第13話けがされた女神。



 汚泥の中で彼女はまだ生きていた。足を持って引きずられ、長い髪の間から懇願のまなざしを向けるも、城の兵士は気づかない。真っ暗な洞窟にたくさんの死体と共に閉じ込められ、火を放たれる。


 これではまるで……。


 疑念は彼女が生還してから、はっきりとした。


「人間ではない!?」


 それは畏れられた。だが、中にはしたたかなものもいて、


「魔女が利用できる時代が来た……」


 時は2XXX年。彼女は生きた爆弾として、各地の村々に派遣され、何度も爆破されたが生き残った。





 血塗られた日々。命令により爆弾の人形を抱いて、特攻する少女。何度村々を滅ぼしても生還するので利用される。誰も彼女を人間扱いしない。「コードネーム・ゴッデス」の名で知れ渡るが、その正体が幼い少女だとは誰も知らない、ゆえに気づかれずに実行できる。無垢な瞳の少女。しかし効率の悪さが目立ち、上層部がそろそろ他の利用法を考え始める。不死の人間など、いるわけがない。これは人間ではないのだ。ならば消してやればいい。彼女が爆弾を運んだあと、重火器で村を消炭にする。だが死なない。そして実は彼女は特攻する際、周囲の人々にテレパシーで逃げるように言って聞かせていた。生存率は百パーセント。


 とある村にて、爆弾を爆破した後、テレパシーによって逃げることのできた人々が集まってきた。爆心地に一人立っている少女。


「ああ、あなたなのですね。私に逃げろと言ってくださったのは」


「こうなることがわかっていて……」


 村の家並みは粉々だった。それが少女を中心に被害をこうむった形になっている。彼女は髪の毛一本、傷ひとつついていない。人形の形をした爆弾を破裂させたというのに。


「むごいことをさせる……おいたわしや、女神」


「そうだ、あなたは姫神さまなのだ」


「だから人間ではない。道理で私たちを助けてくれるはずだ」


「女神! 女神が降臨された!」





「我こそは剣の女神」


 と、彼女は名乗り出た。


 流れるような明るい髪の毛に西日がふりかかり、血にも勝る紅。すっと通った鼻梁は知的で気高く、瞳は茶水晶のごとく美しい。


 山間の奥に降り立った姫神のもと、戦いの気にあふれた有志が現れ、手に手に松明を持って、各地へ知らせにはせた。その肌は白、黄、赤、黒。タトゥーを施した者もいる。頭髪は短く刈り込んだ者もあれば、性がわからぬほど整えた者もおり、いずれも若き十二、三歳の少年少女たち。戦闘訓練に明け暮れ、姫神が降り立つのを地上で今か今かと待っていた。





「わっはっはっはー! 出たな姫神。散れ、小僧!」


 と、男神はナタをふるい、使者をその手にかけた。


 彼は血塗れたナタを放りやり、重々しい金属の鎧を持ってこさせた。


     ◆   ◆   ◆ 


(これで男神に戦う意思があることが伝われば吉)

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