眼入希望者のかたは要注意!

ちびまるフォイ

あなた、気付かぬうちに犯罪者かもしれませんよ

「昨日、はじめて国会の中を見てきたよ。いやーすごかった」


「え!? 一般人が入れるの!?」


「入れないよ。だから政治家の目の中に入ったんだ」


友達が自慢げに話していたことを詳しく聞くと、

最近は人の目の中に入ることができるらしい。科学ってすげー。


「俺もちょっと入ってみようかな」


「募集してるところもあるから、行ってみるといいよ」


友達から募集サイトのURLをもらい、そのうちの1人のところへいく。


「あら、あなたも眼入希望者?」


「は、はいぃ!」


めちゃくちゃ美人が待っていて驚いた。


「私の見ている世界を体験したいなんて、見る目があるわね」


「痛くないんですか?」


「大丈夫よ。さぁ、目の中に入って」


募集要項に書いてあるように1時間単位のお金を払って目の中に入る。

まるでプラネタリウムのように、ドーム型の風景が映し出されている。


「すごい。これがあの人の見ている世界なんだ」


美人が見ている風景は俺が普段見ている風景とまるで違う。

行き交う人が熱をもった視線をこちらへ送る。


こっちまでめちゃめちゃモテるような気分になって楽しい。


「すごい! ほかにどんなのがあるんだろう!」


美人にお金を支払ったあとで、次の眼入希望者を探す。

今度はとある冒険家という肩書にひかれた。


「やぁ、僕はこれまで世界のさまざまな名所や秘境を冒険してきた。

 僕の目の中に入れば、君が今まで見たこともないような雄大な風景が見られるよ」


「お願いします!!」


目の中に入れてもらうと、冒険家の言葉が聞いていた以上のものだった。

インドアな俺では画像でしか見たことのない風景も、

この目で……というより、冒険家の目で見るとぜんぜんちがう。


なにより、目の中で最高の風景を苦労せずに

おやつでも食べながら眺めることができるんだからこれ以上の極楽はない。


「どうだった? 満足できたかな?」


「はい!! もう……言葉にできないくらい感動しました!!」


冒険家にお金を払って次の募集を探した。




「……意外と見つからないなぁ」


試した人間が美人と冒険家とでどちらも大人気だったこともあり、

他の眼入希望者の目の中に入っても新しい感動はなさそうだ。


お金欲しさにニートからの応募も多いが、

1日中パソコンの画面を見るだけの目の中に入っても面白くはない。


「……ん? なんだこれ」



>目の中に入れば日常の裏側が見られます



怪しくも魅力的な文面に引かれて眼入募集者のところへ向かった。

待っていた人間を見て、なるほどと納得した。


「カメラマンさんだったんですね」


「ああ。それもパパラッチさ。オレらは日常の裏側を追っているから

 この目の中に入れば世界の裏側を知ることができるぜ」


「ぜひ!! ぜひ入れてください!!」


「おっと、だがそれには条件がある。なにせこの仕事、秘密が守れるかが重要だからな」


「どうすればいいんですか?」


「まずはアンタの目の中に入れてもらう。

 アンタの目の中に入れてもらえれば、アンタのひととなりがわかるだろう」


「なるほど。それで目の中に入れてもいいと判断できれば、入れてくれるんですね」


「つーわけだ」


カメラマンの試験を突破するため、俺はカメラマンを目の中に入れた。

目の中に入れても別に普段となにも変わらなかった。


最初こそ、一緒の風景を見ていると緊張していたが

しだいに意識しなくなり普段通りの日常を過ごしていた。


が、繁華街を訪れたとき。


カシャ!!


目の中からカメラのフラッシュが光った。


「わ! な、なんだ!?」


「おい兄ちゃん。なに勝手に写真とってしくさっとんねん!!」


たまたま俺の視界入った暴力団の幹部を、目の中のカメラマンが写真撮ったらしい。

でも、目の中に誰がいるかなんて相手からはわからない。


「俺じゃないんです! 目の中にカメラマンがいてそれで……」


「盗撮してたっちゅーわけかぃ!!!」


ヤクザパンチで吹っ飛ばされた。

ヤクザが去ってからカメラマンへの不満が爆発した。


「ちょっと! なに俺の目の中で写真撮ってるんですか! やめてくださいよ!」


「……」


「俺は盗撮に加担する気なんてないんですよ! 早く出てきてください!!」


「……」


カメラマンは外に出てこない。

やっと俺は自分が騙されたことを悟った。


「こいつ、最初から目の中に入れる気なんてなかったんだ。

 自分が仕事しやすい隠れ蓑を作るために、俺の目の中に入ったんだ……!」


目の中なら怪しまれないし、見つかっても自分に害はない。


電車に乗ってると向かいに座る女子高生をカメラマンが盗撮。

たまたま通った場所で不倫をパパラッチ。

政治家がお忍びでやってきた瞬間を撮影。


勝手に写真を撮られた彼らの怒りの矛先は俺に向く。


「「「 あんた! なに勝手に撮ってるんだ!!! 」」」


こんな日常が続いてもう肉体的にも精神的にも限界になった。



「おい大丈夫か? だいぶ痩せてるけど……」


「目の中に籠城するカメラマンが悪さするんだ……」


友達に相談するしかなかった。


「それじゃとっておきの方法を教えてやるよ」


友達はその方法を耳打ちした。

さっそく俺はコンタクトレンズを買いに行った。



「なんじゃこりゃあああ!!!!」


コンタクトを付けたとたん、目の中から悲鳴があがった。

わざと度のあわないコンタクトを付けたせいで風景はゆがむ。


これじゃ商売あがったりだ。


たまらずカメラマンは俺の目の中から出てきた。


「はぁはぁ……なんてことしやがる!」


「俺の目の中で好き勝手するからだ!」


「へっ。騙される方が悪いんだ。もうてめぇの目の中には入らない! あばよ!」


カメラマンは捨てセリフとともに去ろうとした。


「待てよ。まさか俺の復讐があんたを目の中から引きずり出して終わりだと思ってるの?」


「へ?」


俺はカメラマンの体を指さした。




「度の合ってない目の中から出てきたらどうなるか。考えなかったようだな」



度の合わないレンズを経由して外に出たせいで

カメラマンの体はぐにゃぐにゃに歪んでいた。

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