おまけ:彩色少女玉虫イロハの比喩的な日常(ショートスタイル)


     ♢ 1 ♢


「そういえばイロハってさ、スイーツの食べ歩きってまだやってんの?」

「うん、趣味だからね。それがどうしたっ」

「体重気になんない?」

「気にしない」

「ほんと?」

「何、しつこいな」

「一緒に(きらーん)走らない?」

「ムリムリ。あんたについていけるのはイノシシくらいのもんよ」

「……そういえば子供のころ山で追い越したことあったっけ」

「マジか」




     ♢ 2 ♢


「イロハ、なんで最近青い服ばっか着てんの?」

「ふっふっふ、あたしにいわゆる<蒼の時代>が到来したのは忘れもしない雷の夜――」

「あ、やっぱりいいわ」

「えー」




     ♢ 3 ♢


「カケル、あたしのことはいいから……行って」

「でも」

「ざまあないね、あたしとしたことが……身体がいう事を聞かない」

「……イロハ?」

「大丈夫、少し休んでから行くわ」


   * 黄昏機関支部 *


「イロハはどうした。今日は定例報告のはずだが」

「さっき電話したら徹夜でゲームしてて、寝落ち寸前でした。たぶん今頃は爆睡中かと」

「なるほど。……あー、今上くんいるかね、イロハを今すぐ叩き起こして連れてこい」




     ♢ 4 ♢


「イロハ?」

「ん?」

「他人と違う力があるって気づいたとき、どう思った?」

「あたし超カッケーって……いやいやいや、カケルの言いたいことはわかるよ。でもさ、『自分がみんなと違う』なんてアタリマエだし。そんなことで悩んでるより、どう使ったら役に立つか考えた方が絶対お得じゃん?」

「ほんとイロハって……イロハだね」

「サンキューベイべ」




     ♢ 5 ♢


「カケルはさ、もし明日で世界が終わるとしたら、何したい?」

「とりあえず食事して、一眠りして、本当に終わるのか確かめに行く……かな」

「最後に逢いたい人とかいない?」

「カレシいないの知ってるくせに。……まあ、あんたでいいや。こら、笑うな」

「あたしは甘いもの死ぬほど食べたいな」

「太るぞ」

「そうしたらカケルの日課ランニングにつきあう」

「……今まで一回も走った事ないくせに、よく言うよ」

「世界終わってるから大丈夫」

「どういう理屈だ。でもそれだと結局、あんたも最後に逢うのは私ってことに」

「あ、携帯鳴った」

「お仕事、だね」

「行きますか」

「行こう」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

SF単品集・僕たちのヒーロー 連野純也 @renno

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