立しているからだ。それらをほんとうの意味で破壊することはできない。

 しかしこの観点は問題をあまりに複雑化させる。

 ――この世に理論的に複製をつくりえないものなど、概念として存在できないものなど、いったいどれほどあるのだろうか、と。

 ぼくはかつてこんな思考ゲームに傾倒したことがあった。


 人は、となりうるか。つまりは複製となりうるか。


 クローン体を培養機にて急速成長させ、ある時点までの記憶を複写しバック・アップとして保存しておくというような話はSF作品においてよくある話だ。

 その技術がもし仮に実用化されたとして。由梨ちゃんが死に、バック・アップのひとつが蘇生するなら、ぼくは同じ記憶を持ったべつの由梨ちゃんをそれまでと同じように大切に想うだろう。そこでは肉体の小さな差異などはおそらく問題にならない。そもそも、そこまでつぶさに彼女のカラダを知っているわけではないのだ。事実を知らされなければ気づくこともないだろう。そもそも、人の心も肉体も変わり続けるものなのだから気にするほうがおかしい。けっきょく、人は壊せないものとなりうる。概念へと昇華できる。それが兼ねてからの結論だった。

 人にしてそうなのだ。

 ましてやホビー・グッズやギターなど、いくらでも複製が溢れかえっている。本来、概念としてのそれらは視認できないはずだ。

 なのにぼくは、それらを数え切れないくらい壊してきた。

 けっきょくのところ、法則性など後づけのものに過ぎず、すべては恣意的なものでしかないのかもしれない。


 そこでこんな仮説が登場することになる。

 ――それがまさに悪魔の悪魔たるゆえんなのだと。


 ぼくはそこで考えるのをやめた。

 考えてしまうことが怖かったから。ほんとうに、怖かったから。

 音楽は今もぼくの心を支えてくれる。

 現実に対し、ズルをすることを赦してくれる。

 それで十分だった。

 ほんとうにそれで十分だった。


 ステレオからは昨晩とおなじように、フィッシュマンズの心地よい音楽が流れていた。ぼくはしばしそれに身を浸してから朝の支度を始めた。


 午後。校内は人で賑わっている。色とりどりの服を纏った老若男女がパンフレットやクレープなどの軽食を片手にうろついている。みんなリラックスして、程度の差はあれど楽しそうにしている。一般客に混じって校内を散策する生徒も、往来で客引きをする生徒もみんなこのひとときを楽しんでいる。

 けれど。その傍らで、少女は力なく立ち尽くしていた。ただやわらかくきめの細かい雨だけが、少女をたおやかに包み込み、冷たい世界から護ろうとしていた。


「お待たせ」

 小さな頭部を背後からわしわしとしながら声を掛ける。

「…………っ」

 一瞬の間を置いてから、振り向きざまにキッと睨みつけられた。どうしてだろう。上目遣いだというのにぜんぜんうれしくないぞ。

 タイミングを見計らっていた鏡子がその暴力的な小動物に声を掛ける。

「由梨、ごめんね。ずいぶん待ったでしょ」

「……うん。でも、気にしないでね鏡子ちゃん」

 しおらしい。無理もない。ほんとうに寂しい思いでぼくらを待っていたのだろうから。由梨ちゃんも鏡子に対しては実に素直でかわいらしい態度をとる。

 ぼくは気安くぽんと鏡子の肩を叩きながら輝くようなスマイルを浮かべて言う。どこぞの爽やか系うさんくさ男子のように。

「そうそう、鏡子。気にしても仕方ないぜっ」

 もう片方の手で、ついでにサムズ・アップも付け添える。これでますます好感度はアップのはずだ!

「けっ。おまえは気にしやがれ!」

 ほわい!? スネを蹴られた。痛い。しかも「けっ」て、なな、なんなんですか? てか今唾吐いたよね!? 絶対吐いたぁ!

「そうよ。詐欺師ヅラなんかして。今のかまち、結婚詐欺でもしているのがお似合いよ」

「……くっ」

 鏡子にまで畳み掛けられる。自分でも爽やかに笑ってみたときのうさんくささは自覚していたつもりだが、まさかそこまで言われるとは。つい、大仰に膝を折ってしまう。

「やーい、詐欺師~♪ くずヤロー♪」

 由梨ちゃんはここぞとばかりに追い討ちを掛けてくるし。ひどい。ひどすぎる。

「――ね、屑」

 あの。せめてヤローをつけてください。なんだか生々しくてきっついです。

「……な、なんでしょうか鏡子様」

「落とし前になにかおもしろいことをなさい」

 無茶振りだ。しかも一体なんの落とし前だ? 勘弁してほしいっす。

「早くしろ~♪ くずヤロー♪」

 満面の笑みで口ずさんでやがる。しかもか細い肘でうりうり小突いてきやがるし。ちくしょーっ。由梨ちゃんなんてかわいくないぞ! 絶対にかわいくない! 乳首に可憐な肘がこすりつけられてたって、決してなんにもカンジていないんだからな!

