第15話背信の徒。 

 そこは、死者の集う迷いの神殿だった。敗れた男神が流れ着いた場所でもあった。


『罪もなき者をこそ守るべきなのに、姫神のなさるわざときたら』


「そうであろうそうであろう。私はそれを正さねばと……」


『誰であろうと救うべきというのは、間違っている』


「しかり、しかり」


 男神の妄執に憑りつかれた少年、暗がりの奥でむくりと起き上がり、悟ったように、


「なべての罪をあがなえ、女神」


 光のない目でそうつぶやき、勢いをつけて天上へと舞い上がった。





 川下に駆けつけた女神、少年を見て一言。


「おまえは無事だったのですね! よ、よかった……」


「……」


「なぜおまえは空を飛べるの? はっ、そのブーツは」


「私が幼いころに母が父の形見と言ってよこしたものです」


「それは星辰の神の持ち物ではないですか! ま、まさかおまえは亜神デミ・ゴッド!」


「そうなるのでしょう。女神、私はあなたを討つ!」


「!」


 女神はまざまざと、少年の瞳の中に映る男神の妄執を見た。慎重に口を開く。


「おまえはなにか誤解をしている……」


「いいえ、女神。みな、あなたのために死んでいった。各地で戦乱が起こり、あなたの仕打ちを恨む声が聞こえませんか」


「そんな……私は誰一人殺してない!」


「そうでしょうか?」


「なにを?」


 少年は腕を広げてみせた。その中に悪夢がうつりこむ。


「!」


 駆けていく子供が見えた。その腕の中には人形。見たことのある……。


「あれは!」


「よく、見るのです」


 地をえぐる爆風。その一瞬の間に見えた哀しいまでの子供の表情。たすけてと口が動いた。


「た、助けられなかった……」


「そうです、女神。それこそあなたの罪なのです」


「うう……」


「だから、私はあなたの存在を滅ぼす! その涙ごと!」


「私は……私は……」


 少年は指でさしまねく。かつての仲間を。


「見たか。おまえたちが女神と仰ぐ者の正体を」


 男神にとりついて谷に落ちた少年たちが、ゆらりと立ち上がった。


     ◆   ◆   ◆


(これが信仰者の姿か? っていう……そんなシーンです)

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