第14話悪役はかくあるべし。

 石の神殿でたたずむ女神の前に、小枝のように華奢で、やわらかな面差しの少年が現れた。


「女神、私も戦います」


「おまえは無理です。さがりなさい」


「せめておそばにいさせてください」


「許しません」


 ショックを受ける少年。


 すがりつくその手を、女神はやさしく、けれど明確に振り払ったのだった。


「そのようにやわらかい手をして、誰を、何をするつもりなのです」


「女神、私はあなたをお守りしたくて……」


「おまえを戦場に連れていくことはできません」


 厳しい選別の末、連れて行くのは精鋭に決まった。


 だが少年は言いつのる。


「女神、私をお連れください」


「無駄なことを……」


「だって私は、あなたを愛するために生まれてきたのだから」


「いけません」


「そ、そんな……女神」


 少年は、崖から滑り落ちた。落ちた谷底で、あっけなく水流にのまれていった……。


 声もない女神。


(ゆるさない。私を許さないあなたを、私はゆるさない。あなたは……おまえは女神ではない!)


 天を恨みながら、少年は川下へ流されていった……。


 このとき、少年の姫神への愛は、確かに憎しみに変わったのだった。


「なんと……せめて命が無事でありますよう……すぐに助けにいきますからね」





 そこへ、平穏な村の田畑を焼き、恐ろし気な形相をした男神がやってきた。


「断じてこの世は渡さない」


 姫神は涙をこぼし、たった一言、


「ひどいことを……」


 そして開戦。


「私は……あの少年を助けに行かねばならない、どうか無事でいて……男神、私は決着を急ぎます」


 女神は大きく天に細い腕をさしのばした。


 男神の表情が瞬間、凍り付いた。


「女神、何の真似だ……」


「あなたが想像したとおりのことです」


「むお! この風は……やめろォ!」


 神に風は付き従うもの。女神はそれを体現しえる唯一の存在と言えた。なぜなら、男神は風と対極にある存在だったからだ。


「ふっふはは……」


「何がおかしいというの?」


 目を見開く女神に男神は言う。


「先陣切ってやってきたもののふの王者がそれしきで参ると思ったか」


 確かに。いかづちと風雨にさらされて危険なのは味方も同様。


「しかし、おしいぞその力……どうだ、私と共に来ないかね」


「馬鹿な」


 一言で切り捨てる。それは剣の女神にふさわしい物言いだった。彼女は圧倒的力を見せつける。それでもこの男神は獰悪どうあくに笑むのだ。――笑むことが、できるのだ。


「血にまみれた女神よ、呪われろ」


「女神、危ない!」


 危機を察して少年たちが突進していった。


 と、その身に雷を浴びて男神は敗れ――。少年たちともども、深い谷へとまっさかさま。


     ◆   ◆   ◆


(悪役らしくていいね! 一緒に落ちちゃった子たちはかわいそうだけれども。少年も元のプロット通りに戻してと……ラスボスだからね。なんの恨みもないのに女神にくってかかるとか、ありえない)

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