「ァア~~~~ッ――――」

 ぼくは今や姿を消してしまった某お笑い芸人の物真似を半ばヤケクソで決行し、万感の想いで由梨ちゃんにラヴを注入した。ついでに転げまわってお股もおっぴろげた。

「……っ」

「…………」

 ふたりは無言で駆け出した。無様に転げまわっていたぼくは置いてけぼりを食らう。しかも周囲の視線が異常に痛い。ぼくはなんとか気を強く持ち、場から逃げるように走り出す。

「ま、まってくれ! た、頼むから本気で引かないでくれ!」

 しかし彼女らの姿は遠い。声も届いているかどうか。というかあまりに酷い仕打ちだ。自分らでやらせておいて。

 ぼくは必死で走り続け、中庭の休憩所にてようやく追いつくことができた。

 由梨ちゃんは鏡子といっしょに笑っていた。ころころと、楽しそうに。

「……ひどいじゃないか」

「だって、生理的にちょっと……」

 由梨ちゃんはもごもごと口を濁らせる。一見申しわけなさそうに伏せてみせた顔には、しかし悪戯な微笑みを隠しきれていない。

 追随するように、鏡子も無言で頷く。

「ひどい! ひどいよ、ちみたち!」

「ひどかったのはかまちの物真似よ。凄惨と言ってもいいくらいよ。正直、本気で怖気が震ったわ」

 ちくしょーっ。凄惨なのはてめえの毒舌だよ! しかもマジで本気っぽいし。

「でも、かまち。声は似てたね~♪」

 まあ、そりゃね。元々オカマ声だし。毎日のように歌ってりゃ声のコントロールも上手くなる。こんなところで発揮されてもなにひとつうれしくはないがな!

 鏡子はこくりと頷いてから言う。

「ええ。そうね。オリジナルよりずっと気持ち悪かったわ。なにかネットリとしていて。性的なものを感じたわ」

 ほえ? それは肯定になっているのか? なんだかますます貶められている気がするが。


 などと間の抜けた思案に耽るのも束の間、ビラ配りの生徒がぼくらの間に割れこんできた。


「あの、わたしたちこのあと体育館でのライブに出演するんです。よかったら見に来てください!」

 中等部の生徒だ。あどけない。それでいて人の良さそうな顔立ちをしている。けれど。

「へえ。ライブするんだ~。うん、気が向いたら遊びに行くよ」

 ぼくはビラを受け取ってから適当に社交辞令でお茶を濁した。その少女はぼくらにお礼を告げて、またべつの人だかりへビラを撒きに行った。

「――ね、由梨ちゃん。お腹すいた?」

「……うん!」

「鏡子は?」

「そうね。わたしももうお腹がペコちゃんよ」

 鏡子のいつになくおどけた物言いに、場の空気は少し緩む。

「よっし! じゃ、なにか食べにいこっか。せっかくの学祭だしね。うんと楽しもうよ」

 ぼくは青白くすすけたベンチから立ち上がり、由梨ちゃんへ手を差し伸べた。

「うん! でも、うぅ……お金があんまり」

「今日ぐらい遠慮しなくていいよ。いいや、しちゃダメだ」

 由梨ちゃんの頭をまたわしわしとさせながら。

 由梨ちゃんはめずらしく過剰な反応を示さず、代わりに少し申しわけなさそうにしながらも精いっぱい素直な微笑みを見せてくれた。

「……うん。ありがと」

 そしてぼくは由梨ちゃんの手を取った。

 いっしょに、楽しい時間へ歩き出すために。


 ――それからぼくらは三人で色んな出店や出し物を見て回った。けれど由梨ちゃんのクラスで行なっているという展示は見に行かなかった。べつに見に行かなくても、あとで由梨ちゃんのつくったものを見せてもらう約束は取り付けてある。なにより由梨ちゃんは、自分がクラスでどういう立場にいるのかをぼくらにあまり見られたくないだろうから。

 そしてもちろん、体育館のライブにも足を運ばなかった。

 だってあんなもの。いわゆるグループに属した人間か、せいぜい彼らから認めてもらっている人間がステージに立って、多数派のみんなで盛り上がるだけのくだらない茶番じゃないか。たとえステージに立つ人間に悪気がなくとも、学校内の政治が暗黙に密接に絡んでいる時点でそこにはドス黒い悪意が横たわっている。仮に多数から疎まれる存在がほんとうに良い演奏をしたところで、それは反って反感を呼び寄せるだけだ。誰もほんとうに良い演奏なんて求めていない。だから由梨ちゃんはステージに立とうと思うことすらできなかったし、そんなところに由梨ちゃんを連れて行きたくはなかった。

