歓喜そして絶望

方舟の完成

秋月達は喜んでいた。

ついに、「平行時空転送装置」が完成した。

秋月達開発部が二年の歳月をかけたこの装置は、二ヶ月後正式に試験運用が許可された。

「平行時空転送装置」の理論はこうだ。

この世界はS字に流れておりそのS字の時空が無数にあると考えられている。そのS字の時空を飛びこえるのがこの「平行時空転送装置」の理論である。細部は地球連邦高官でも知るものは少ない。

そして現在の技術では、同時間軸より過去への転送は精神的負担が大きく現在は実用されていない。技術改新で同じ時間軸に戻る事は可能であるとされている。そして理想の平行時空転送距離は平行時空転送における最低時差三年から十五年であると予想され、

それ以上の平行時空転送は身体的かつ精神的を崩壊される恐れがある。

だが一回の転送がその範囲内であれば何度転送されても影響は少ないと思われる。


そして平行時空転送装置の試験運用は当然ながら極東本社技術開発試験運用一課に一任された。

平行時空に転送される人員は極東本社技術開発試験運用一課所属の秋月をリーダーとする技術班、山城をリーダーとする有事の際の戦闘運用班、総勢600名を越える。


「ナビゲーションシステムテスト中、秋月さん聞こえますか、聞こえますか」女性らしい清流のような声が、秋月の耳に着けた小型通信機から聞こえる。

「あぁ、聞こえる。」自信に満ちた声だが、緊張の色も見える声で秋月は返事をした。

「これからこちらの時空から通信を行う名取由良です。」

「あぁ、君の事は知っているよ」秋月が何気ない声で言う。

名取由良は秋月達と同じく試験運用一課だが、こちらの時空での研究などがあるため総員は行けないため約半数の技術者は残る予定だ。名取もその内の一人だ。今回は残留するが彼女もやはり優秀な技術者であり、別時空に行きたがっていたようだ。


各機器の点検も終了し、いよいよ明日

「平行時空転送装置」の試験運用が開始される。どのような事が起きるかわからないので

秋月達数名が想定マニュアルを作っていると

「秋月さん、秋月さん」と名取が研究室に入ってきた。そうすると、

「これ、うちの実家の神社の御守りです。

本当は私が父にもらったのですが私は行けないので…」と悲しそうな声で言った。

そうすると、秋月は、「ありがとう、君の分まで頑張るよ。」と張り切って言った。

そう言い名取と別れた秋月は、

「ようやく夢にまで見た平行時空に行ける。

だが自分だけではなく今回行けない仲間のためにも貴重なデータを持ち帰るぞ。」と内に秘めたる思いを小さい声で言った。




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世界紡ぐパンドラの箱 @HiramasaRaito

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