 ――確かに、ビラ配りの少女は人が良さそうだった。けれど。どうしようもなく自らの罪業に鈍感なのだ。きっと、あの少女も気づかぬうちに巨大な悪意の渦へ加担しているのだろう。純真な善人のままにして。

 ちょうど一匹では無能な蟻が、集団の一端として高度な知能を創発させ、まったく無意識のうちにそれを行使し続けるように。


「じゃあね、由梨ちゃん」

「また明日ね、由梨」

 ぼくと鏡子は由梨ちゃんの家の前で別れの言葉を告げた。

 辺りはすっかり暗くなって、由梨ちゃんの仕草も表情も見えにくくさせている。

 由梨ちゃんはそんな暗がりのなかで立ち止まり、動こうとしない。

「……由梨ちゃん?」

 ハッとして、由梨ちゃんは笑う。それがぎこちない笑みであることは暗がりのなかでもはっきりとわかった。

「あのね……ありがとね。かまち、鏡子ちゃん。今日は、ほんとうに楽しかったよ」

 その言葉に嘘はなく、あいかわらず切実に由梨ちゃんの声は響く。けれど。やはり寂しさや不安は拭えないようだった。

「そうだね。楽しかったよ」

「ええ。そうね。楽しかったわ」

 由梨ちゃんは首を左右に大きく振る。

「うん。でもね。楽しかったのは、ふたりのおかげだよ。今日は、ほんとうにありがとう。かまちはいつもよりバカをしてくれたし、鏡子ちゃんも、いっしょに悪ノリしてくれた。それはね。ほんとうにうれしかったんだ。でもね……あたしは心配なんだ。ふたりは無理して騒いでくれたから。あとで余計にむなしくなっちゃうんじゃないかって」

 ぼくは由梨ちゃんのおでこを人差し指で突っつく。

「ぶぁーか。それは由梨ちゃんもいっしょだろ」

「そうよ。由梨。ありがとう」

「ぼくらは大丈夫だよ。今日は由梨ちゃんがいっぱい笑ってくれたから」

 今度は頭をわしわしとする。

「……もう。かまちはすぐなんだもんっ」

 由梨ちゃんは少しだけふて腐れてみせた。続けて、ぽそりとつぶやく。

「……ありがと。じゃ、ね」

 それから由梨ちゃんは勢いよく門扉を開け、家屋のほうへ歩いて行った。

 ぼくらは由梨ちゃんが家屋のなかに入るまで見届けた。玄関のドアを閉める前に、由梨ちゃんがこちらを向いて手を振ったのがぼんやりと窺えた。

 

 一呼吸置いてから、ぼくと鏡子は再び歩き出す。

「――かまち、あなたはほんとうに由梨を大切に想っているのね」

 長く続いた沈黙のあとに、鏡子がふと声を上げた。

「そう、かもね」

 そうなのだろう。だって。ニンゲンを、夢見ていたいから。

「……けれど。今のかまちの状態は、わたしにもよく解らないわ。前例もまるでないケースなのよ」

「……なにそれ。意味わかんないぜ」

 なぜか、少しだけ口調が横柄になった。

「けれどね、かまち。これだけは覚えておいて」

「……なんの話だよ?」

「いい?」

 強い語調で、瞳をぶつけてくる。なんだよ、なに無理してんだよ。その瞳、震えてるじゃないか。

「わかったよ。で、なに?」

 鏡子は小刻みに震える瞳で、凛として云う。

「あなたはいつかその夢から醒めてしまうと思うわ。けれど、忘れないで。紛れもなく、が由梨を大切にしている。夢から醒めてしまった後も、そんな事実があったということだけは絶対に忘れないでほしいの」

「……意味ないよ、それ。終わってしまったあとはもうなにも残らない。終わりって、そういうものじゃないかな。やっぱりすべては虚構に過ぎませんでした。それがようやく証明されました。めでたしめでたし。ちゃんちゃん。って――」

「――――っ」

「……え?」

 片の目が霞む。頬がやたらジンジンする。激しく鋭い平手だった。鏡子がこんなに熱くなるなんて。

「ごめんなさい。取り乱してしまったわ」

 鏡子は顔を伏せ、そのまま早歩きで場を立ち去ろうとする。

「え……ちょっと」

 呼び止めようとするが、鏡子の雰囲気に気圧されて言葉も足も続かない。

「いい? 忘れないでね」

 鏡子はそれだけを言い残して、冷たく鈍い暗がりのなかで遠ざかっていった。


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